第356話 国王の異変

――同時刻、王城にて国王はベッドの上に横たわっていた。顔色は悪く、最早意識も失いかけていた。その様子を専属の治癒魔導士は観察し、国王に話しかける。



「国王様、しっかりしてください!!意識はありますか?」

「余は、もう駄目だ……早く、早くリルルを呼び出してくれ……」

「国王様、何を弱気な事を……さあ、お気を確かにしてください。この薬を飲んで……」

「もういい、余は助からん……」



治癒魔導士が差し出した薬を国王は振り払い、その様子を見て治癒魔導士は驚いたが、国王は苦しそうに自分の胸元を抑えた。国王はもう自分が助からない事は理解しており、今更どんな治療を受けようと意味はないと判断した。


国王は自分が死ぬ前に果たさなければならない事があり、そのために病が悪化する前にリルルを呼び出そうとした。しかし、このままでは彼女が戻る前に死ぬことは間違いなく、国王は治癒魔導士に遺言を託す。



「今から話す事は……余の遺言だと思え、良いな?」

「国王様!!そんな事はおっしゃらないでください!!」

「いいから聞けっ!!もう、余は……助からん。ならば次の国王を死ぬ前に決めなければならない……」

「はっ……」



治癒魔導士の男性はその場に跪き、国王の遺言を聞き遂げる覚悟を抱く。そして彼に対して国王は声を絞り出すよう言葉を告げた。



「我が息子、ガオはあまりにも未熟で若すぎる……奴を国王の座に就かせたらこの国は数年とたたずに滅びてしまうだろう。しかし、我が義理の娘、リルルならば人望も厚く、あの勇者からの信頼も厚い……リルルを国王に就かせればこの国は安泰だろう」

「では次期国王は……」

「余はリルルこそが相応しいと考え、て……次の王……リル、ル……」

「国王様!?」



国王の声が小さくなっていくことに気づいた治癒魔導士は様子を調べると、既に国王は事切れている事に気づき、虚ろな瞳を開いた状態のまま死んでいた。その様子を見て治癒魔導士は一筋の涙を流し、やがて彼は瞼を閉じさせる。


死んでしまった国王に対して治癒魔導士は頭を下げ、まずはこの事実を他の者に知らせるために部屋を退出する。その途中、彼は難しい表情を浮かべながら頭を抑えた。



「国王様……」

「そんなところで何を立ち止まっている?」

「はっ!?」



後方から声を掛けられ、驚いて彼が振り返るとそこにはこの城にはいるはずのないガオが立っていた。彼の傍には漆黒の鎧を身に付けた強面の男性が存在し、その顔を見た治癒魔導士の男は震え上がる。



「が、ガオ王子様……それに、ガーム将軍……!?」

「久しぶりだな、ユダンよ」



治癒魔導士の男の名前はユダンといい、ガームとは同年代であった。もっとも世代は同じでも立場が違うので昔からあまり接点はなかったが、どうしてガームとガオがここにいるのか戸惑う。


ガームは北方領地の守護を任された将軍であり、ガオに至っては先日の件で謹慎を言い渡されているはずである。それにも関わらずにガオが城内に存在する事、そしてガームまでもここにいる事にユダンは嫌な予感を覚えた。



「ユダンよ!!父上の容態はどうなっている!?」

「そ、それは……」

「まさか……ユダン、答えろ。国王様はまだ生きておられるのか?」

「……申し訳ありません、必死に治療を施しましたが、国王様は先ほどお亡くなりになりました」

「そ、そんな……父上が、亡くなっただと……!?」

「馬鹿なっ……!!」



ユダンの言葉にガオは心底衝撃を受けた表情を浮かべ、ガームは表情を険しくさせる。ガオは父親が亡くなった事に呆然とするしかなく、ガームは歯を食いしばりながら拳を壁に叩きつける。


国王から厳しい処分を受けたとはいえ、ガオは国王の事を本気で敬愛しており、ガームも忠誠を誓った主人が死んでしまったという事実に何とも得ない表情を抱く。だが、ユダンはここで彼等に国王の残した遺言を告げた。



「こ、国王様は死ぬ前に最後に遺言を残されました……」

「遺言だと……ま、まさか!?」

「はい、国王様は王位継承の儀式をリルル様に託すと……」

「そ、そんなっ!?」

「…………」



ガオはユダンの言葉を聞いて驚愕の声を上げ、一方でガームの方は黙り込む。ガオは父親が最期に残した言葉が自分ではなく、義理の姉のリルルを王位に継がせるなど信じられなかった。いや、信じようとはしなかった。



「おい、ユダン!!お前の聞き間違いだろう!!父上は誰を国王にすると言ったのだ!?」

「い、いえ、確かに国王様はリルル様を次の国王だと……!!」

「そんな馬鹿な……何故だ、どうして父上は……くそぉっ!!」

「ガオ、落ち着かんか!!」

「……叔父上」



尊敬する叔父の言葉に取り乱したガオは冷静さを取り戻すが、それでも父上がまさか実の息子である自分ではなく、リルルを国王の座に就かせようとした事実に彼は悲しみを抱く。

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