第367話 戦闘指導員リン
「リンさん、こちらの方がリンさんに用事があるそうですが……」
「そうなのかい?でも、あたしはあんたの顔に見覚えがないね。それで、何のようだいお嬢ちゃん」
「あ、あの……貴女がリンさんで間違いないですか?」
「ああ、そうだよ。ここでリンという名前の職員はあたしだけだよ。それで、何のようだい?」
「えっと、こ、これを渡すように言われたんですけど……」
念のためにレイナは女性に名前を尋ねると、彼女は頷いて自分がリンである事を示す。レイナは自分よりも1メートル以上も高い女性を相手に戸惑い、この姿のレイナも身長は170センチを超えるので女性としてはかなり大きいのだが、リンと比べたら大人と子供ほどの身長差があった。
リンの大きさに圧倒されながらもレイナはリルからの紹介状を受け取り、彼女に差し出す。それを見たリンは訝し気な表情を浮かべながらも受け取ると、差出人の名前を見て驚く。
「こいつは……なるほど、あのおてんば御姫様の関係者かい」
「おてんば……?」
「あの姫様には昔から世話を焼かされてるからね。いくら姫様だろうが、あたしにとってはおてんば娘さ」
紹介状を受け取ったリンは面倒そうな表情を浮かべ、彼女は眼鏡を取り出すと紹介状の内容を確認する。そして書かれている内容を読み解くと、リンは少し驚いた表情を浮かべてレイナへと振り返る。
「へえっ……あの御姫様がこんな事を書くなんて、どうやら余程気に入られているらしいね」
「えっと、何て書いてあったんですか?」
「あんたを冒険者として登録させて欲しいと書いてあったんだよ。但し、いくら御姫様の頼みでも冒険者登録をするには試験を受けてもらう必要がある」
「え、試験?」
レイナは事前にリルにこの紹介状をリンに渡せば冒険者登録を行ってくれると聞いていたのだが、リンはリルの紹介であろうと贔屓は出来ず、試験を受けるように告げた。
冒険者になるためには試験を受けて合格しなければならず、彼女は受付から身を乗り出すと、レイナに自分に付いてくるように促す。
「さあ、あたしに付いてきな。あんたの実力を確かめさせてもらうよ」
「あの……わっ!?」
「ほら、さっさと来な!!」
「ちょちょ、リンさんそんな乱暴な……!!」
「ああ、あの娘が連れていかれる……」
「鬼教官が直々に試験なんて……運がなかったな、あの子」
リンはレイナの服を掴むとそのまま片腕で持ち上げ、奥へと連れていく。その様子を見ていた冒険者達は同情したような表情を浮かべ、職員たちも可哀想な視線を向けた――
――レイナは階段を下りて冒険者ギルドの地下へと連れ込まれると、どうやら冒険者の訓練場らしき広間へと辿り着く。広間には様々な訓練器具が配置され、壁際には訓練用の武器や防具が多数並べられていた。
リンはレイナを解放すると彼女に壁に並べられている武器と防具を指差し、好きな物を選んで身に付けるように促す。
「まずは実技試験を受けてもらうよ。あたしが今から適当な相手を用意してやるから、ここに並べられている武器と防具を身に付けて戦いな」
「え?えっと……自前の武器じゃダメですか?」
「それは駄目だね、あくまでもあんたの力量を測るための試験だからね。優れた武器を使って敵を倒してもそれがあんたの実力とは認めないよ。それにここにある道具は全部訓練用に作り出されているからね、見かけはボロいけど頑丈に出来ているから簡単に壊れる事はないよ」
「はあ……」
まさか実技試験を受けさせられるとは思わなかったレイナだが、リンの言う通りに従って壁に並べられている武器や防具を調べる。普段から訓練に利用されているせいかどの武器や防具も傷がついていたり、外見が少々汚れていた。
(どれもボロボロだな……解析)
この流れでは試験を受けなければリンも納得してくれないと思ったレイナは、仕方なく解析を発動させて武器や防具の状態を調べていく。その結果、比較的に状態が悪くなくて頑丈そうな武器を選ぶ。
一通り確認を行うと、レイナが目に付けたのは刃が所々欠けている「バスタードソード」だった。長剣や大剣ならば使い慣れているため、こちらの武器ならば力任せに使っても簡単には壊れないかと判断したレイナはバスタードソードを手にすると、軽く素振りを行う。
「せい、はあっ!!」
「へえっ……剣の扱い方は心得があるようだね。それにしてもあんた、意外と見かけよりも力があるね。重くないのかい?」
バスタードソードを手にしたレイナを見てリンは意外そうな表情を浮かべ、外見からは想像できない腕力でレイナはバスタードソードを振り抜く。しかも両手ではなく、片腕で振り回すのだからリンも驚きを隠せない。
レイナはバスタードソードを何度か素振りして手応えを感じると、この武器だけでも問題はないと思ったが、念のために防具の方も確認を行う。すると、防具の中で一際目立つ道具を発見した。
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