第355話 急報

「ウォンッ!!」

「わっ!?びっくりした……シロ君どうしたの?」



背中から狼の声が聞こえ、慌ててレイナは振り返るとそこにはシロが存在した。いったいどうしたのかとレイナは膝を付いてシロの様子を伺うと、シロは落ち着かない様子で鳴き声を上げる。



「クゥ~ンッ」

「どうしたのシロ君、お腹すいたの?待っててね、ビーフジャーキーを出すから……」

「いや、違うぞレイナ……シロは何かが近づいてきている事を知らせているんだ」

「え?何かって……?」



レイナはシロがお腹でも減っているのかと思ったが、付き合いの長いチイはシロの様子を見て異変に気づき、すぐにリルも駆けつける。一方でネコミンの方にもクロが駆けつけており、2匹は何かを伝えるように声を上げる。



「「ウォオンッ!!」」

「……近づいてる?何が近づいてるんだ?」

「あの、何て言ってるですか?」

「こんな時にいったいどうしたというのだ……ん!?」

「この音は……リル様!!」



シロとクロの異変に訝しんでいたオウソウが唐突に頭の獣耳を動かし、チイの方も何かに気づいたのかリルに声をかける。他の者たちも人間よりも聴覚に優れているのですぐに異変を察したように同じ方向へと振り返った。


白狼騎士団の中では普通の人間であるレイナは何が起きているのか分からなかったが、耳を澄ますと何かの足音が聞こえてきた。しかも人間の足音ではなく、シロやクロのような足音だと気づく。



「あれは……砂塵!?」

「リル様、こちらに何かが近づいています!!」

「全員、警戒態勢!!」



リル達が視線を向けた先には砂塵が舞い上がり、こちらに向けて近づく兵士の集団を確認する。レイナはここで「観察眼」と「遠視」の技能を発動させて様子を伺うと、ケモノ王国の鎧を身に付けている事が判明する。


接近する兵士の集団の正体がケモノ王国の兵士だと判明し、しかも普通の馬ではなく、レイナが何度か戦った事がある「ファング」と呼ばれる魔獣に乗り込んでいる事が判明した。白狼種のシロや黒狼種のクロと比べると足は遅いが、それでも普通の馬よりは移動速度は高い。そんなファングに乗り込んだ兵士の集団を見てすぐにリルは正体に気づく。



「あれは……魔狼騎士団か?」

「魔狼騎士団?」

「ケモノ王国に所属する騎士団の一つだ。だが、どうしてこんな場所に……それに様子がおかしいぞ」



接近する兵士の集団の正体が魔狼騎士団だと見抜いたリルは訝しみ、とりあえずは盗賊の集団ではない事を確認すると彼女は前に出た。念のためにレイナ達もリルの隣に移動して待ち構えると、やがて接近する魔狼騎士団の兵士達は移動速度を落として白狼騎士団の前へと立ち止まり、一人の老齢の騎士がファングから降りてリルの前に跪く。



「リルル王女様!!ご無事ですか!?」

「貴方は……確か、魔狼騎士団の団長のローグ殿か?」

「はっ!!」



あまり他の騎士団の団長とは接触した事がないリルだが、魔狼騎士団はケモノ王国の中でも3本指に入るほどの優秀な騎士団である。そのため、彼女も団長であるローグの顔は知っていたが、こうしてまとも顔を合わせた事はない。


王女でありながらリルは諜報活動も行っていたため、他国へ潜入する時期も多く、あまり他の騎士団と接触する機会はなかった。しかし、そんな自分の元に魔狼騎士団が訪れた事に疑問を抱き、いったい何の用件で来たのかを尋ねる。



「いったいどうしたというだローグ騎士団長、貴方が直々に騎士団を率いて私の元に訪れるなど……国王陛下の命令か?まさか、白狼騎士団に与えられた任務の進展状況の確認のために訪れたわけではないんだろう?」

「はっ……国王陛下からの命令を受け、私はリルル王女様を迎えに来ました」

「私を迎えに来ただと?それはどういう意味だ?」



リルルはローグの言葉に引っかかりを覚え、他の者たちも王都で何か異変でもあったのかと思った時、ローグは顔色を青くさせながら答えた。



「国王様が……突如として病に侵され、倒れられました。現在は意識不明の重体です」

「な、何だと!?」

「国王様が!?」

「それはどういう意味ですか!?」



国王が倒れたという言葉にリルは目を見開き、他の者たちも動揺を隠せなかった。レイナも国王が病気になったという言葉が信じられず、少なくとも白狼騎士団が出発する前の国王は病を患っていたような様子はなかった。


しかし、ローグが嘘をついているとも思えず、彼は険しい表情を浮かべながらリルに王都へすぐに帰還するように促す。



「国王様は意識を失われる前に私に命じられました……リルル王女を王都へと連れ戻し、王位継承の儀式を執り行うと」

「王位継承……!?陛下は、父上がそういったのか!?」

「はい……国王様はこの国の全権をリルル王女に託すことを決意したのです!!」



ローグの言葉にリルルは目を見開き、一方でレイナ達も何が起きているのかと困惑する事しか出来なかった――

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