第334話 扱いきれない
「ぐうっ……!?」
「リル様!?」
「危ないっ!!」
マグマゴーレムを前にして唐突にリルは膝を付き、全身から脂汗を流す。その光景を見たチイは悲鳴を上げ、彼女の眼前にはマグマゴーレムが迫っていた。
「ゴオオッ!!」
「クロミン、みずてっぽー!!」
「ぷるっしゃああっ!!」
「ゴアッ!?」
しかし、マグマゴーレムがリルに攻撃を仕掛ける前に背後からサンがクロミンの口から大量の水を吐き出させ、水を浴びせる。マグマゴーレムは水を浴びた瞬間に全身から煙を放ち、慌てて逃げるように転がりまわる。
どうにかサンの援護で助けられたリルだが、彼女はムラマサを掴む腕が震え、思うように身体が動かない。何が起きたのか全身が熱く、発熱が収まらない。
「これは……!?」
「リル、下がって!!」
「はああっ!!」
ネコミンが駆けつけるとリルの身体を引き寄せ、そのすぐあとにレイナがデュランダルを抱えて接近すると、マグマゴーレムに目掛けて剣を振り下ろす。先ほどの攻撃で動けない状態から衝撃波を受けたマグマゴーレムは肉体が砕け散り、核が外へと放りだされる。
どうにか全てのマグマゴーレムを倒す事に成功したレイナ達は安堵するが、すぐにネコミンとリリスがリルの元へと向かい、容態を調べた。
「大丈夫ですか?いったい何があったんですか?」
「分からない、だけどリルの身体が凄く熱い」
「くっ……いったい、何が?」
リルは自分の身体の異変に戸惑い、彼女自身も何が起きているのか理解できなかった。そんな彼女を見て即座にレイナは解析を発動させると、詳細画面を開いてリルの異変の正体を見抜く。
『状態:魔力暴走』
状態の項目に今まで見に見た事がない文字が表示され、リルの体調不良の原因を見抜いたレイナは二人に告げる。
「魔力暴走、という文字が表示されている。二人は何か知っている?」
「魔力暴走!?それは……厄介な事になりましたね」
「……私達じゃ治す事が出来ない」
「そんなっ!?」
「なんでござるか?その魔力暴走というのは?」
魔力暴走を引き起こしたリルの肉体は治癒魔導士のネコミンと薬剤師のリリスでもどうしようも出来ず、具体的にはどのような状態なのかとハンゾウが尋ねる。
――二人の話によると魔力暴走とは文字通りに体内に宿る魔力が溢れて暴走を引き起こし、主に体内に宿す事が出来る魔力容量を超えた魔力が体内に流れ込むと発生する現象だという。人間を壺に魔力を水に例えるとしたら壺の中に水を注ぎ込み、その水が壺に入る容量を超えた状態だという。
限界以上の魔力を体内に宿すと身体に異変が訪れ、どうにか魔力を放出しようと肉体の方が反応してしまう。現在のリルは無理やり壺の中に限界以上の水を注ぎ込まれた状態で無理やりに蓋をしたせいで壺に罅が入り、水が漏れ出ようとしている状態だった。
「魔力暴走を起こした場合の対処法は魔術師なら魔法を使えばどうにか収まります。ですけど、戦闘職のリルさんは魔法なんか使えません、だから対処法がないんですよ」
「じゃあ、どうする事も出来ないというのか!?」
「下手に回復魔法や回復薬を与えると、更に体内の魔力を刺激する可能性がある……私達じゃどうしようも出来ない」
「どうにかならないのか!?頼む、リル様を救ってくれ!!」
チイは涙目でリルの手を握りしめ、二人に懇願するがネコミンとリリスとしても彼女は助けてやりたい。しかし、二人には助ける方法がない。チイは縋る思いでレイナに視線を向け、どうにかしてほしいと視線で訴える。
既に意識はないのかリルは動く様子がなく、もう声も聞こえない状態だった。いったいどうしてこんな事になったのかとレイナは思った時、ここでリルが握りしめている妖刀に気づく。
(そうか、リルさんが魔力暴走を引き起こしたのはこいつのせいか……くそっ!!)
妖刀の持つ「魔力吸収」の能力によってリルはマグマゴーレムを倒すときに余分に魔力を体内に吸収したらしく、魔力暴走を引き起こしたと悟る。妖刀と呼ばれたムラマサは「呪力」を消し去ればもう安全な武器になったと思い込んでいたが、まさか魔力を吸収しすぎたせいでこんな事になってしまった事にレイナは拳を地面に叩きつける。
魔力吸収の能力は使い道によっては素晴らしい能力だが、逆に言えば所有者を滅ぼしかねない危険な能力である事が判明し、本来ならば魔力暴走を引き起こしても魔法の力で発散させる事が出来る魔術師のような職業の人間のための武器だろう。剣の魔王バッシュはどうやって使いこなせたのかは分からないが、今はリルを救う事にレイナは集中した。
(いったいどうすればいい、考えろ……考えるんだ)
レイナはリルを助ける方法を考え、最初に思い浮かんだのは詳細画面を文字変換の能力で改竄して治す方法だが、今までと違って状態に表示された文字は4文字、これまで通りに「健康」という2文字に書き換える事は出来なかった。
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