第327話 突入部隊
しばらく時間が経過すると全ての団員が集まり、それぞれが緊張した面持ちを浮かべていた。これから巨塔の大迷宮の最大難易度の階層である第四階層に挑む以上、緊張するなというのが無理な話だった。
団員の前に立ったリルは全員の顔つきを確認すると、皆に対して先に今回の第四階層に突入した後の目的を話す。
「これより、我々は第四階層に入って幻の第五階層が存在するのかを確かめる!!そのためには転移台を見つけ出す必要があるが、この転移台に関しては火竜の住処である第四階層の火山にて既に発見している!!」
「火竜の住処に転移台が……!?」
「で、では……第五階層に繋がる合言葉は存在したのですか!?」
既にリルが第四階層に存在する転移台を発見したという言葉に団員達は戸惑いを隠せず、それならばもう第五階層に繋がる合言葉を見つけたのかと思うが、ここでリルは間を置いて否定する。
「……いや、残念ながら私達は転移台の発見には成功したが、火山に生息していた火竜に追い込まれ、負傷者も担いでいたので合言葉を確認する余裕がなかった」
「そんな……」
「火竜に襲われて大丈夫だったのですか!?」
「ああ、どうにか生き延びたよ。だが、火竜の住処に転移台があると判明した以上、我々は火竜との戦闘を避けられないという事だ!!」
ここでリルは火竜のせいで第五階層の合言葉が確認できなかったという嘘を交える。そして第四階層の火竜は既に討伐を果たしているが、敢えてリルは火竜を倒す事を宣言する。
このリルの発言に団員達は衝撃を受けた表情を浮かべるが、それは仕方ない事だった。何しろ災害の象徴である竜種を倒すという無謀にも思える作戦を提案したリルに対して、正気を疑う者もいた。
「む、無理だ……火竜を倒すなんて、そんな事ができるはずがない!!」
「そうですよ!!だいたい、どうしてそんな危険を犯して火竜に挑まなければならないんですか!?」
「静かにしろ!!まだリル様の御話は終わっていない!!」
騒ぎ出す団員達にチイが一括すると、彼等は黙り込むがその表情は暗い。当然と言えば当然の話でもあり、何しろ普通の人間(獣人)にとっては火竜に挑むなど自殺行為に等しい。
しかし、リルも団員達が抱く不安を見越しての発言のため、ここで彼女は余裕の笑みを浮かべながら勇者レアの姿に偽装したハンゾウを呼び寄せる。
「不安を抱く必要はない!!ここには勇者であるレア殿がいる事を忘れたのか!?そして聖剣デュランダルの所有者でもあるレイナ隊長もいる!!」
『おおっ!!』
「ど、どうも……」
「火竜の討伐は拙者……いや、俺に任せて欲しい」
リルに呼び出されたレア(ハンゾウ)とレイナの姿を見て団員達は希望を抱き、確かに勇者と聖剣の所有者が存在するのならば火竜に対抗する戦力としてはこれ以上に心強い存在はいない。
ちなみにレイナが聖剣の所有者である事は団員達に知れ渡り、色々と考えた末にリルはこの際に団員達にはレイナが聖剣の所有者である事を明かした。これはこれで帰還後に問題が起きそうではあるが、今は第四階層の攻略のために集中し、レイナの聖剣の存在を明かす。
「恐れる必要はない、我々には勇者殿がいる!!聖剣を手にした勇猛な剣士もいる!!なによりもここに集まったのはケモノ王国が誇る武人ではなかったのか!?火竜如きに怯えるな、我々の目的は幻の第五階層へと辿り着く事だ!!」
「幻の第五階層……!!」
「巨万の富が眠ると言われている階層か……!!」
「仮に第五階層が存在しなかったとしても、火竜を倒す事が出来れば我々は英雄として凱旋する事が出来る!!災害の象徴である竜種を倒す事で白狼騎士団の名を世界中に知らしめる好機だと考えろ!!恐れるな、私を、勇者を、自分を信じろ!!」
『うおおおおっ!!』
リルの言葉に団員達は奮起すると、その様子を見ていたリルは頷き、これで士気を高める事が出来た。後は突入のための人員を決める必要があり、今回の場合はレイナ達だけではなく他の団員も連れていく必要がある。
別に火山に向かうだけならばレイナ達だけでも問題はないのだが、今回の目的は他の団員を連れていく事で彼等にもリル達が第五階層に到達した事を証明させる必要がある。今回の遠征の目的はあくまでも白狼騎士団の任務として扱われているため、もしもリル達以外の団員が第五階層の存在を確認せずに引き返す事になれば怪しまれるだろう。
今回の遠征はあくまでも勇者であるレアと白狼騎士団が協力して第五階層に到達したという実績を残す必要があり、そのためにはレアだけが目立つわけにはいかない。あくまでも勇者ではなく、白狼騎士団が大迷宮を攻略したという事を示さなければリルの功績とは認められない可能性もあった。
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