第368話 実技試験 その1
「あれ、これ何ですか?」
「ああ、そいつは巨人族用の盾だね。頑丈なんだけど、人間が扱うにはでかくて重くて役に立たないよ」
「確かに……ちょっと大きすぎますね」
壁に立てかけられた盾の中ではひと際大きく、円形型の盾がある事に気づいてレイナは圧倒される。盾の大きさは軽く1メートルを超え、試しに触れてみるがレイナが扱うには大きすぎた。
もしもレイナが重力を操る魔術師ならばこの盾を利用して攻撃できたりもしたかもしれないが、生憎と魔法と戦技は扱えないレイナでは扱うのは不利な防具だと判断し、今まで通りに剣だけで戦う事に決める。
「よし、この剣だけで充分です。お願いします」
「いいのかい?何だったら皮の鎧ぐらいは用意するよ?」
「大丈夫です、避けるのは得意なので」
「はっ、人間の癖にあたしら獣人みたいなことを言うね。いいだろう、じゃあそこにある闘技台に上がりな」
基本的には獣人族の戦士は重武装よりも軽装を好み、理由としては彼等は動きやすいために余計な物を身に付けないのが一般的だった。獣人族の最大の特徴は運動能力の高さであるため、動きを阻害する重武装を好む戦士は滅多にいない。
人間でありながら獣人族のような発想を持つレイナに対してリンは興味を抱き、彼女は石畳で構成された闘技台へと上がるように促す。闘技台の規模は10メートルは存在し、更に周囲を金網で封鎖されていた。出入口は一つしかなく、レイナが闘技台に上がるとリンが合図のベルを鳴らす。
「お~い、試験だよ!!早く奴らを連れてきな!!」
「は、はい!!」
「すぐに準備します!!」
リンが合図を出すとすぐにギルドの職員と思われる者たちが現れ、彼等は数人がかりで大きな檻を運び込む。そして檻を闘技台の中へと移動させると、職員は闘技台から抜け出して外から出入口の施錠を行う。
闘技台に残されたのはレナとリン、そして職員が運び出した檻だけだが、その中に入っている魔物を見てレイナは呆気に取られる。てっきり、力の弱いゴブリンでも連れてくるのかと思ったが、檻の中に閉じ込められていたのは予想外の生物だった。
「キュイッ?」
「キュキュイッ!!」
「キュルルルッ……」
「……兎?」
奇怪な鳴き声を上げているが、レイナの前には3匹の兎が檻の中に閉じ込められていた。普通の兎ではないらしく、額の部分には角が生えているが、その内の兎の2匹は白毛に対し、もう1匹は全身が黒色の毛皮で覆われていた。
あまりにも可愛らしい外見の兎を見てレイナは戸惑っていると、リンは笑顔を浮かべて檻の扉を掴み、事前に説明を行う。
「あんた、ヒトノ帝国から来たんだろう?なら、こいつらに見覚えがないのは無理がないね。こいつの名前は一角兎、外見は可愛らしいがこう見えても狂暴で危険な魔獣だよ」
「キュイッ?」
「か、可愛い……」
リンの話を聞きながらもレイナは一角兎と呼ばれた兎たちに視線を向け、可愛らしく首を傾げる姿を見てときめく。しかし、そんなレイナに対してリンは忠告する。
「こいつらは見た目は愛らしくて弱そうに見えるけどね、その外見に騙されて迂闊に近づくと痛い目を見るよ。新人の冒険者どもが特にこいつらの被害を受けやすいからね」
「はあ……こんなに可愛いのにそんなに危険なんですか?」
「それを今からあんたが確かめるんだよ!!ほら、まずはこいつらを倒してみな!!制限時間は3分、それまでにこいつらを倒せば最初の試験は合格だよ!!」
『キュイイイッ!!』
レイナの質問に対してリンは檻の鍵を開き、扉を開いて3匹の一角兎を解放する。檻が開かれた瞬間に一角兎は即座に檻を抜け出し、あちこちを飛び回る。
試験が急に開始した事にレイナは焦りを抱くが、一角兎たちは最初に外へ抜け出すと逃げ出そうとして闘技台を駆け回る。だが、周囲を完全に金網包囲されている事に気づくと、逃げ場はないと判断したのかレイナとリンに視線を向けた。
「キュイイッ……」
「キュキュイッ!!」
「キュイッ」
「うわぁっ……威嚇してるんだろうけど、可愛くて全然怖くない」
「油断するんじゃないよ!!そいつらの角には気を付けな!!」
一角兎はレイナとリンに対して鳴き声を放つが、その姿さえも可愛らしく、レイナはつい頬を緩んでしまう。そんなレイナに対してリンが警告を行った瞬間、1匹の一角兎がレイナの元に向けて駆け出す。
「キュイイッ!!」
「うわ、危ないっ!?」
一角兎はレイナの顔面に向けて飛び込み、額の角を突き刺そうとしてくる。確実に急所を狙って飛び込んできた一角兎に対してレイナは咄嗟に顔を避けると、一角兎はそのまま金網に突っ込む。
「キュルンッ!!」
「おわっ!?」
そのまま金網に衝突するかと思われた一角兎だったが、なんと空中で体勢を整えて逆に金網を足場代わりに利用し、そのまま背後からレイナの後頭部を狙う。本能的に危険を察知したレイナは頭を下げて回避に成功するが、続けて別の一角兎が駆け込む。
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