第324話 その頃のウサン
「リーリス、その説だと誕生した強力なモンスターはずっと存在し続けるのか?」
「いえ、どうやら強力な力を身に付けた状態で生まれたせいなのか、その反動で寿命は非常に短いそうです。だいたい一か月も放置してたら勝手に死んで元の環境に戻るそうですね」
「一か月……どちらにしろ、そこまで待てないか」
「これまでに回収した素材はどの程度あるのですか?」
巨塔の大迷宮に到着してから白狼騎士団は素材集めに尽力を尽くしているが、現時点で集めた素材は第一階層で採取した薬草と第二階層に出現する魔物肉類しか得られていない。
薬草はともかく、肉類の類に関してはあまり大きな価値はない。それ相応の価値のある素材を持ち帰らなければ国王も納得せず、リルを支持する家臣たちも離れてしまう。今現在のリルが王位を継承するには大きな功績が必要だった。
「第三階層からは資源が期待できない以上、ここは第四階層に突入して火山から魔石を採掘するしかなさそうですね」
「くそっ……せめて火竜の素材さえあればどうにかなったのに!!」
チイは悔し気に地面に拳を叩きつけ、確かに火竜の素材を持ち帰れば成果としては十分だった。災害の象徴でもある竜種の素材は非常に希少で良質な代物である事は周知の事実だった。国王も竜種の素材を持ち帰れば納得せざるを得なかっただろうが、残念ながら回収できたのは爪や牙の類しかない。
せめて経験石でも持ち帰ることが出来れば良かったのだが、予想外に火竜の復活にレイナが倒れた事で火竜の素材の回収は断念せざるを得なかった。しかし、火竜という脅威がなくなった以上は今度は大人数で火山に挑むことが出来る。
「レイナ君の体調が戻り次第、第四階層に突入しよう。それまでの間は第二階層を中心に素材集めを行う。皆に通知しておいてくれ」
「はっ!!」
リルの言葉にチイは即座に従い、他の団員達の元へと急ぐ。一方でリルは倒れているレイナの手を掴み、彼女が意識を取り戻す事を切に願う――
――同時刻、ヒトノ国の帝都でも異変が起きていた。それはヒトノ国の大臣であるウサンが失踪したのだ。彼は先日に勇者の一人である「レア」を早まった判断で処刑を行おうとした事が皇帝に知られ、厳罰を与えられそうになった。
自分が殺されると判断したウサンは慌てて自分の財産を持ち出して逃げたが、彼は裏で自分が支援をしていた「魔王軍」という組織の元へ身を寄せようとする。
「くそう、あの女め……覚えていろよ、儂を敵に回すとどうなるのか思い知らせてやる!!」
「…………」
無駄に豪勢な馬車の中でウサンは酒瓶を片手に悪態を吐き、自分をここまで追い詰めたミレイに怒りを抱く。彼女が戻ってきた途端にウサンは立場が危うくなり、あと少しで捕まるところだった。
どうにか帝都の外まで離れる事が出来たウサンはこれからは自分が裏で援助していた魔王軍に取り入り、彼等に自分を匿ってもらうつもりであった。こうなった以上は帝都に戻る事は出来ず、機を伺ってどうにか皇帝に許しを請うしかない。
(あの女さえいなくなれば……いや、元々はあのガキが悪いんだ!!何が勇者だ、あの落ちこぼれが逃げさえしなければ……!!)
ウサンは自分がここまで落ちぶれてしまった原因はレアにあると考え、実際の所はレアという存在がウサンの人生を大きく狂わせたのは間違いない。だが、そもそもウサンがレアに手を出そうとしなければこんな事態には陥らなかった。
しかし、追い詰められたウサンは自分がこんな目に遭ったのはレアのせいだと思い込み、彼に復讐を誓う。何としてもレアだけを殺してやると考えていた時、唐突に馬車が急停止してしまう。
「うおっ!?な、何だ……この馬鹿者がっ!!急に止まるんじゃない!!」
「……いえ、ここいらで十分かと思いましてね」
「はあっ!?いったい何を言って……」
急に停止した馬車にウサンは怒り狂って御者に怒鳴りつけようとすると、御者の兵士はウサンの首を掴むと信じられない力で外に引きずり出す。
「ぐええっ!?ぎ、ぎさまぁっ……!?」
「……大臣でなくなったお前を生かす必要はなくなった。ここで死んでもらうぞ」
「な、なにを言ってぇっ……!?」
ウサンは兵士の言葉に目を見開き、いったい何が起きているのか理解できなかった。どうして自分の私兵が逆らうのかと戸惑っていると、兵士は頭に身に付けていた兜を取り外す。
次の瞬間、ウサンの視界に入ったのは兜を外した兵士の頭に角が生えている事を気づく。それを確認したウサンは動揺を隠せず、兵士の正体を見抜く。
「き、貴様はぁっ……!?」
「ウサン、貴様はもう用済みだ。魔王軍の完全復活まであと少し……お前はそのための贄にしか過ぎん」
「な、何だと……うげぇっ!?」
「もうお前の力は必要ない……死ねっ!!」
「ぎぃああああああっ!?」
頭に「鬼」のような角を生やした男はウサンの首を掴むと、そのまま力任せに締め付け、ウサンは奇声を上げながら首がゆっくりと折り曲げられた――
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