第370話 実技試験 その3

「くそ、暴れるんじゃねぇっ!!」

「馬鹿、迂闊に鉄格子に触れるな!!手を噛みちぎられるぞ!!」

「たく、ちゃんと睡眠薬入りの餌を食べさせておけよ!!」

「プギィイイイッ!!」



数名の男性の声が響き渡り、同時に豚や猪のような声が鳴り響く。やがて訓練場に檻を乗せた荷車が運び込まれ、数名の冒険者と職員、そして檻の中に閉じ込められた「オーク」が存在した。


レイナは大迷宮でオークを見かけた事があるが、冒険者と職員が連れてきたオークはかつてレイナが大迷宮で遭遇したオークよりも体格が小さく、毛皮の色も微妙に違う。


しかし、檻の中に閉じ込められているオークは暴れ狂い、鉄格子を今にも破壊しかねない勢いで身体を叩きつける。その様子をみたリンは冷や汗を流す。



「おいおい、随分と生きのいい奴を連れてきたね。他の奴はいなかったのかい?」

「そ、それが……このオーク以外のオークは全滅しました。どうやら空腹に耐えかねて檻の中で同士討ちを行っていたようで……」

「何だって!?そいつはまた、とんでもない奴を連れてきたね」

「あの……次の対戦相手はオークなんですか?」



リンは職員の言葉を聞いて驚愕の表情を浮かべ、一方でレイナは次の対戦相手がただのオークだと知って拍子抜けしてしまう。確かにゴブリンと比べると強敵なのは間違いないが、それでも今更オーク程度の相手に怯える事はない。


だが、リンとしては職員からオークが他の仲間を食らったという話を聞いて頭を掻き、このままレイナと戦わせるのは危険だと判断した。



「こいつはちょっとまずいね。仕方ない、こいつは始末して別の魔物を用意するしかなさそうだね。ほら、あんた達!!すぐに始末しな!!」

「え、殺すんですか!?ここまで連れてきたのに……」

「仕方ないだろう、同族を食らったオークは進化種になりやすいんだ。今のうちにこいつを仕留めないと面倒な事になるよ!!」

「進化種?」



レイナはリンの話を聞いてオークにも進化種が存在するのかと驚く。ゴブリンの進化種がホブゴブリンというのは知っているが、オークにも進化種が存在する事は初耳であり、レイナは狂暴そうなオークに視線を向ける。


檻の中に閉じ込められているオークは興奮を抑えきれないように鉄格子を掴み、やがて徐々に全身の体毛が逆立ちはじめ、その様子を見ていたリンが目を見開く。



「こいつ!?まずい、もう進化種になり始めている!!すぐに始末しないと大変な事になるよ!!」

「や、やばい!!突き殺せっ!!」

「くそ、くたばれっ!!」

「プギャアアアアッ!!」



冒険者達はリンの言葉を聞いて慌てて槍を構え、鉄格子の隙間からオークに向けて突き刺す。だが、彼等の槍はオークの肉体を貫通する事はなく、それどころかオークは四方から突き出された槍を叩き落とし、鉄格子を掴んで力ずくでへし曲げる。



「プギィイイッ!!」

「う、うわぁっ!?」

「やばい、出てきやがった!!」

「ちっ、面倒だね!!」



鉄格子を破壊して出現したオークに対してリンは面倒そうに格闘家の称号を持つ人間が扱う「闘拳」という武器を取り出すと、腕に装着する。外見は腕鉄甲に近く、彼女はオークが他の人間に危害を加える前に始末しようとした。


だが、檻から抜け出したオークはやがて顔面に生えている牙をまるでマンモスの牙のように伸び始め、肉体も一回り程大きく変化する。その光景を見たレイナは初めて魔物が進化種へと変異する姿を目撃した。



「プギィイイイッ!!」

「ちっ、オオツノオークに進化しやがったのかい……退いてな、ここはあたしがやるよ!!」

「ひいいっ!?」

「うわぁっ!!」



リンはオークの変貌した姿を見て「オオツノオーク」という進化種に変化した事を悟り、他の人間に警告を行う。ギルドの職員どころかここまで運んできた冒険や達も悲鳴を上げて退散すると、オオツノオークはリンと向かい合う。


彼女は闘拳を身に付けた状態でオオツノオークと向かい合い、冷や汗を流す。ゴブリンよりも強力な力を持つオーク、しかも進化種に変異したばかりのオオツノオークは並大抵の冒険者では相手にならない。


しかし、この場でオオツノオークを倒せるほどの力を持つ存在は自分以外にはいないと考えたリンは覚悟を決めて立ち向かおうとした。だが、彼女が仕掛ける前にオオツノオークは鼻を鳴らす仕草を行う。



「プギィッ!?フガ、フガガッ……」

「あん?何の真似だい……うおっ!?」



オオツノオークは何かに気づいたように首を向けると、視線の先には金網に閉じ込められたレイナの姿が存在した。彼女はオオツノオークの方角に向けて掌を伸ばし、自分に気づいたオオツノオークに向けて挑発するように手招きを行った。

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