第336話 騎士団の予算

「さあさあ、皆さんもマグマゴーレムの核の回収を行ってください!!破壊された奴でも破片だけでも回収すれば色々と使い道がありますからね!!」

「え、俺達も……?」

「文句は受け付けません、うちの騎士団は金欠状態です!!今回の任務だって失敗すれば予算が降りませんからね、もしもの時を想定して金目の物は全て回収です!!」

「ええっ!?今さらっと、とんでもないことを言わなかった!?」

「すまん、伝え忘れていた……私達の騎士団は出来上がったばかり、実績を上げなければ正式に騎士団として認められず、予算も降りる事はないんだ」

『えええっ!?』



さらりと重要な事を伝えてきたリリスとリルに対して全員が驚愕の声を上げ、そんな重要な話を伝え忘れるなど何を考えているのかと言いたいところだが、そんな彼等を落ち着かせるようにリルは告げた。



「だが、安心してくれ。私達はもう転移台の居場所を把握している。後は第五階層へ突入し、その証拠を持ち帰れば任務は無事に果たされるんだ。何も心配する事はない」

「な、なるほど……言われてみればそうだよな」

「全く、驚かさないでくださいよ」

「すまないな、正直に言えば最初からこの話をしておけば士気が下がって任務に影響が生まれると思っていたんだ」



リル曰く、実の所は騎士団が任務を失敗すれば予算は降りずに解散の危機を迎える事を伝えなかったのは故意だったらしい。もしも最初からこの情報を伝えていれば騎士達の士気が下がる事を危惧して黙っていたという。


仮に第四階層に突入する前にこの事実を伝えていれば騎士達も大きく動揺しただろうが、既に第四階層に突入して転移台を見つけ出した今ならば納得してくれると判断した上でリリスとリルは討ち明かす。結果としては団員達は既に転移台を発見しているのであればと怒る事はなく、むしろ二人の判断は間違ってはいなかったと認めてくれる。



「もしも仮に騎士団が解散する事があっても、俺達はリル様の騎士ですよ!!」

「そうだな、はっきり言ってガオ王子よりもリル様が上司で良かった気がする」

「ガオ王子はちょっと色々と問題が多かったからな……」

「そうそう、見栄えを重視して鎧を全部黒く染めると言い出したときは困ったぜ、本当に……」



騎士団のほぼ全員がリルの弟であるガオが国中を探し回って集めた武人たちだが、彼等の多くはガオよりもリルに従えた事に安心している。ガオは王子という身分を利用して昔から色々ともめ事を起こし、一方でリルは複雑な立場ではあるがその人柄と自分の身を危険に冒して敵国に潜入するなど度胸を持ち合わせ、人を引きつけるカリスマ性も持ち合わせていた。


最初は強制的にリルに仕える事になった騎士達だが、今現在はガオではなく彼女が上司である事に不満を抱く者はおらず、彼女が元々連れていた配下の者たちとも仲良くやれていた。その中でも一番性格が変わったオウソウがある事に気づいたように告げる。



「ところで……一つ気になっていたのだが、団長の持っている武器は何なんだ?前に見かけた妖刀ムラマサと似ている気がするが……」

「え?あ、ああっ……これはこの大迷宮で見かけた魔剣だよ」

「魔剣!?そんな物を使って大丈夫なんですか?」

「大丈夫とは言えないが……これからも大迷宮の魔物と戦うためには私自身も力を身に付けなければならない。だからこそこの魔剣を手放すつもりはない」

「そんな、わざわざ団長が前に出て戦う必要なんてないのに……」

「それは違うな、私は部下に全て任せ自ら危険を犯さず、安全な場所から偉そうに指示を出す輩は大嫌いだ。そんな真似をするぐらいなら私は前線に立ち、君たちと共に戦うよ」

「団長……」

「あの、いつまで話し込んでないでさっさと魔石を回収しなさい!!大迷宮に死骸が取り込まれたらどうするんですか!?」

「「す、すいません……」」



リルと団員の会話に半ば切れたリリスが怒鳴りつけると不思議と団員達は逆らえず、彼女の指示通りに素材の回収を行う。ある意味ではリリスの方もリルとは違った人を従える才能を持ち合わせ、呑気に話し込む彼等を叱りつけて素材の回収を急ぐ。


結果としてマグマゴーレムを構成していた火属性の魔石の回収は無事に終わり、マグマゴーレムの核ともなると通常のロックゴーレムよりも良質な魔石である事が発覚する。これだけでも十分な成果だが、ここへ来た目的は転移台へ移動する事だった。



「よし、粗方回収は終えたな。では、転移台の場所まで出発しよう」

「そういえば気になってたけど、ここにいた火竜の子供がいない気がする」

「そういえばそうですね……まあ、別にいいんじゃないですか?もしかしたら転移台の方で遊んでいるのかもしれませんし」

「もしかしたら他の魔物に襲われてたりして……」

「……あり得るな、このマグマゴーレムが急に現れた件もある。下手をしたら既に殺されているかもしれない」

「それは……流石に可哀想ですね」



火竜の子供の事は心配だったが、今のレイナ達の目的は転移台に急ぎ、第五階層の合言葉を確認する事である。すぐにレイナ達は火竜が案内した転移台へ向かおうとしたとき、突如として大きな振動が火山に走った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る