第328話 リルの計画

「これより、今から名前を述べる者は私達と共に第四階層へ向かう!!名前を呼ばれた者は覚悟を決めろ!!我々と共に火竜を倒す気概で挑め!!」

『おおっ!!』



リルの言葉に団員達は威勢よく返事を返すが、その表情はやはり緊張を隠せない。そして今回の討伐に関してはリル、チイ、ネコミン、ハンゾウ、リーリス、サン、クロミン、そしてレイナも参加する事は決定していた。


今回は前回の反省を生かし、出し惜しみせずに最大戦力で乗り込むために更にリルは数名の団員を呼び寄せる。実力的にはトップクラスの団員達を集め、その中にはオウソウも含まれていた。



「オウソウ、一緒に頑張ろっ!!」

「おお、お前も一緒にくるのか……足手まといになるんじゃないぞ」

「ぷるぷるっ(やってやるぜ)」



サンはオウソウの事が気に入ったのか彼の背中に飛び乗り、クロミンも頭の上に乗り込む。何だかんだで意外と面倒見がよく、オウソウはサンを肩車するとレイナの元に向かい、腕を組む。



「隊長、今まで色々とあったが……いや、今までの無礼を許してほしい。俺はあんたの事を信じている」

「え?」

「流石にここまで何度も命を救われては俺だって恩を返さなければな……獣人族は義理堅いんだ。必ず、今回の遠征では隊長の役に立ってやる」

「きゅろっ、オウソウも頑張る!!」

「ぷるぷるっ」



最初の頃と比べるとオウソウも本当にレイナの事を上司として認め、敬うようになった事に他の者たちは驚き、一方でレイナもオウソウの態度の変化に一番驚いた。だが、彼が気負いすぎないように手を差し出す。



「そんなに気にしなくていいよ。仲間なんだからさ、命を助けるのは当たり前だよ。お互いにこれから一緒に頑張ろうね」

「ふっ……変わった人間だな、隊長は」



差し出された手にオウソウは少し照れ臭そうに握手を行うと、その様子を見ていたリルは腕を組み、いつの間にか団員達の間にも心境の変化が起きている事を知る。


最初の頃はレイナが加入したときは勇者レアのお気に入りというだけで、チイ達と同格の幹部扱いされていた事に不満を持つ団員が多かった。一応はレイナは実力を見せつけたが、それでも中には不満を抱く者もいた。その筆頭がオウソウだったのだが、大迷宮で共に艱難辛苦を乗り越えた事でレイナの実力を認める団員も増えてきていた。


この調子でレイナが他の団員に認められていけばいずれは勇者レアとしてだけではなく、レイナという存在も白狼騎士団にとってはなくてはならない存在に成長するだろう。それは喜ばしい事だが、同時に問題でもあった。



(国王にレイナ君が聖剣を所持している事が必ず厚遇されるだろう。場合によっては白狼騎士団から引き抜かれ、将軍職かあるいは騎士団の団長の座を譲られるかもしれない。だが、レイナ君は誰にも渡さないぞ)



リルはレイナを他の誰かの部下にさせるつもりなどなく、何があろうと自分の傍に置いておくつもりだった。それはレイナが勇者だから必要な存在という理由もあるが、他にも個人的にリルがレイナの事を気に入っている事も関係している。


何だかんだで短期間でレイナはリル以外の者たちにも受け入れられ、大切な存在へとなっている。チイも何だかんだでレイナの事は信用し、ネコミンに至ってはリル以上にレイナに懐いていた。ハンゾウとリーリスは会ったばかりなので二人がどのように思っているのかは分からないが、少なくともリーリスの場合はレイナの事を気に入っている節があった。



(不思議な子だな、レイナ君は……本当に誰とでも仲良くなれる)



サンを交えてオウソウと親し気に話すレイナにリルはある種のカリスマ性を見出し、もしも自分の身に何か起きた時は白狼騎士団の事はレイナに任せてもいいのかもしれないと考え始める。


だが、今は大迷宮の攻略のために集中し、転移台の上に15名の戦士が集まる。他の団員は転移台の周囲に集まり、緊張した面持ちで見守る。



「これより、我々は第四階層へ突入する!!各自、準備はいいな!?」 

『はっ!!』

「では出発だ!!」



全員が覚悟を決めた表情を抱くと、転移台を発動させて遂に二度目の第四階層へ転移を開始した――







――到着早々、レイナ達は前回とは違い、今度は運がいい事に火竜が生息する火山の麓へ転移した事を悟る。前の時は魔物が救う森の中に転移してしまったが、今回は目的地である火山の近くに転移出来た事は幸運だと言えた。


初めて第四階層に転移した者たちは周囲の光景を確認して驚愕の表情を浮かべるが、その一方でリル達の方は冷静に火山の頂上を見上げ、様子を伺う。その際、今回は「勇者レア」として変装したハンゾウがリルに話しかける。



「リル……団長、ここが第四階層で間違いないんですか?」

「ああ、その通りだ。我々の目的地はあの火山の火口付近に存在する洞穴だ」

「あ、あの火山を登るんですか?」

「火竜の住処に遂に……」



団員達は火山を見上げて汗を流し、この汗は冷や汗ではなく火山から放たれる熱気によるものだった。心なしか先日に訪れた時よりも第四階層の気温が高まっている様に感じられた。

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