第350話 帰還方法

――しばらく時間が経過した後、レイナ達は宝箱を開くのを中断して帰還の方法を探す。結果から言えば第五階層には転移台は存在せず、代わりに床の方に魔法陣が刻まれ得ていた。レナ達が最初に倒れていた場所に魔法陣が存在し、どうやら台座も見つかった。



「ふむ、やはり第五階層がこの巨塔の大迷宮の最上階だったようですね。次の合言葉は記されていません」

「そっか、なら俺達は巨塔の大迷宮を攻略した事になるのかな?」

「そうですね、完全にこの大迷宮を調べつくしたわけではありませんが、とりあえずは制覇したといっても過言ではないでしょう」

「ぷるるんっ(やったぜ)」



様々な苦難を乗り越え、遂に幻の第五階層へ到達したレイナ達だが、残念ながらその喜びを分かち合えるのはレイナとリリスとクロミンだけだった。他の者たちは眠りこけて目を覚ます様子がなく、自分たちが第五階層へ辿り着いたという事実にも気づいていない。


ひとまずは第五階層の存在が確認されたため、レイナ達は外界へと引き返す事にした。まだ全ての宝箱を開いたわけではないが、意識を戻さないリル達の事が気にかかり、一向に目を覚ます様子がない彼女達を心配してレイナは引き返す事を提案した。



「よし、とりあえずはこの大きさの宝箱でいいかな?」

「ええ、そうですね。1つだけだと何なので他にも何個か持って帰りましょう」

「ぷるるんっ」



帰還する前にレイナ達は解析の能力で「ブラックボックス」という名前の宝箱もついでに運び出し、魔法陣に移動させると一緒に持ち帰れないのかを試す。転移する際は身に付けている装備品も共に転移するため、宝箱の類も持ち帰れるはずだった。



「よし、じゃあ転移しますよ。準備はいいですね?」

「忘れ物はないよ」

「ぷるるんっ」

「では、帰還します!!」



クロミンを抱きかかえたレイナはリリスに頷き、全員が魔法陣の内側に存在する事を確認すると、彼女は転移魔法陣を発動させた瞬間、レイナ達の身体が閃光に飲み込まれた――





――その後、無事に大迷宮の外界へと脱出に成功したレイナ達を見て待機していた他の団員達は驚愕する。なにしろレイナとリリス以外の者たちが気絶した状態で転移台に現れたので彼等は慌てて意識を失った者たちを運び出す。


外の世界へ戻れば自然に目を覚ますかと思われていたが、結局はリル達が意識を取り戻したのはそれから翌日の朝はだった。リリス曰く、気絶していたというよりは仮死状態に近く、目を覚ますのに時間が掛かったという。



「大丈夫ですか?ほら、これを飲んでください」

「あ、ああ……まだ少し、頭がくらくらするよ」

「う~ん……へんな気分」

「うう、頭が痛い……」

「きゅろろろっ……(寝言)」

「ぷるんっ(起きんかいっ)」



幕舎の中にて意識を取り戻したリル達は気分が悪そうに頭を押さえ、レイナとリリスが用意した薬草を煎じた薬湯を飲む。まだ頭がぼんやりとしているが肉体の方は特に異常は見られず、リリスも安心したように頷く。



「とりあえずは問題なさそうですね。どうですか気分は?」

「……前日に酒を飲みすぎた時のように頭が痛い」

「なるほど、二日酔いみたいな感じですか。ならしばらくは安静にしておいたが方がいいですね」

「いや、そういうわけにはいかない。それよりも早く報告してくれ、何が起きたんだ?」



頭を抑えながらもリルは自分たちが気絶した理由、どのような経緯で戻ってきたのかを問い質す。まだ本調子ではないので身体を休めてから話そうと思っていたリリスだったが、仕方なく簡単に第五階層の出来事を話す。


第五階層に転移した途端に全員が意識を失い、レイナだけが意識を取り戻した事、その後にクロミンを起こしてリリスの目を覚まさせた事を話す。残念ながら他の人間はどんな手を使っても目を覚ます様子がなく、仕方ないので戻ってきた事を告げる。


この時にリリスは自分が転生者である事は隠し、レイナも彼女の話には口を挟まなかった。理由としてはリリスが他の人間に今更説明するのも面倒臭いとの事らしく、別に無理に話す必要もないのでレイナも承諾した。リル達もいきなり転生者という話をしても理解してくれるとは限らず、敢えて二人だけの秘密にすることにした。



「なるほど、つまりレイナ君は勇者だったから第五階層で意識を取り戻したのか。そしてクロミンはスライムだったから平気と……しかし、それならどうしてリリスだけが目を覚ましたんだ」

「これはあくまでも私の推測ですが、私が勇者の家系である事が関係していると思います。もしかしたら第五階層に入れるのは勇者とその血筋の人間のだけかもしれません」

「おろっ!?しかし、それならばどうして拙者は目を覚まさなかったのでござる?」

「あれ、そういえばハンゾウも勇者の家系だったっけ?」

「拙者の故郷である和国はかつて勇者と共に召喚された人間が作り出した国でござる!!ならばその子孫の拙者にも勇者の血が流れているはずでござるが……」



リリスの説が正しければハンゾウも目を覚ましてもおかしくはなかったはずだが、彼女は結局は第五階層で他の人間と共に眠りこけて目を覚ます様子がなかった。

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