冒険者編

第366話 謎の美女

――ケモノ王国の王都に存在する冒険者ギルド「黒虎」所属する冒険者の数は1000人を軽く超え、その中でもたった3人しかいない黄金級冒険者の捜索を頼まれた「レイナ」は冒険者ギルドの建物の前へと辿り着く。


冒険者という存在は国にとっても重要な組織のため、ケモノ王国側もこれまでは冒険者ギルドを優遇していた。しかし、先日の白狼騎士団の一件で冒険者ギルドと王国側の関係に軋みが生じ、よりにもよって冒険者ではない人間に巨塔の大迷宮が制覇されたという事実に冒険者ギルド側は不満を抱く。


だが、文句を告げようにもこれまでに冒険者の中で巨塔の大迷宮の第五階層に到達した人間は一人しか存在せず、しかも巨塔の大迷宮を封鎖に関しては冒険者側の被害が大きく、仕方なく巨塔の大迷宮の出入りは禁じられた。


この判断は当時の冒険者ギルドのギルドマスターが容認した事であり、ギルド側としても大迷宮の攻略を果たした事自体は責められない。


しかし、この一見で冒険者達は面子を潰されたに等しい。よりにもよって普通ならば冒険者が攻略するはずの大迷宮を最近作り上げられたばかりの騎士団が攻略したとなれば心中穏やかではない。


そこでリルはレイナを送り込む際、騎士団の関係者ではない方が警戒されないと判断し、彼女にはあくまでもヒトノ帝国から訪れた旅人として振舞うように指示する。そして彼女の知り合いに紹介状を渡し、あくまでも他国から訪れた人間として冒険者ギルドに入る様に勧められた。



「ここが冒険者ギルドか……ヒトノ帝国の冒険者ギルドよりも大きいんだ」



レイナは地図を頼りに冒険者ギルドにどうにか辿り着くと、建物の大きさを見て驚く。ヒトノ帝国の冒険者ギルドは見た事はあるが、それよりも更に巨大で大勢の冒険者と思われる獣人達が行き来していた。


とりあえずはレイナは建物の扉を潜り抜け、中の様子を伺う。どうやら1階は受け付けと酒場になっているらしく、朝早くから大勢の獣人が集まり、賑わっていた。中には仕事もせずに酒を煽る者も多く見られ、意外な事に獣人族以外の種族も見受けられた。



(リルさんの言っていた通りだ。普通に他の種族の冒険者も多いんだな)



ケモノ王国が獣人族の国家とはいえ、特に人種差別を行うような風習はなく、普通に人間や森人族などの種族もよく見かける。


これならばレイナが冒険者登録を行っても怪しまれる様子はないかと思ったが、すぐにレイナの存在に気づいた建物内の冒険者達が騒ぎ出す。



「お、おい……誰だ、あの美女!?うちにあんな綺麗な子がいたか!?」

「うひょっ!?こ、こいつはかなりの上玉だな……年齢は20才前後ぐらいか」

「お、俺話しかけてみようかな……」

「な、何よあの女……」



現在のレイナは性別を女性に変化させ、更に年齢の方も「19才」に変化させていた。最初の頃にヒトノ帝国で過ごしていた時と同じ姿に戻ったといった方が正しく、現在のレイナは女子大生ぐらいの年齢である。


女性のレイナの場合は年齢を重ねるごとに発育が良くなり、19才の場合だと胸の大きさがネコミンよりも同等かそれ以上の大きさになってしまう。そのせいで周囲の冒険者達は彼女に視線を向けてしまう。



(あれ、何か見られてる?おかしいな、この国に合わせた服装にしたつもりなのに……)



しかも現在のレイナは獣人族が薄着を好む傾向だったので服装に関しても軽装にしており、惜しみなく肌を露出している。少し恥ずかしいと思ったが、この国の住民が好む服装に着替えれば目立たないかと思ったが、逆に悪目立ちしてしまう。



(なんか変に見られてる気がするけど……早く用事を済ませよう)



レイナは他の人間に話しかけられる前に受付口へと移動し、まずはリルから渡された紹介状を差し出す前に受付嬢に問う。



「あの、すいません……ここにリンという名前の受付嬢さんはいますか?」

「えっ!?あ、はい……リンさんですね、少しお待ちください!!」

「リンだと!?」

「あの人、リンさんの知り合いなのかしら……」



受付嬢にレイナはリンという女性を尋ねると、受付嬢は驚いた表情を浮かべてすぐに呼び出しに向かい、他の冒険者達も意外な表情を浮かべる。


レイナはリンがどんな女性なのかはリルから一応は利いているが、この冒険者ギルドの中でも偉い立場の人間らしく、ギルドマスターからの信頼も厚い人物らしい。しばらくすると奥の方から一人の女性が現れた。



「たく、いったい誰だい。こんな忙しい時にあたしを呼び出すのは……」

「えっと……貴女がリンさんですか?」

「ん?何だいあんた、誰だい?」



姿を現したのは身長が3メートル近くは存在する女性であり、外見の年齢は20代後半ほど、容姿も優れているのだがどこか野生的な雰囲気を醸し出す美女が現れた事にレイナは驚く。


女性の体格と身長から考えても普通の人間ではなく、恐らくは巨人族だと思われた。リンは自分を呼び出した相手がレイナだと知ると、彼女は不思議そうな表情を浮かべて見下ろす。

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