第320話 成長痛の脅威、再び
「た、倒した……のか?」
「凄い……」
「何だ今のは……まさか、これが勇者の魔法なのか!?」
「いえ、違います。俺の世界に存在する武器を作り出しただけです。大迷宮の時にも使った……!?」
「「ウォンッ?」」
火竜が倒れた光景を見てリル達が茫然とする中、レイナは自分の攻撃が成功した事に安心したのも束の間、全身に異常な程の激痛が襲い掛かる。
最初は火竜に吹き飛ばされた時の痛みが遅れてやってきたのかと思ったが、この世界に訪れたばかりの頃、似たような感覚をレイナは既に何度か味わっている。すぐに肉体の異変の原因を察したレイナはその場に倒れ込む。
(まさか……成長痛!?どうして……!?)
全身に襲い掛かる痛みにレイナは声を上げる事もできず、身体が麻痺したように動けない。唐突に倒れたレイナを見てリル達は驚き、慌ててリルがレイナを抱き上げて状態を調べた。
「レイナ君!?どうしたんだ急に……」
「あ、がぁっ……」
「レイナ!!しっかりしろ、何処か怪我をしたのか!?ネコミン、すぐに回復魔法を……」
「これは……怪我じゃない、多分だけど成長痛に襲われている」
「成長痛!?いったいどうして……そうか、火竜と火竜の経験石を破壊した事でレイナ君の身体に膨大な経験値が入ったのか。それでレベルが急激に上昇して……」
「成長痛は回復魔法では治せない。だけど、いずれは肉体の成長も終われば痛みもなくなるはず。今はレイナの身体を安全に休ませる必要がある」
ネコミンはすぐにレイナの身体の異変に気付くと、自分の回復魔法では治せないことを悟る。現在のレイナの肉体はより強靭な身体へと作り変えられているため、下手に回復魔法を施せば逆に悪影響を及ぼす可能性があった。
もう既に半ば意識が飛んでいるレイナをリルは抱きかかえると、倒れた火竜に視線を向けて残念ながら素材の回収を諦めるしかなかった。今は一刻も早くレイナを安全な場所に連れていくため、彼女は指示を出す。
「一刻も早く、ここからレイナ君を連れ出す。まずは安全な場所を探すんだ、シロ、クロ!!周囲を警戒しろ!!」
「「ウォンッ!!」」
「シャウッ?」
命令を受けたシロとクロは周囲に気を配り、鼻を引くつかせながら近くに魔物が存在しないのかを確認を行う。一方でアカの方はレイナの異変に気付くと、彼の元に顔を近づけ、苦しそうな表情を見て首を傾げる。
「シャアアッ……」
「アカ!!今はお前に構っている暇はないんだ、下がっていろ!!」
「待て……レイナ君が何か伝えようとしている」
「レイナ?」
痛みで意識が朦朧としながらもレイナは顔を近づけてくるアカに対して何事かを囁き、その声を聞いたアカは頷くとリル達に顔を向けて鳴き声を上げた。
「シャアッ、シャアッ!!」
「な、何だ?」
「付いて来い、と言っている様に見える」
「私もそう思った。だが、何処へ連れて行く気だ?」
意識を失いかけているレイナに何らかの指示を受けたのか、アカはその場を移動するとリル達に付いて来いとばかりに鳴き声を上げる。その様子を見てレイナを抱えたリルは考えた末、ここはレイナを信じてアカの後に続く。
アカの先導の元、リル達は後を付いてくとやがてアカは洞穴の前まで辿り着く。最初にアカが餌場としていた洞穴とは別の場所に存在し、この中に入るようにアカは促す。
「シャウッ!!」
「ここは……洞穴なのか?」
「でも、何か変な感じがします……ここの洞窟だけ、妙に岩壁が滑らかというか」
「前に牙山でレイナが作った「とんねる」と似ている気がする」
火竜が案内した洞穴はまるで人工的に作り出されたトンネルと酷似しており、随分と奥まで続いていた。しかも天井の部分には光り輝く魔石が埋め込まれているらしく、中は意外と明るい。
天井に嵌め込まれた魔石を見てリルは「光石」と呼ばれる聖属性の魔石の一種だと確認し、この光石のお陰で洞穴内は常に明かりが灯されていた。火竜は洞穴の奥の方へと移動を行い、その様子を見てリル達も意を決して洞穴の中に入り込む。
「この洞穴……前にレイナが作り出した「とんねる」と本当によく似ていますね」
「ああ、もしかしたらレイナ君と同じ勇者が作り出した物かもしれない」
「という事は……」
「……もしかしたら私達が向かう先に目的地が存在するのかもしれないな」
リルは「トンネル」の奥に何が待ち構えているのかを薄々と感じ取ると、やがて彼女の予想を裏切らず、トンネルの奥には大きな空間が存在した。そして案の定というべきか、リル達が最も探し求めていた建造物が待ち構えていた。
――トンネルの最奥に存在したのは巨大な転移台が存在し、今までにリル達が使用した転移台と比べると3倍近くの大きさを誇っていた。第四階層に訪れてから半日も経過しないうちにリル達は目的の物を発見し、レイナを抱えた状態でリルは転移台の台座に近付く。
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