第325話 ウサンの末路

首がへし折れたウサンを確認すると、角を生やした男は彼を地面に放り捨てる。そして馬車の方に戻って中を確認すると、ウサンが長年の間にため込んでいた金銀財宝を確認して笑みを浮かべる。


ヒトノ帝国の悪徳大臣として暮らしていたウサンの資産は凄まじく、しかも彼の兵士として仕えていた男はウサンが更に隠し財産を所有している事を知っていた。既に他の仲間達に連絡を伝え、彼が所持していた財産の殆どは回収済みである。



「これで魔王軍は更に発展する。良かったな、魔王軍が完全に復活を果たしたとき、お前の名も歴史に刻んでやるぞ……魔王軍の贄となった哀れな人間とな!!」



男は地面に倒れたウサンの身体を蹴り飛ばすと、高らかに笑い声をあげた。ウサンのお陰でヒトノ国内で活動していた魔王軍は規模を拡大化させ、各地に散らばっていた魔人族を取り込んで組織を強化させた。


ヒトノ国に潜入していたリル達は魔王軍を影で操っているのはウサンだと思い込んでいた。しかし、実際の所はウサンは魔王軍の支援者に過ぎず、魔王軍という組織を管理する人間は別に存在する。



「さて……そろそろヒトノ国から手を引くか。勇者を仕留める事が出来なかったのは残念だが、今は仕方ない」



ウサンを生かしていた理由は彼が魔王軍の支援を行い、しかも国の中枢を担う存在だったので魔王軍も手を出す事は出来なかった。しかし、現在のウサンはレアの件で国王から信頼を失い、さらにミレイが戻ってきたことで彼の傘下の貴族達も彼女に鞍替えしてしまう。


最早ウサンは魔王軍から価値がないと判断すると、彼の財産だけを奪い取って殺す事を決めた。男はウサンの死体に視線を向け、少しだけ憐れみの視線を向ける。



「お前も可哀想な男だな……自分が利用されている事も気づかずに死ぬことになるとはな。まあいい、せめてもの情けだ。どうせ国に戻ってもお前は処刑されるんだ。それならせめて協力者の俺達に殺された方がマシだろう?」

「……け、るな……!!」

「何?」



驚いた事に首をへし折って確実に殺したと思われたウサンが目を見開き、男を睨みつけた。彼がまだ生きていた事に男は驚くが、既にウサンの命は尽きかけていた。



「ぎ、さま、らぁっ……ころ、す……ころし、てやる……!!」

「驚いたな……お前、本当に人間か?ただの豚だと思っていたが、まさか生命力もオーク並だったとはな」

「ゆる、さん……ぞぉっ!!」



ウサンは首が折れた状態でしかも目の焦点が合っていないにも関わらず、懐に隠していた魔石を取り出す。まさかそんなものを身に付けていたとは思わず、男は一瞬だけ動揺した表情を浮かべるが、すぐに笑みを浮かべる。



「なるほど、腐っても魔術師か……自分の身を守るために魔法を使う道具は身に付けていたというわけか」

「し、ねぇっ……ぼるとぉっ!!」



黄色に光り輝く魔石を取り出したウサンは目を血走らせながら呪文を唱えると、魔石が光り輝いて一筋の電撃と化す。その魔法攻撃に対して男はまともに受けると、全身に電流が走った。


最後の力を振り絞ったのか、魔法を撃ち込んだ瞬間にウサンの目から光が失われ、彼は今度こそ完全に死んでしまう。そして魔法を直撃した男も身体が傾くが、すぐに体勢を持ち直す。



「……最後の最後で飼い主に牙を向けたか、見直したぞウサン大臣」



魔法を直撃したにも関わらずに男は全身から煙を噴き出しながらも笑みを浮かべ、ゆっくりとウサンの元へ近づく。どうやら死ぬ前に残っていた魔力を全て消耗して魔法を発動したらしく、完全にウサンは死亡していた。


そんな彼を見て男は笑みを浮かべると、せめてもの情けとして彼が襲われる直前まで所持していた酒瓶を見つけ、顔面に降り注ぐ。そして中身を全て注ぎ込むと、ウサンを放置して馬車の元へと戻る。



「じゃあな、お前には素直に感謝しているよ……今度生まれ変わるときは立派な「魔族」になれるといいな」



それだけを言い残すと男は馬車に乗り込んで走り出し、残されたウサンの遺体はその後、血の臭いを嗅ぎつけた草原の魔物たちの餌食となった――






――ウサンが逃亡した件は即座にヒトノ国内に広まり、彼が所有していた財産が全て消えている事も判明した。これによって皇帝はウサンを謀反人と判断し、ヒトノ国全域に彼を犯罪者として指名手配した。


この事から仮に魔王軍がウサンを殺さずとも彼の運命は決まっていたといえるが、結局は誰一人としてウサンを見つけ出す事は出来ず、彼は国家を危機に陥れた最悪の犯罪者として歴史に名前を残した。






※ウサンの末路は色々と考えましたが、やはり主人公に討たれるよりもこんな最期が相応しいと考えました。

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