第347話 勇者の思惑
「どうして大迷宮を作り出した勇者はこんな酷い仕掛け……」
「……元々、大迷宮は勇者が次世代に召喚される自分の後輩たちのために作り出したという説があります。後の時代に召喚される勇者を鍛える場所として大迷宮を建設し、そこに自分たちが集めた宝物を保管しているという話もあります」
「え?」
「それに大迷宮を建設するとき、勇者以外の存在が自分達の残した宝物を手にしないように罠を施す必要もあります。前にも話してましたが、この巨塔の大迷宮は魔王軍の拠点として利用されそうになったことを話しましたよね?きっと勇者もそれを想定してこの第五階層には勇者以外の存在が立ち入れないようにしたんですよ」
「そうなのかな……」
「ぷるんっ(なるほど)」
レイナは第五階層の仕掛けがあまりにも残酷すぎると思ったが、リリスとしてはむしろこのような罠は設置されているのは当たり前だと思っていた。巨塔の大迷宮を作り出した勇者は恐らくは次世代の勇者のためにこのような仕掛けを施したのだろう。
ここまで辿り着いた冒険者の末路は同情するが、勇者もこのような事態に陥るのは不本意であり、本来は勇者しかたどり着けないように敢えて危険な場所に転移台を設置していたのかもしれない。
「まあ、ここで話し合っていても仕方ありませんね。それよりもまずはお宝を確認しましょうか、何か入ってましたか?」
「あ、それならこの鍵を使えば空けられると思うけど……」
「ほう、ねじ巻き式の鍵ですか……随分と変わってますね、製作者の趣味ですかね?」
レイナから鍵を受け取ったリリスは皆を目覚めさせる前に宝箱の中身を確認するため、彼女は傍に存在した宝箱を開こうとした。だが、差し込む事には成功したがどういうわけか開くことが出来ず、リリスは鍵を回そうとするがびくともしない。
「ふぎぎぎっ!!あれ、おかしいな……ぬぐぐっ!!」
「どうしたの?」
「いや、全然回らなくて……おかしいですね、鍵が合わないんでしょうか?」
「ちょっと貸してみて」
リリスの代わりにレイナは鍵を掴むと、そのまま回し始める。別に特に何事もなく鍵は入っていくと、やがて宝箱の鍵が開いた音が鳴り響く。
「あれ、普通に開いたよ?」
「え、おかしいですね……私の時は回らなかったのに、もしかしてこれも勇者しか開けない仕組みですかね」
「ぷるん(単純に力が足りなかっただけじゃない)」
「何でしょう、スライムの言葉は分からないですけどわたし今馬鹿にされたような気がしますが……」
クロミンの言葉にリリスはいらっとしたが、あながちクロミンの発言も間違いではないかもしれず、鍵を開くときは結構な力が必要になるのかもしれない。リリスが回せなかったのは鍵が簡単に開かないようにある程度の力を持っていなければ開かない仕組みになっていた可能性もある。
そもそもねじ巻き式の鍵の時点で怪しく、もしかしたら鍵を開けるにはある程度の腕力、分かりやすく言えばレベルを上昇させてステータスを向上した状態でなければ空けられなかったのかもしれない。ゲームで例えるならばレベルが低すぎる状態では手に入らないアイテムが宝箱に収納されている状態なのだろう。
「宝箱の中身は……なんだろうこれ、腕鉄甲かな?」
「それは闘拳ですね、格闘家の職業の人が愛用する武器です」
先ほどレナが開いた宝箱の中身は「籠手」だったが、今回は「腕鉄甲」に似たような形状の武器が入っており、リリスによると闘拳と呼ばれる武器らしい。こちらも籠手のように全体が漆黒に染まっていた。
これで二つの宝箱の回収に成功し、この調子でレナは次々と宝箱を開いていく。中身は武器や防具ばかりではなく、魔法腕輪などの魔術師が扱う装飾品も収納されていた。
「四つ目……今度は何が入ってるのかな?」
「こういうのはわくわくしますよね……うわっ!?」
「ぷるんっ!?(ま、眩しい!?)」
宝箱を開いた瞬間、強烈な光が放たれ、レナ達の視界が眩む。やがて箱が完全に開かれると、そこに入っていたのは両手に収まり切れない程の大きな赤色の水晶玉だった。それを見たリリスは目を見開き、クロミンも驚いたように身体を震わせる。
「な、何だこれ……俺の魔力感知が凄い反応したんだけど」
「こ、これは……信じられません、魔水晶です!!」
「魔水晶?魔石じゃないの?」
「いえ、魔石よりもさらに希少な代物です!!魔光石とも呼ばれています!!」
リリス曰く、水晶玉の正体は魔石よりも価値が高く、滅多に手に入らない代物だという。彼女は震える腕で水晶玉に手を伸ばそうとしたが、ここで思い直したのか寸前で手止めた。
普通の魔石よりも尋常ではない魔力を放ち、触れるのもおこがましいとさえ感じる程の神聖な雰囲気を醸し出していた。それを見たリリスは冷や汗を流し、聞いてもいないのにレイナに魔水晶の説明を行う。
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