第329話 再び火山へ
「……リル殿、既に火竜は討伐しているのだから本当に火竜と戦う必要はないのでござるか?」
「ああ、それは間違いない。私達は昨日の時点で火竜の討伐を果たしている。残された火竜はまだ子供でしかもレイナ君に従っているから争う必要はない」
「まあ、他に火竜の生き残りが存在したらやばいですけどね」
他の者に気づかれないようにハンゾウはリルに話しかけると、既に火竜の脅威は先日の時点で除去した事を告げる。先日にレイナ達は火竜を打ち倒しているため、この火山にはもう火竜は生息していないはずだった。
但し、リリスの言う通りにレイナ達が遭遇していないだけで他に火竜が生息している可能性もあり得た。しかし、前回の時に現れたのは火竜の親子だけで戦闘の最中は他の火竜の存在は確認されていない。
「しかし、子供の火竜が存在したという事は親の方も父親と母親の2匹が存在するのではないでござるか?」
「火竜は単為生殖で子供を生み出せるんですよ。それに縄張り意識も強いですからね、仮に同種であろうと肉親以外の存在が縄張りに近付こうとしたら絶対に許しません」
「おお、という事は本当に火竜と戦う必要はないのでござるな?」
リリスの言葉にハンゾウは安心した表情を浮かべるが、その言葉に対してリルは首を振った。確かにハンゾウの言う通り、先日に倒した火竜がこの火山を縄張りにしていたのならば他の火竜が存在する可能性は低い。しかし、だからといって絶対に安全とは言い切れない。
「いや……そうとも言い切れない。リリスの呼んだ資料によるとこの大迷宮では魔物が絶滅する事はあり得ない。どれだけ倒そうと必ず別の場所で魔物が誕生する仕組みになっている……私達は確かに火竜を倒したが、既に新たな火竜が復活を果たしている可能性も少なからず存在するらしい」
「なんとっ!?」
「まあ、本当にあくまでも可能性の話ですけどね。それに仮に火竜が復活していたとしてもこちらにはレイナさんがいます。今回は最初から火竜を倒してくださいね」
「大丈夫、任せて」
前回の時は火竜の強襲で戦闘に陥ったが、本来ならばどんな相手だろうとレイナの「解析」と「文字変換」の能力を使えば倒せない相手はいない。仮に火竜が復活を果たしていてもレイナならば即座に相手を即死させる事も出来た。
今回は先日の時よりも大人数のため、レイナも躊躇せずに火竜が現れた時は即座に倒す事を決意する。そして遂に捜索隊は火山へ向けて歩み、火口近くに存在する洞穴へと向かう。
「ふうっ……それにしても暑いですね、今回はシロとクロを連れてこなくて正解かもしれません」
「え?どうして?」
「シロとクロは元々は寒い地方で生まれた種だから、暑すぎる場所に連れて行くと体調不良を起こす。だから第三階層の時も同行させなかった」
「あ、そうだったんだ」
「しかし……本当に暑いな、前に来た時よりも明らかに気温がおかしいぞ」
「ぷるんっ(干からびそう)」
シロとクロは今回の遠征に連れてこなかったのは団員を一人でも多く同行させるためだったが、火山の近くに転移できたのはレイナ達にとっては幸運だと言えた。前回の時は森の中で大量の魔物に追い掛け回されたが、今回は最初から火山の近くに転移できたので幸運に恵まれた。
しかし、前回の時と違って第四階層の気温は明らかに上昇していた。全員の汗が止まらず、定期的に水分補給を行わなければ移動するのも困難な程に厳しい。
「暑い……暑すぎる!!」
「まさか、この火山噴火寸前じゃないだろうな……」
「このままだと干からびて死にそうだ……」
「泣き言をいうな!!あんな子供が頑張ってるんだぞ、それでもお前たちは誇り高き白狼騎士団の騎士か!?」
「きゅろろろっ♪」
登山の最中に弱音を吐く団員達に対してチイはサンを指差すと、彼女は鼻歌混じりで楽々とした表情で先頭を歩き、全く汗を掻いていなかった。元々はサンドワームと呼ばれる魔物であるサンはどうやら暑さに耐性があるらしく、他の人間と比べて平気そうな様子だった。
チイの言葉を聞いて子供にも劣ると思われたくない団員達は黙り込み、それ以降は弱音を吐く事もなく黙々と登っていく。やがて全員が汗で衣服が湿ってきた頃、遂にレイナ達は火竜と戦闘を繰り広げた場所へと辿り着く。
「やっとここまで来たか……だが、やはり火竜の死骸は消えているな」
「もう既に吸収されたようですね、残念です」
レイナ達が苦労して倒した火竜の死骸は跡形もなく消え去り、もう一片の肉塊どころか血の痕さえも残っていない。その様子を確認したレイナは本当に死骸を放置すると大迷宮に取り込まれることを理解した。
火竜の素材を回収する余裕がなかったとはいえ、リル達は残念そうに火竜の死骸が存在した場所に移動し、周囲を探索する。だが、その時にレイナはある事に気づき、不自然な程に岩石が散らばっている事に気づく。
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