第319話 竜種の生命力

――アギャアアアアッ!!



確実に死んでいたはずの火竜の咆哮が第四階層に響き渡ると、背中に乗っていたレイナは振り落とされないように慌ててアスカロンを背中に突き刺す。一方でリルとチイは武器を構えるが、傷だらけの火竜は起き上がると尻尾を振りかざす。


既に爪と牙は剥ぎ取られ、残された武器は尻尾しか残っていなかった火竜は横なぎに振り払う。その攻撃に対してリルとチイは反射的に上に飛んで攻撃を回避した。結果的にはその判断は正しく、振り払われた尻尾は周囲に存在した岩を破壊するほどの威力を発揮する。



「馬鹿なっ!?まだ生きていたのか!?」

「まさか、どうして生きていられる!?」

「アアアアッ……!!」



普通の生物なら生きていられるはずがない大怪我を負いながらも火竜は暴れ狂い、その姿を見たリルとチイは戸惑う。一方でレイナの方は火竜の背中から振り落とされないように耐え抜く中、傷口の奥で光り輝く火竜の経験石に視線を向け、ある推論を立てた。



(火竜にとっては核(経験石)は心臓よりも重要な物……という事は、まさか核を心臓代わりに利用して復活したのか!?)



信じられない事に火竜は体内の核(経験石)の魔力を利用して復活を果たしたとしか考えられず、レイナは経験石の様子を眺めて光が強まっていくのを確認する。



(あの核をどうにかしないとこいつは止まらないのか……なら、壊すしかない!!)



振り落とされないようにアスカロンにしがみつきながらもレイナはフラガラッハを引き抜き、激しく揺れる背中の上でどうにか体勢を整えると、核に向けて近づく。


ここでレイナが気づいたのは傷口の部分から大量の血液が噴き出し、一向に傷口が再生する様子がない事を悟る。いくら心臓の代わりに核が動き出したとしても既に受けた怪我を直す事は出来ないらしく、実際に剥ぎ取られた牙や爪の方の傷口からも血液を吹き出していた。



(こいつが弱っている内に早く仕留めないと……!!)



傷口が再生しない事はレイナにとっては有難く、噴き出してくる血液を浴びながらも彼女はフラガラッハで核を何度も切りつける。しかし、アスカロンの刃でさえも掠り傷を与える事が出来なかった火竜の経験石は異常なまでに頑丈で硬く、フラガラッハの刃でも弾かれてしまう。



「くそ、このっ!!」

「アアアッ!!」

「うわっ!?」

「レイナ、逃げろっ!!」

「核はもういい、早く逃げるんだ!!」



既にチイとリルは火竜と十分な距離を取り、レイナに逃げるように促す。火竜は背中の傷口に入り込んだレイナを引き剥がそうと暴れるが、激しく動けば動くほどに血液が噴き出す。


どうにか吹き飛ばされないように耐えながらも、レイナは掠り傷を与える事しか出来ない火竜の核を見て考え、どうにか破壊する方法はないのかと考える。そして廃墟街でホブゴブリンの住処を発見した時に利用した武器の事を思い出し、レイナは制服のボタンを一つを引き千切る。



「解析……!!」

「オアアアアッ……!?」

「くっ……この、うわっ!?」



傷口の中のレイナが何かをしようとしている事を本能で察したのか、火竜は必死に暴れ狂い、レイナを引き剥がそうとする。やがて数秒後にはレイナの身体は外へと放り出され、地面へと倒れ込む。


その様子を見ていたリルとチイは助けに向かおうとしたが、その前に先にシロに乗り込んだネコミンが向かい、彼女はレイナの腕を掴むとそのまま連れ出す。



「レイナ、無事?」

「いてててっ!?引きずってる、引きずってるから……!!」

「ウォンッ!!(我慢して!!)」



ネコミンに腕を掴まれた状態でレイナは地面に引きずられて悲鳴を上げるが、今は一刻も早く火竜から逃げる事を優先して距離を取る。やがて邪魔者を追い出した火竜は背中の傷口に違和感を覚え、戸惑いの表情を浮かべる。



「アアアッ……!?」

「……どかーんっ!!」



シロに引きずられた状態ながらもレイナは笑みを浮かべると、掌を開く。その直後、火竜の背中から激しい爆炎が発生して火竜の絶叫が響く。




――ギャアァアアアアッ!?




凄まじい爆発が火竜の背中によって発生した事で体内に爆炎が広がり、流石に炎に耐性があるとはいえ、傷ついた状態での内部から爆発を受けた火竜は無事ではいられず、口元から煙を吐き出しながら倒れ込む。


その様子を見ていたリル達は唖然とするが、レイナの方は火竜が動かなくなったのを確認して安心した表情を浮かべ、作戦が上手くいったことを確信する。火竜の背中から放り出される前にレイナが行ったのは「ボタン」を利用して「手榴弾」を作り上げたのである。




廃墟街にてまだレイナがゴブリンやホブゴブリンを倒して経験値を稼いでいた頃、レイナはホブゴブリンが暮らしている建物に「手榴弾」を使った事がある。本人は見張り役のホブゴブリンを吹き飛ばすために使用したのだが、結果から言えば手榴弾の威力は凄まじく、門を破壊するどころか建物を全壊させるほどの威力の爆発を生み出した。




想像以上の爆発の規模の原因はレイナが覚えている「剛力」それにフラガラッハの「攻撃力9倍増」が関わっていると思われ、本来の威力の10倍以上の爆発を引き起こした手榴弾によって火竜は背中を爆破され、地面に倒れ込む。

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