第345話 リリスの前世
洞穴の出入口は狭かったが、奥の方に進むとやがて広い場所に出た。そこには地面に魔法陣のような物が記され、その中央には光り輝く宝石のような物が存在した。
子供心に光り輝く宝石を見たリリスは興味を抱き、つい魔法陣の上に乗り込んで宝石を手にしてしまう。その直後、彼女が宝石を手にした瞬間に熱い何かが身体の中に入り込む感覚に襲われ、彼女は意識を失う。
――次に意識が目覚めた時、彼女が存在したのは「地球」の病院だった。いったい何が起きたのか理解できなかったが、リリスは赤子の状態で看護師に抱き上げられていたという。
何が何だか分からないままにリリスは地球に存在する赤子になってしまった彼女は戸惑いながらもそれから15年の月日を過ごしたという。幸いにも赤子の彼女の両親は優しい人物でそれなりに幸せな人生を送ったという。
最初の頃は元の世界の記憶もあって地球の環境に慣れるのに戸惑ったが、数年も経過すると元の世界の事は子供の頃の自分の夢だと思い込むようになった。しかし、普通ならば赤ん坊の時の記憶など忘れるはずなのだが、リリスはしっかりと覚えていた。
元の世界の記憶が忘れられず、普通の地球の女子高生として生活を送る日々だったが、ある時に彼女は歩道橋を歩いていた時に激しい地震が発生して彼女は歩道橋から落ちてしまったという。
歩道橋から落ちる際、彼女は自分がアスファルトの道路に叩きつけられると思い込んでいた。しかし、彼女が地上に落ちる前に唐突に空間に亀裂が走り、その亀裂の中に彼女は飲み込まれてしまう。
何が起きたのかは理解できなかったが、その後の事はリリスも覚えておらず、次に意識が目覚めた時は彼女は元の世界の魔法陣の上に存在したという。唐突に自分が暮らしていた世界に戻ってきたリリスは戸惑いを隠せず、彼女の手元には輝きを失ったただの石ころが握りしめられていた。
――その後のリリスは精神年齢が20才の状態で5才の身体を取り戻し、地球の記憶が消えないまま生活を送る羽目になった。こちらの世界よりも平和で生きやすい地球での生活に慣れすぎたせいで彼女は元の世界の生活が馴染めず、ここである決意を抱く。
このまま村に残ってもリリスは猟師である父親か薬屋を経営している母親の後を継ぐ事になる。しかし、どちらの職業も彼女は受け継く事を拒否すると、彼女は家を出て王都に赴き、そこでリルと偶然にも出会って彼女に仕えた。
理由としてはかつてケモノ王国では勇者を召喚したという話が存在し、その勇者の正体が地球人だと考えたリリスはあの世界に戻る方法を得るため、故郷を離れてここへ戻ってきたという。
「――という事で、私はレイナさんの世界、つまり地球人の記憶を持っているんです」
「そ、そうだったんだ……まさかリリスが転生者だったなんて」
「まあ、実際の所はあの世界の記憶が本当に私の記憶なのかは分かりません。だけど、子供の頃の私が見つけた不思議な宝石のお陰で私は自分の前世を思い出す事が出来たと思うんです」
「ぷるるんっ(アンコール)」
リリスの話を聞き終えたレイナは驚きを隠せず、少し前からリリスの言動に引っかかりを覚えていたが、まさか自分と同じく地球人だったという話に呆然とした。正確に言えばレナの場合は異世界転移、リリスの場合は地球の記憶を持つ転生者なのだが、ともかく初めてレイナはこの世界で地球の存在を知る人間に出会えたことになる。
地球の記憶を蘇ったリリスはあの世界に戻る方法があるとすれば過去に勇者を召喚した事もあるケモノ王国が何かを知っていると判断し、リルに近付いて彼女に従ったという。美少女好きなリルに取り入るのは簡単だったのだが、問題なのは薬屋を営んでいた母親の元で薬学を学んでいたリリスはすぐに薬剤師として仕事を与えられてしまい、肝心の調査が進んでいないという。
「レイナさんがここへ来た時は正直に言えば嬉しかったですよ。なにしろ、あの世界の人間にまた出会えるなんて思いもしませんでしたからね」
「もっと早く言ってくれればよかったのに……」
「いや、私も機会は伺っていたんですよ?でも、いつもレイナさんの傍に他の人間がいたので話しかけられなかったんです」
「そういえばそうだったかな……」
言われてみればレイナはリリスと二人きりの状況になった事はなかったのかもしれず、いつも傍には誰か他の人間がいたように思える。リリスとしても話す内容が地球に関する事なので慎重に動き、今まで黙っていたらしい。
「こちらの世界の人間には迂闊にあの世界の話はしないようにしてるんです。両親にも私が転生者である事を明かしたときは、数日ぐらいは優しく接せられましたね。きっとあれは私が変な妄想癖を発症したと思ったんでしょうね……」
「ああ、うん……それはまあ、どんまい」
残念ながらこの世界の人間にはリリスが体験した地球の話は信じてもらえず、実の両親からも話を信じてもらえなかったリリスは仕方なく他の人間には地球の記憶を話さないように心掛けたのも無理はない。
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