第314話 妖刀の力
「ガアッ!!」
「シャアッ!?」
「シロ!?」
レイナの元に火竜の幼体が辿り着く前にシロが接近すると、そのまま首元を噛みついて地面に押し倒す。火竜の幼体は必死に引き剥がそうとするがシロは離れず、火竜の鉤爪に身体を切りつけられても牙を離さない。
シロの行動を見たネコミンは助けに向かうべきか考えたが、ここで自分がするべき事はシロの手助けではなく、レイナを助ける事だと判断して彼女はレイナの元へ向かう。シロが時間稼ぎをしている間、彼女はレイナに回復魔法を施す。
「レイナ、頑張って……すぐに治す!!」
「うっ……」
ネコミンはレイナの身体を支えると、掌を胸元に押し付けて回復魔法を施す。怪我さえ直せばレイナはまだ戦えると判断し、急いで治療を施そうとするが、その間にも火竜は怒りの咆哮を放つ。
「ガァアアアッ……!!」
「シャアアッ!!」
「ギャインッ!?」
火竜が怒声を放つと、幼体の火竜は首筋に噛みついたシロを持ち上げ、近くの岩に叩きつける。結果としてシロは気絶してしまい、火竜の首を解放してしまう。その隙に火竜の幼体は走り出すと、レイナ達を距離を開く。
自分の子供が避難したのを確認すると、上空の火竜は確実に止めを刺すために大口を開き、再び火炎の吐息を放つ準備を行う。それを見たネコミンはレイナの治療を頑張るが、完全に傷を塞ぐには時間が足りなさ過ぎた。
「アガァアアアッ……!!」
「くっ……ネコミン!!」
「きゃっ!?」
レイナは火竜が口元から炎を迸らせたのを確認すると、ネコミンの身体を抱きしめて彼女だけでも守ろうとした。そんな二人に対して火竜が火炎の吐息を放射しようとした瞬間、狼の鳴き声が響き渡る。
――ウォオオオンッ!!
気絶したシロとは別の狼の鳴き声が響き渡ると、火竜の元に黒い影が飛び出す。驚いた火竜は視線を向けると、そこにはクロに乗り込んだ状態で刀を抜いたリルの姿が存在した。彼女は空中にてクロを足場にして更に跳躍を行うと、妖刀ムラマサを構えた状態で火竜に攻撃を仕掛けた。
「和風牙!!」
「アギャアアアッ!?」
「シャアッ!?」
身体を回転させながら振り下ろされた妖刀の刃が見事に火竜の首を斬りつけると、鮮血と同時に炎が噴き出し、火竜は悲鳴を上げながら地面へと転落していく。体内の炎をため込んだ状態で首を斬られた事により、内部にたまっていた炎が口から吐き出される前に出来上がった傷口を通して火炎が放出された結果、火竜は首筋の傷口が焼け焦げてしまう。
リルは火竜が地面に墜落する姿を確認すると、獣人族の身体能力を生かして見事に地面に着地し、妖刀の様子を伺う。先ほどの攻撃で火竜に損傷を与える事には成功したが、その刃には一切の刃毀れは存在せず、頑丈な火竜の鱗さえも切り裂く切れ味を誇る。
「これは……素晴らしいな、壊すのが惜しいほどだ」
「リル様!!ご無事ですか!?」
「ウォンッ!!」
ムラマサを嬉々とした表情で眺めるリルの元にクロと遅れてやってきたチイが辿り着き、ムラマサを鞘に戻したリルは無事であることを伝えるとレイナ達の元へ向かう。
「私は大丈夫だ。それよりもレイナ君が……」
「レイナ!?ネコミン!?大丈夫なのか!?」
「ウォンッ!?」
「……私は平気、レイナは重傷だけど」
「そ、それよりもシロ君の方を……」
レイナはネコミンに抑えられる形で傷口に回復魔法を施してもらい、一方で気絶したシロの方へはクロが慌てて駆け込む。その様子を見たリルは地面に倒れた火竜に視線を向け、レイナが完治するまでは自分達が戦うしかないことを悟る。
「ネコミン、出来る限り早く治してくれ……時間稼ぎは私達が行う」
「まさか火竜と戦う羽目になるとは……行くぞ、クロ!!」
「グルルルッ……!!」
チイがクロを呼びかけると、気絶したシロの仇を討つためにクロは彼女の元に駆けつけ、背中に乗るように促す。チイはリルに頷くと、クロに乗り込んで走らせる。それを見たリルはムラマサの柄を握りしめると、その後を追う。
「シャアアアッ!!」
「ガアアアッ……!!」
地面に倒された成体の火竜は傷口が深く、完全には意識を取り戻していなかった。一方で幼体の火竜の方は親を守らんとばかりに迫りくるクロとチイに視線を向け、正面から迫ってきた。その様子を見てリルは火竜の幼体の方はチイとクロに任せると、彼女は倒れている火竜の元へ向かう。
不意打ちを受けて傷を負わせたとはいえ、火竜を相手にリルは一人で勝てる自信などない。だが、今の彼女の手元には七大聖剣んと渡り合える力を持つ魔剣が存在し、それにレイナによって「諸刃」の性能を追加されたムラマサは限界近くまで性能が強化されていた。魔剣を信じるというよりもレイナの力を信じて彼女はムラマサを引き抜き、火竜へと迫る。
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