第322話 一時帰還
「まさかブロックゴーレムでさえもどうする事も出来なかった転移台を傷つけるとは……子供とはいえ、流石は火竜か」
「シャウッ?」
「だが、第五階層が実在すると分かっただけでも大きな成果だ」
幻の第五階層が実在する事は確認され、リルは台座に視線を向けて悩む。どうにかして文章を読み取りたい所だが削り取られた箇所が多く、元の言葉を解読するのは難しい。もしもレイナが無事だったのならばレイナの能力で元の状態に戻せたかもしれない。
しかし、その肝心のレイナは成長痛によって意識を失ってしまい、すぐにでも身体を休ませなければならない状態だった。リルは仕方なく、今回の探索は中断して帰還する事を決めた。
「一度、外へ戻ろう。転移台が存在する場所は確認した。それに火竜の脅威はもうなくなった以上、ここへはいつでも戻ってこれるだろう」
「結局、火竜の素材はあんまり取れませんでしたね……もう死骸の方は大迷宮に吸収されている頃でしょう」
「勿体ないけど、諦めるしかない」
「そうだな、だが少しだけでも回収できたのなら十分だろう。それに火竜よりもレイナ君の身の安全を優先しなければならない。僕たちの希望の勇者様を死なせるわけにはいかないからな」
「ううっ……」
リルはレイナを背負うと転移台に移動を行い、残念ながら帰還する事にした。他の者たちも転移台の上に乗り込むが、アカだけは転移台の前に居座り、リル達の行動を見守る。
このままアカを連れて行けば何らかの戦力になるかもしれないが、それはそれで面倒な事態に陥りそうだった。第一に大迷宮の魔物は外に連れ出す事は出来ず、ここへ残して行くしかない。
「じゃあね、アカ。またここに来るからね」
「シャアアッ……」
「この火竜……いや、アカは1匹だけで暮らしていけるのでしょうか?」
「それは分からないな……だが、子供とはいえ火竜である事は間違いない。下手に手を出す存在はいないだろう」
親を失ったアカだけを残して行くことにリル達は罪悪感もあったが、当のアカは親を殺されたにも関わらずにリル達を恨む様子はない。レイナの力で服従した結果、アカの心境に何か変化があったのかもしれない。
クロミンにしろ、サンにしろ、レイナの能力によって元の生物から変化が起きた存在は普通の魔物とは異なり、感情が豊かになる傾向があった。これはレイナが能力を扱う時に何か影響を与えているのかもしれず、火竜の方もレイナ以外の存在に対しても素直に従っている。
「アカ、私達は一旦戻る。君はここから無暗に離れないようにしろ」
「シャウッ!!」
「私達の言葉を理解しているんでしょうか……?」
「それは分からないが、クロミンもサンも私達の言葉を理解している。きっと、このアカも大丈夫だろう」
「また来るからね、今度はお土産も用意する」
「シャアッ♪」
ネコミンの言葉に火竜は嬉しそうに頷き、リルは台座の上に掌を前にして帰還の準備を行う。しっかりとレイナを抱き上げ、今度来るときは必ず第五階層へ戻る事を近い、転移台を起動させた――
――リル達が外界へ帰還すると、予想よりも早く戻ってきたことで団員達は驚き、しかもレイナが気絶しているのを見て団員達は慌てふためく。すぐにリリスが駆けつけると、彼女の容態を確認する。
「……うん、酷い成長痛ですがしばらく眠らせておけばいずれは目を覚ましますね。このまま寝かせておいても問題ないでしょう」
「ほ、本当か?本当に大丈夫なんだろうな?」
「全く、チイ先輩は心配性ですね。大丈夫ですよ、今はゆっくりと休ませてあげましょう」
「それにしても火竜を倒すとは……やはりレイナ殿は勇者だったのでござるな」
「しっ……幕舎の中とは言え、誰か聞き耳を立てているのか分からないんですよ。もっと声を抑えてください」
幕舎の中に運び込まれたレイナはリリスの見立てでは放置しておいても問題なく、しばらくの間は寝かせておけば自然と目を覚ますと判断された。現在は成長痛によって肉体に痛みが走り、意識も途切れているがいずれは身体が馴染むという。
倒れたレイナが目を覚ますまでは第四階層に挑む事は出来ず、その間はリル達は他の団員の指揮を取り仕切る。現在は第一階層と第二階層を中心に素材の回収を行っているが、今後は第四階層でも素材の回収を試みる必要がある。
「リル殿、第一階層に向かった部隊が予定よりも早く戻ってきたでござる。なんでもゴブリンを討伐して薬草の採取を行っていたら、ゴブリンキングが現れて撤退せざるを得なかったらしいでござる」
「ゴブリンキング!?部隊は無事だったのか!?」
「はい、被害は大きかったですが全員の治療は終えています」
「しかし、昨日は私の部隊が出向いたときはゴブリンキングは確認されていなかったが……」
ハンゾウの報告を聞いてリルは驚き、先日まではゴブリンキングの存在など確認されなかったが、唐突に第一階層に現れて薬草採取のために行動していた部隊に被害を与えたという。死傷者は出なかったが撤退に追い込まれ、今回の収穫はあまりないという。
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