第335話 リルを救う方法

「レイナ……頼む、何とかしてくれ……!!」

「チイ殿、落ち着いて……」

「くそ、どうしようも出来ないのか!!」

「もしも団長が死んだら……俺達はどうなるんだ?」

「馬鹿野郎、滅多なことを言うな!!団長が死ぬなんて……!!」

「縁起でもない!!」



リルの周囲に団員は集まり、彼女がもう助ける事が出来ないのかと落ち込むが、レイナは必死に頭を働かせてリルを救う方法を考える。どうにか状態の項目の「魔力暴走」をどのように書き換えるのかを考え、ここである方法を思いつく。



(そうだ、わざわざ全部の文字を書き換える必要はないんだ!!)



状態に表示されている文字を確認してレイナは今まで通りに全ての文字を書き換える必要はない事を悟り、即座に指先に意識を集中させ、文字変換の能力を発動させる。


他の人間に怪しまれないように手元で操作を行い、詳細画面の状態の項目に触れると、文章の一部を書き換える。表示されている「魔力暴走」の「暴走」の部分を「正常」に書き換えると、上手く成功する事を祈って指を離す。



(頼む!!)



上手くいくことを願ってレイナは詳細画面が更新されるのを待つと、無事に成功したのかリルの肉体の熱が徐々に収まっていき、先ほどまで意識を失っていたはずのリルが目を開く。彼女は唐突に身体を起き上げると、戸惑うように自分の両手を見つめる。



「こ、これは……」

「リル様!?目を覚ましたんですね!!」

「いったいどうやって……!?」

「お、おい!!団長が目を覚ましたぞ!!」

「やった!!助かったんだ!!」



リルが目を覚ました事に全員が喜び、彼女は自分の身に何が起きたのか記憶がないのか戸惑うが、どうにか助かった事に全員が安堵した。



「信じられない……だけど、良かったぁっ!!」

「全く、驚かせおって……ぐすんっ」

「きゅろっ?オウソウ、泣いてる?」

「な、泣いてないわ!!」

「ぷるんっ(素直じゃないなぁっ)」

「うぇえええんっ!!リル様ぁあああっ……!!」

「ど、どうしたんだチイ?そんなに取り乱して……」



団員達が喜びを分かち合う中、オウソウも潤んでいた瞳を見られないように顔を隠し、その様子を見せてサンが不思議そうに首を傾げる。クロミンも笑顔を浮かべ、チイに至っては号泣寸前だった。


リルは自分が魔力暴走を引き起こして意識を失っていたという話を聞いて驚き、急に体調が復活したという話を聞いて戸惑うが、すぐにレイナに視線を向ける。彼女はリルの疑問に答えるように黙って頷き、リルは自分の命を救った相手がレイナだと気づく。



(そうか、またレイナ君に助けてもらったのか……やれやれ、不甲斐ないな。いったい何度助けてもらえば気が済むんだ私は)



ここまでの道中でリルはレイナに何度も命を救われた事を思い出し、彼女には迷惑をかけてばかりだという事に申し訳ないと思う。しかし、今は自分の命が助かった事に安心し、他の団員達を落ち着かせた。



「皆、心配をかけてすまなかった。私はもう大丈夫だ」

「全く、驚かなさないでくださいよ。危うく私が作り出した新薬を投与するところでしたよ」

「……本当に助かって良かったよ」



怪しげな色合いの液体が満ちた小瓶を取り出したリリスにリルは冷や汗を流し、もしもレイナが助けてくれなかったら自分は何を飲まされていたのかと思うと冷や汗を流す。


一方でレイナの方はリルが所有していた妖刀を見つめ、この武器が原因でリルが魔力暴走を引き起こして倒れた事を考えてどうするべきか悩む。このままリルがこの武器を使い続けたらまた魔力暴走を引き起こす可能性があり、この際に能力の改竄を行うべきか考えていると、リルがそれを止める。



「レイナ君、その刀を渡してくれ」

「え、でも……」

「大丈夫だ、私も気づいている」



リルも自分が魔力暴走を引き起こした原因が妖刀である事は見抜いていたが、彼女はレイナを安心させるように微笑み、妖刀を受け取る。彼女はこの妖刀ムラマサのせいで自分が危うく死にかけた事は理解しているが、それでも手放すつもりはなかった。



(妖刀ムラマサ……呪いから解き放たれても所有者を追い詰める武器か、これは使いこなすのは難しそうだ)



妖刀の刃を目にしたリルは腰に差し戻すと、今後はもう二度とと他の人間に心配をかけないように妖刀を使いこなす事を心に決めた。聖剣と違って魔剣の類は所有者に大きな負担を与えるが、それでもリルは自分が強くなるためにこの妖刀の力が必要だと判断する。


敢えて妖刀の能力を改竄せずに身に付けたリルの行動にレイナは心配するが、彼女はレイナを安心させるように頷き、調査を再開する事を告げた。



「さあ、マグマゴーレムを打ち倒した以上は長居は無用だ、調査を再開する。火竜に見つかる前に転移台へ向かおう」

「そ、そうだった!!ここ、火竜が現れるんだったよな……」

「すぐに出発しないと!!」

「あ、待ってください!!破壊を逃れたマグマゴーレムの魔石を回収しないと……これだけでも十分な成果ですよ」

「ちゃっかりしてるなぁっ……」



リリスはマグマゴーレムの残骸から魔石の回収を行い、その様子を見てレイナは呆れながらも作業を手伝う。

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