第353話 巨塔の大迷宮の制覇

――後日、リルは団員を全員集めると結局はレイナが作り出した大量の宝物を全員の前に運び出す。結果としては第五階層にはあれから何度か入ったが、手に入った品々の中で価値の高そうな道具は魔水晶だけしか発見されなかった。


確認できた道具の中で入手したのはアダマンタイト製の武器と防具だけであり、他には7属性の魔水晶しか手に入らなかった。また、レイナが現時点で開く事が出来た宝箱は45個である。


事前に開かれていた宝箱の数は5個に対し、レイナがねじ巻き式の鍵を利用して開いた宝箱は45個、合計で50個の宝箱を開ける事に成功したのだが、残りの宝箱は残念ながら開く事が出来ずに放置した。


また、事前に開かれていた宝箱の方はリリスが調べたところ、レイナが所有していた鍵では開く事が出来なかったという。そもそも鍵穴自体が遭わず、もしかしたらこの5つの宝箱だけがピッキングで開けるように細工されていたのかもしれないという。



『こちらの宝箱の方はそもそも素材も作り方も違いますね。もしかしたら、敢えて宝箱を開けやすい仕組みにしていたのかもしれません』

『どういう意味?』

『この大迷宮を作り出した勇者が次世代に召喚される勇者のためにこの場所を作り出したのは間違いありません。しかし、全ての宝箱を簡単に開く仕組みにしなかったのは勇者を育成するためかもしれません』

『うん、それは前にも言っていたよね。大迷宮は勇者を育成するための施設だって……』

『はい、ですが仮に苦労してここまで辿り着いた勇者が実はレベルが低くて弱っちい場合、ここの宝箱は鍵を持っていても開く事が出来ません。その場合、ここまでの苦労が水の泡となりますよね』

『まあ、そうだね』



第五階層に再び突入した際、レイナはリリスから事前に開かれていた宝箱を見せると、どうしてこの5つの宝箱だけが鍵穴が異なるかのか、宝箱の中身が既に抜き取られているのか、その疑問に対してリリスはある推論を立てた。



『恐らく、ここまで辿り着いた勇者が一つも宝箱を開く事が出来ない場合を想定し、念のために普通の宝箱も用意してたんでしょう』

『え?じゃあ、この宝箱だけはわざと簡単に開きやすいように置いていたの?』

『はい、この宝箱は敢えて故意に開きやすいように細工されています。そうでもなければ勇者が残した大切な宝物をこんなピッキングで開けられるような宝箱を用意するはずがありません』

『でも、どうしてそんな真似を……』

『わざと開きやすい宝箱を用意したのも勇者のためなんですよ。ここまで辿り着いたのに宝物が手に入らないなんて可哀想だと思ったんでしょう。だから次に挑むときはこのお宝の中に入っている道具で装備を整えろとばかりに置いていったんじゃないですか?』

『でも、よりにもよってその宝箱は勇者ではなく、勇者の血筋の冒険者に奪われたわけか……』



リリスの推測では100年以上前に第五階層に到達し、宝箱の中身を持ち帰ったという冒険者が手に入れた代物が、レイナ達が発見した宝箱である可能性が高い。というよりもそれしか考えられず、5つの宝箱以外に開かれた宝箱の存在は確認されていない。



『このブラックボックスだけでも凄い魔道具なんですけどね。この際にまた何個か持って帰りましょう。何かの役に立つかもしれませんし……』

『でも、これ結構重いんだけど……』

『頑張ってください、私も手伝いますから』



ブラックボックスという名前の宝箱も閉じている間だけとはいえ、異空間に物体を収納できるという能力は素晴らしく、少なくとも宝箱に封じ込めている間は物体が何も影響を受けないというのは大きな利点だった。


もしも大切な物を収納したい場合はこのブラックボックスを利用し、開く際にはレイナに鍵で開けてもらう。ちなみにレイナ以外の人物が鍵を開こうとしてもブラックボックスを開ける事は出来ない事も証明される。



『ふぎぎぎっ!!な、何だこの宝箱は……本当に開くのか!?』

『きゅろろろっ……むりっ!!』



力自慢のオウソウやサンに試しにレイナが渡したねじ巻き式の鍵でブラックボックスを開けられるのかを試したが、結果から言えば二人でも鍵を回す事が出来なかった。どうやら鍵自体も細工があるらしく、純粋な勇者であるレイナしか扱えないという。


ブラックボックスは非常に頑強で破壊する事も難しく、こちらもアダマンタイト製の金属で構成されている事が発覚した。なので力ずくで破壊する事は不可能に近く、しかも中身は異空間に収納されているのでどんなに雑に扱われようと影響は受けない。


最早、特殊な能力が付与されていないアダマンタイト製の武器や防具よりも宝箱その物が価値がある可能性も現れ、レイナは10個のブラックボックスを運び込むと、その中に回収したアダマンタイト製の武器や防具を収納し、持ち帰ることにした。

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