第344話 リリスの秘密
「ふむ……恐らくですが、この場所には物体が劣化しないような特別な仕掛けが施されているようですね。異空間に預けた物が異空間の中では時間の概念を受けず、温かい物はいつまでも温かく、冷たい物は冷たいまま取り出せるのと同じ原理です」
「え、じゃあここは異空間なの?」
「別に驚くほどじゃないですよ。今までの階層だって、建物の中とは思えないほどに広大な空間が広がっていたでしょう?」
「言われてみれば確かに……」
リリスの言葉にレイナは不思議と納得してしまい、確かにこれまでの大迷宮の階層は明らかに異常だった。まるで別世界に転移したかのように建物の内部とは思えない程に広大な空間が広がっていた。
恐らくは今までの階層も含め、この大迷宮自体が特別な構造と化しており、もしかしたらこれまでに訪れた階層は実は大迷宮の中ではなく、全く別の空間に築かれた世界かもしれない。だが、それを確かめる術はなく、今はどうやって皆を起こすのかをレイナは考える。
「皆、起きないな……あ、そうだ。俺の解析と文字変換の力で起こそうか?」
「いや、それは止めておいた方がいいですよ。原因が突き止めていない状態で仮に目を覚ませても、すぐにまた意識を失う可能性があります」
「あ、そうか……でも、俺達はどうして平気なんだろう?」
仮に解析や文字変換の能力を使って眠っている者たちを起こしたとしても、そもそも気絶している原因が不明の状態で起こしても再び意識を失う可能性も考慮しなければならない。しかし、それならばどうして自分達だけは平気なのかとレイナは疑問を抱く。
最初に意識を取り戻したのはレイナ、次にクロミンが彼に起こされ、その後にクロミンがリリスを叩き起こす。だが、後の人間達はどれほどの刺激を与えようと目を覚ます様子はなく、眠っているというよりは動物の冬眠のような状態に陥っていた。
「う~ん……状態が「休眠」と表示されていたのが気になるな。眠っているだけなら睡眠だと表示されるはずなのに」
「ふむ、確かにその点が気になりますね。ほら、起きてください、起きないと顔の悪戯しますよ。貧乳娘って……」
「う、ううんっ……」
リリスがチイの耳元に囁きかけるが彼女は目を覚まさず、普段のチイならばすぐに飛び起きそうなものだが、やはり目を覚まさない。
レイナもネコミンやリルを揺さぶるが、目を覚ます気配はない。クロミンも意外と大きいハンゾウの胸元に飛び跳ねてみるが、起きる気配はない。サンやオウソウも同じく、どんな方法を用いようと意識が戻る様子はなかった。
「このぉっ!!テキサスクローバーホールド!!」
「うぐぐっ……!?」
「ちょ、止めなよ!!オウソウも痛がってるよ!!」
「むうっ……これだけ痛めつけても起きませんか」
試しに痛覚を刺激して起きないのかとリリスはプロレス技を仕掛けるが、オウソウは苦しそうに呻くだけで目を覚まさず、それどころか顔色が悪くなっていた。やはり単純な方法では目を覚まさないようだが、ここでレイナはある事に気づく。
「あれ、ちょっと待って……今のってプロレス技だよね。なんでリリスが知ってるの?」
「あっ……えっと、ですね」
「まさか過去にプロレスラーの勇者も召喚されて伝わってるの!?」
「いや、どんな職業ですかそれは……そうですね、別に隠しておく必要もないと思いますし、お答えしますよ」
「ぷるんっ?」
リリスは仕方がないとばかりに頭を掻き、何か思い悩むように腕を組む。その様子を見ていたレイナは不思議そうにクロミンを抱きかかえると、意を決したようにリーリスは話し始める。
「私、実はこの世界の人間じゃないんですよ」
「え、人間じゃないって……じゃあ、まさか俺みたいにこの世界に召喚された人間!?」
「いえ、私の場合はちょっと特別なんですよ……正確に言えば私はこの世界で生まれましたが、実は地球で暮らしていた頃の記憶を持っている。言ってみれば転生者ですね」
「て、転生者!?」
「ぷるるんっ(何それ?)」
転生者という言葉にレナは驚き、リリスも何処から説明すればいいのか悩んだ表情を浮かべ、まずは彼女は自分の生い立ちから話し始めた。
――リリスは父親が獣人族、母親が森人族であり、彼女は種族的には獣人族として今から20年近く前に生まれた。森人族の血が混じったせいで実年齢よりも4、5才は若く見られるが、実年齢はリルよりも上である。
彼女が生まれたのはケモノ王国の中でも辺境の村らしく、幼少期は両親と共に平和に暮らしていたという。しかし、ある時に彼女は事故に遭ってから自分の前世の記憶がよみがえったという。
発端は彼女が5才の頃、自分の村の近くに存在した山の中で遊んでいると、ある時に子供が通れるような大きさの洞穴を発見した。その洞穴に彼女は興味本位で入った事で彼女の人生は大きく変わってしまう。
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