第346話 リリスの推察

「もしかしたらですけど……私達だけが目覚めたのは地球人である事が関係しているかもしれません」

「え、どういう意味?」

「思い出してください、この巨塔の大迷宮を作り出したのは誰ですか?そう、地球人である勇者です」

「あ、言われてみれば……」

「あくまでも私の予測でしかありませんが、この空間はもしかしたら地球人だけが意識を保つことが出来るのかもしれません」

「ぷるんっ?(とういう意味?)」



リリスの考察にレイナとクロミンは不思議に思うが、彼女は自分なりに現在の状況を考察し、ある推論に至った。



「この広間、というよりは空間そのものがこの世界に人間には適応しない環境なのかもしれません。例えば地球人以外の人間が入り込むと意識を奪い、目覚めさせないようにするとか……」

「でも、クロミンは目を覚ましたよ?」

「クロミンの場合は魔物でしかもスライムですからね、スライムの環境適応能力は馬鹿にできません」

「ぷるんっ(えっへん)」



リリスの言葉にクロミンは自慢げに鼻息を鳴らすと、そんなクロミンの頭を撫でながらレナは冷静に考える。確かにリリスの言う通り、この巨塔の大迷宮はかつて勇者が作り出した代物だとは聞いていた。その勇者が自分達と同じ存在、より正確に言えば勇者として召喚された人間以外を第五階層に入っても行動させないように制限したのかが気にかかる。


そもそもリリスの理論は地球人ならばこの環境にも対応できるという話だが、厳密に言えばリリスの場合は転生者なので地球人ではない。いくら前世が地球人だったとしても、肉体はこの世界の人間の物であるリリスが意識を取り戻した理由が判明しない。



「でも、リリスはこの世界の人間だよね。記憶はあるとしても地球人というわけじゃ……」

「いえ、その事なんですけど実は私の家系って少々特別でして……実を言えば勇者の血筋を継いでるんです」

「え、そうなの!?」

「私も父親のホラ話だと思ってたんですけど、もしかしたら地球人の血筋の人間だからこの場所でも意識を保てるのかもしれません」

「ぷるるんっ(そ、そうだったのか……)」



リリスの思いもがけぬ告白にレナは驚き、先ほどのリリスの話にも信憑性が出てきた。地球人だけが意識を保てる仕掛けが施されているのならば、地球人の血筋であるリリスもこの場所で意識を保てるのもそれほどおかしな話ではない。


もしもリリスの仮説が正しかった場合、この場所が勇者(地球人)だけが立ち寄る事が許された場所ならば色々と謎が判明する。どうして第五階層に踏み入れた人間が現れなかったのか、それはここへ辿り着いた人間が全員が意識を失い、死ぬまで倒れ続けたのだろう。そして死体は大迷宮に吸収され、遺品だけがここに取り残される。



「恐らく、この衣服の主もどうにかここまで辿り着いたのに意識を失って死んじゃったんでしょうね。可哀想に……苦労してここまで来たのにこんな罠が用意されてるなんて死んでも死にきれないでしょうね」

「そうだね……じゃあ、もしかして第五階層が今まで発見されなかったのは」

「ええ、きっと第五階層に辿り着いた人間の殆どがこんな風に死んじゃったんでしょうね」

「ぷるんっ……」



レイナは周囲を振り返り、よくよく観察すると他の場所にもここへ辿り着いたと思われる人間の遺品が落ちていた。注意深く観察しないと分からなかったが、どうやら数名の冒険者がこの場所まで辿り着いたらしく、全員が残念ながら死亡したらしい。


リルの推測では火竜の住処に転移台が存在するので誰も冒険者は第五階層の出入口を発見できなかったと思われたが、実際の所はリルと同じように考えた人間が数名存在した。そして全員が第五階層に辿り着いた瞬間に意識を失い、死んでしまった。あるいは火竜に殺されて辿り着けなかったと考えるべきだろう。



「あれ、でも第五階層を最初に見つけ出した人間はどうして……」

「恐らく、その人も私と同じ勇者の血筋なんでしょう。勇者の家系の人間は必ずと言っていいほどに何らかの称号を得ますからね。その冒険者もきっと勇者の家系だったから火竜の住処に入り込み、この場所まで辿り着いたんでしょう」

「そういえば宝箱が何個かピッキングで解除されてたけど……」

「じゃあ、盗賊か暗殺者の称号持ちだったんでしょうね。どちらも隠密系統の技能を覚える事が出来ますし、きっと存在感を隠して火竜を素通りしてここまで辿り着いたんでしょう」



かつて一人だけ第五階層に到達した冒険者もリリスと同じく勇者の家系である可能性が高く、この考えが当たっていれば第五階層は地球人だけが入る事が許された場所となる。


大勢の冒険者が第五階層を探し出しても見つからなかった真の理由が判明し、レイナはどうして巨塔の大迷宮を作り出した人間はこんな残酷な仕掛けを施したのかと頭を悩ませた。

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