第331話 氷結剣

「皆さん、中々やりますね。それなら私もとっておきを出しましょう。改良型の爆発瓶を装着した矢です!!名付けて爆矢!!」

「ちょ、名前だけで不安なんですけど!?」



リリスはオウソウによって亀裂が生じたロックゴーレムに狙いを定めると、彼女は右腕に装着したボーガンを構え、鏃の部分に瓶を装着した矢を取り出す。火属性の魔石の粉末を取り込んだ液体が入った瓶は強い衝撃を与えると爆発する仕組みのため、慎重にリリスはボーガンに装填するとロックゴーレムが起き上がる前に放つ。


爆矢と名付けられた瓶付きの矢はロックゴーレムに衝突した瞬間、名前の通りに爆発を引き起こす。但し、爆発の範囲はリリスが調整したお陰で爆炎は広範囲に広がる事はなく、火柱の如くロックゴーレムを飲み込む。



『ゴガァアアアッ……!?』

「さあ、皆さん急いで離れてください!!ロックゴーレムの体内の核が爆発する前に離れないとまずいですよ!!」

「え、ちょっ……そういう事はもっと早く言えっ!!」

「きゅろろっ!?」

「はわわっ」



爆矢の爆炎に飲み込まれたロックゴーレムは体内にまで高熱が伝わった結果、彼等の体内に宿す火属性の魔石の核が反応し、内側から爆発を引き起こす。結果として岩石の残骸が周囲に散らばり、逃げるのに遅れたオウソウの後頭部に大きめの石が激突した。



「あいだぁっ!?き、貴様ぁっ……爆発するならもっと早く言えっ!!」

「いや、すいませんね。実をいうとまだ使える武器がこれだけしかなくて……でも、お陰で2体も倒しましたよ?」

「リリス……その武器は僕が許可するまでは使用禁止だ」



リリスの様子を見てリルは呆れた表情を浮かべながらもロックゴーレムと向かい合い、彼女の手元には新しい剣が握りしめられていた。ムラマサの方は残念ながら壊れてしまい、その代わりにレイナが新しい剣を文字変換の能力で作り出した。




――レイナの解析と文字変換の能力を使えばありとあらゆる武器が作り出せる事は既に証明済みであり、レイナの手元には4本の聖剣が存在する。そこで色々と考えた末にリルは失ったムラマサに代わる新しい武器を用意してもらう時、彼女が望んだのは新たな妖刀だった。




妖刀ムラマサは火竜との戦闘で壊れてしまい、現在はもう使用できない。しかし、レイナの能力を使えば全く同じ性能を持つ魔剣を作り出せるのではないかと考えたリルは制作を依頼した。結果から言えば聖剣と同様に魔剣の複製品も完璧に作り出せる事が判明する。


レイナの手によって新たに生み出された「妖刀ムラマサ」はオリジナルのように「呪力」の項目をかき消され、今回は「氷結」という文字を書き込む。その結果、妖刀ムラマサの呪いは消え去り、新たな能力を得た。



「はあああっ!!」

「ゴアアッ……!?」



リルはムラマサをロックゴーレムに切り付けると、流石にオリジナルほどの切れ味はないため、せいぜいロックゴーレムの表面に傷をつけるのが限界だった。オリジナルのムラマサは「諸刃」の効果によって限界近くまで性能を引き出されていたのに対し、こちらのムラマサは切れ味は劣る。



「ゴガァッ……!?」

「……成功か」



しかし、ムラマサによって切り裂かれた箇所が「氷結化」し、傷口が凍ってしまう。予想外の攻撃にロックゴーレムは戸惑い、その隙にリルは氷結化した箇所を切り裂く。



「はあっ!!」

「ゴアアッ!?」



氷結化された箇所はロックゴーレムの右腕の関節部分だったため、リルが刃を振り抜いた結果、凍った箇所が簡単に崩れ去ってしまう。大抵の物質は凍らせると硬度が落ちるが、ロックゴーレムの場合は更に水や氷に弱い性質を持ち合わせているため、肉体を凍らせると著しく硬度を落とす。


ムラマサの新しい能力である「氷結」は切りつけた箇所を凍り付かせるという能力を持ち、この力を利用してリルはロックゴーレムの肉体を凍り付かせた後、攻撃を加えて破壊する。オリジナルとは違った能力を手に入れたムラマサを手にしてリルは高揚感を覚えた。



(気に入った!!この妖刀はやはり素晴らしい!!)



その気になればレイナの力でハンゾウのように聖剣を作り出してもらう事も出来たが、敢えてリルは聖剣ではなく妖刀を作って貰ったのは単純に彼女が妖刀の方が扱いやすいと判断したからである。聖剣の類は殆どが西洋剣の形状をしているのに対し、妖刀ムラマサの場合は形状が日本刀である事が彼女の気に入った理由だった。


長剣を扱うのが得意なリルだが、彼女にとっては普通のロングソードよりも日本刀のような形をした武器の方が扱いやすく、嬉々とした表情を浮かべてリルは新生ムラマサを振り抜く。その姿はまるで戦っているというよりも剣舞を想像させ、ロックゴーレムの核が存在する箇所を遂に見つけ出し、破壊する。



「旋風!!」

「ゴアアアッ!?」



妖刀を所持した状態で戦技を発動させたリルの一撃によってロックゴーレムは核を破壊され、地面に倒れた。

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