第354話 宴をしよう

「皆、よくここまで頑張ってくれた!!君たちの尽力のお陰で白狼騎士団は遂にこの巨塔の大迷宮の完全攻略を果たす一歩手前まで来たといっても過言ではない!!」

『おおっ!!』



全団員を呼び寄せたリルは彼等に対して敢えて「完全攻略」という言葉を出す。リルの言葉に団員達は期待の目を向け、すぐにリルは手拍子を行う。



「それでは早速だが、先日の第五階層の成果を皆にも見せよう!!」

「んしょ、んしょっ……」

「お、重い……!!」

「大丈夫でござるかチイ殿?」

「落とさないように気を付けてくださいよ」

「きゅろろっ♪」

「おっとと……ここに置いていいのか?」

「よっこいしょっと……」



レイナ達が漆黒の宝箱を運び出し、団員達によく見えるように横一列に並ぶと、合計で3つのブラックボックスが運び込まれる。黒く染まった宝箱を見て団員達は戸惑い、これが第五階層の成果なのかと動揺を隠せない。


大迷宮内に宝箱が存在するのは割とよくある話なのだが、黒塗りの宝箱があるなど聞いた事もなく、しかも普通の宝箱ではない事を証明するかのように特別な鍵穴をしていた。そんな宝箱を前にしてレイナはねじ巻き式の鍵を取り出すと、リルに頷く。



「では、皆の者……よく見ておくんだ!!これが勇者が残した財宝だ!!」

「ていっ!!」

『うおおおおおっ!?』



鍵を開き、レイナが蓋を開いた瞬間、宝箱の中から大量の金貨が出現した。それを見て団員達は歓声を上げ、更に続けてレイナは隣の宝箱を開く。



「そりゃっ!!」

「こ、今度は銀貨だ!?」

「凄い、何枚入ってるんだ……!?」

「次は何が出てくるんだ!?」



金貨、銀貨が大量に入っていた宝箱を確認して団員達は興奮を隠しきれず、更にレイナは最後の宝箱を開くと、今度は色とりどりの大量の魔石が入っていた。どれもこれもが価値のある宝である事は間違いなく、団員達は興奮を隠しきれない。


出発する前は今までに誰も攻略を果たしていない巨塔の大迷宮に挑むなど無謀だと考えていた団員も多く、本当に存在するのかも分からない幻の第五階層を目指すために挑むなど馬鹿げていると考える者もいた。


しかし、実際に大迷宮の第五階層が存在する事を証明し、更に持ち帰った財宝を見て団員達は今までの苦労が報われた事に感動する。それと同時に有言実行を果たしたリルに信頼を寄せる。



「我々は今までに誰一人として果たせなかった巨塔の大迷宮の攻略を果たした!!ならばこの地に長居する必要はない、今日1日はゆっくりと身体を休ませて王都へと帰還しようじゃないか!!」

「王都へ戻れる……」

「こ、こんなに早く帰れるなんて……」

「夢みたいだ……」



王都へ戻る事が出来るという話に団員達は戸惑い、まさか本来の日程の半数以下で任務を果たした事に実感がない。だが、王都へ戻れると聞いて嬉しくないはずがなく、家族や友人に生きてあえる事に彼等は喜ぶ。


リルは宝箱の蓋を閉じさせるとレイナ達に頷き、これで自分の目的を果たした事を確認する。後は団員達を身体を休ませた後、回収した素材の点検を負えれば王都へと引き返せる。



「さあ、今日は宴を開こう!!もう遠慮する必要はない、保管中のキングボアの肉も全て食べつくすんだ!!」

『わぁああああっ!!』



宴という言葉に団員達は歓喜の声を上げ、今までは任務がどれほど長引くのかも分からなかったため、食料に関しては配給を制限していた。しかし、王都へ戻る事が決まった以上はもう無理に食料を節約する必要はなく、むしろ余分な量を減らすためにリルは宴を提案した。


人間よりも食事量が多い獣人族にとっては食料を制限されるという行為は非常に精神的にも負担が大きく、それがなくなるというのだから誰もが喜ばずにはいられない。一方でレイナの方も大迷宮の攻略を果たしたという言葉に安ど感を抱き、これでしばらくは平穏な時が過ごせるかと思った。



(ふうっ……何だかんだあったけど、これでしばらくは楽できそうだな)



この世界に訪れてから休まる暇がなく、レイナは常に何事か問題に巻き込まれていた。だが、今回の一件でリルが統率する白狼騎士団が正式に騎士団として認められればレイナの方も少しは楽が出来る。


勇者としての立場であるレイナはケモノ王国の間では特別な存在のため、彼に近付こうとする輩は多いだろう。しかし、リルが騎士団を作り出して自分の立場を固めればレイナを庇護する事も出来るため、これでもう不用意に女官や女給に夜這いを仕掛けられることもないだろう。



(けど、この状況だともうしばらくは女の子の姿で過ごさないといけないのか……はあ、何時になったら男に戻れるんだろう)



だが、今回の一件で「勇者レア」の存在が知れ渡る事は間違いなく、そうなると不用意に自分が元の姿に戻れないと悟ったレイナはため息を吐く。

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