第307話 レイナの成長

「つ、強い……!!」

「凄いレイナ……格好良い」

「まさか、これほどとは……」



レイナの圧倒的な強さを目の当たりにしたリル達は驚きを隠せず、短期間で明らかに強くなっているレイナを見て戸惑う。レイナがこの世界に訪れてから二か月も経過していないが、彼は既に幾度の戦闘を経て立派に成長していた。


短期間の間にレイナは何度も危険度の高い魔物と激闘を繰り広げ、時には魔物だけではなく人間も相手をした。彼は自分が作り出した聖剣を使い、その特性を理解して使い分けるようになり、今では聖剣の扱い方も様になっていた。もう既にレイナの実力はリル達を凌駕し、仮に聖剣を使わなくとも今のレイナならば並の魔物に後れを取るなど有り得ない。



(間違いなく強くなっている……大迷宮に訪れてからも強敵を倒し続けた事でレイナ君自信も成長しているのか)



大迷宮に辿り着くまでの道中でレイナは魔物と何度も交戦し、大迷宮へ訪れてからもキングボア、リビングアーマー、ブロックゴーレムという強敵たちを倒している。戦えば戦うほどにレイナも聖剣の扱い方を掴み、更に魔物との戦闘での立ち回りも上手くなっていく。


勇者の中では役に立たないと思われて不遇な扱いを受けさせられていたレイナだが、基本的な戦闘の基礎はヒトノ帝国で暮らしていた時に戦闘訓練を受けて学んでいる。また、文字変換のお陰で複数の技能を覚えた事で今では熟練の剣士にも劣らぬ剣捌きで赤毛熊を圧倒した。



「でりゃあっ!!」

「ウガァッ!?」



レイナは剣を振り抜くと赤毛熊は咄嗟に腕で弾こうとしたが、レイナの扱う聖剣はどちらも切れ味が鋭く、防ごうとした赤毛熊の腕を逆に簡単に切り裂く。並の金属で構成された武器ならば赤毛熊の頑丈な毛皮には通じなかっただろうが、レイナの扱う武器は聖剣であるため、防ぐことは出来ない。


最近はデュランダルばかりを使っていたが、レイナが最も扱うのが得意とするのはフラガラッハを装備した状態のアスカロンである。元々、アスカロンは単体だけでも煉瓦の壁を豆腐のように切り裂く切れ味を誇るのだが、更にフラガラッハの「攻撃力3倍増」の効果によってより切れ味は強化され、もしかしたらブロックゴーレムであろうと切り裂くほどの切断力を誇るかもしれなかった。



「はああっ!!」

「ギャインッ!?」

「やった!!」

「「ウォンッ!!」」



レイナが二体目の赤毛熊の頭部を切り裂くと、チイとシロとクロは歓喜の声を上げ、残された赤毛熊は仲間達がやられた光景を見て動揺したようにレイナに視線を向ける。だが、その様子を見ていたリルはその隙を逃さず、最後の赤毛熊に向かう。



(レイナ君ばかりに負担をかけるわけにはいかない……ムラマサ、お前の力を見せてみろ!!)



ムラマサを構えたリルは背後から赤毛熊に接近すると、相手が気づく前に攻撃を仕掛け、戦技を発動させた。



「辻切り!!」

「アガァッ……!?」



不意打ちや奇襲の際に使用すると通常時よりも威力を発揮させる戦技を発動させ、赤毛熊の首に目掛けてリルはムラマサを振り抜く。


その結果、ムラマサの刃は見事に赤毛熊の首を切断し、あまりの手応えのなさにリルは本当に自分が赤毛熊を切り裂いたのかと疑う。



(当たらなかった……いや、斬ったのか!?)



リルは着地するのと同時に赤毛熊に振り返ると、そこには仁王立ちの状態で立ち尽くした赤毛熊が存在し、彼女は剣を構えた。しかし、やがて首筋から血を流すと赤毛熊の頭部がゆっくりとずれて地面に落ちた。その光景を見てリルは目を見開き、ムラマサを確認する。



「なんという切れ味だ……信じられない、これが剣の魔王が愛用したムラマサなのか」

「り、リル様!!ご無事ですか?」

「ああ、問題ない。それよりも……」



リルはムラマサを鞘に戻すとレイナの方に振り返り、既に彼が聖剣を元に戻して倒れている赤毛熊の様子を伺っているのを確認する。どうやら赤毛熊の素材を剥ぎ取るべきか悩んでいるらしく、リルに振り返って問い質す。



「リルさん、この赤毛熊はどうしたらいいですか?」

「……回収しておこう、血の臭いに釣られて他の魔物が現れるかもしれないが、赤毛熊の素材は貴重だ。肉は食用に適しているし、爪も毛皮も素材としては高級品だ。出来る限り素材は持ち帰りたい」

「分かりました」



レイナはリルの言葉を聞いて以前に覚えておいた「解体」の技能を使用し、赤毛熊の素材の回収を行う。リル達もレイナに習って他の魔物が訪れる前に素材の回収を行うと、ある程度の素材は回収した後に各自が所持していた鞄の中に保管する。


素材の回収を終えるとレイナ達は急いでその場を離れ、血の臭いを嗅ぎつけた他の魔物が訪れる前に移動を行う。目的地は火竜の住処である火山だが、流石に大迷宮の中で最も難易度が高いと言われている第四階層なだけはあり、次々と新手の魔物が立ち塞がる――

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