第306話 火山へ
地上へと戻ったリルは火山を発見した事をレイナ達に伝えると、これから自分達は火山へ向かう事を告げる。当然だが、火竜の住処に自分達の方から向かう事にレイナ達は驚かされ、チイは反対した。
「い、いけませんリル様!!火竜の住処に向かうなんて……正気の沙汰じゃありません!!」
「別に火竜に挑むわけじゃない。あくまでも火山を調べるだけだ……といっても、確かに火竜と交戦する可能性は高いがな」
「無謀過ぎます!!私は反対です!!」
「しかし、他に第五階層に繋がる転移台が存在する場所の心当たりはないんだ。いずれにせよ、この広大な密林を残りの滞在期間を費やしたとしても見つかるとは思えない」
既に大迷宮に訪れてからそれなりの日数が経過し、さらに引き返す時間も考えたらとてもではないが人でも時間も足りない。ここがただの密林ならば団員達を連れ出して捜査も行えるが、この第四階層は最も危険度が高く、火竜のような竜種が生息する階層である。
下手に大人数で転移すれば他の魔物に見つかりやすく、交戦になる可能性が高い。しかし、少数で捜査を行うにはあまりにもこの階層は広大過ぎる。密林という性質上、今までの階層よりも動きにくく、敵が現れた時の対処が難しい。それに転移台が発見されていない以上、この階層では転移石と呼ばれる魔石を使わなければ戻れないのも問題だった。
「このまま密林地帯を調べるよりも、火竜の生息する火山へ向かい、転移台を探す事が一番だ。もちろん、危険は大きいが当てもなく密林を彷徨うよりも見つかる可能性は高いと思ってる」
「しかし……」
「リルとレイナ君の地図製作の能力は永続的な効果はない。この階層を抜け出せばいずれは消えてしまう。だからといってこの階層に留まり続けるのは危険すぎる、ならばいっその事、最も危険地帯の調査を行った方がいい」
「だから火竜の住処に向かうんですか?」
「ああ……もしも火竜に発見された場合、悪いがレイナ君に任せたい。君の力でクロミンやサンの時の様に火竜を従えさせる事が出来るかい?」
「多分、問題はないと思います」
リルの言葉にレイナは頷き、確かに文字変換の能力を利用すれば火竜が現れたとしても対処は出来る自信はあった。レイナが存在しなければリルも無謀に火竜の住処に向かおうなどとは言い出さず、ここはレイナを信じて彼女は火山に向かう事を決定した。
「行こう、火山に……火山にもしも転移台が存在しなかった場合、この階層には恐らく転移台は存在しないだろう。その時は火竜の素材を手土産に王都へ引き返そう」
「……リル様がそこまでおっしゃるのならば私は従います」
「私も……レイナを信じる」
「……行きましょう」
「「クゥ~ンッ」」
これから向かう先に魔物の生態系の頂点に立つ竜種が待ち構えているというだけでも恐ろしく、それでも探索を止めるわけにはいかず、レイナ達は密林を進んで火山の存在する場所へと向かう。
「リル様、方角はあっていますか?」
「大丈夫だ。ここから北へ向かえば火山へたどり着けるはず……だが、その前に邪魔者を排除する必要があるな」
「えっ?」
「……何かが近づいてくる」
「「グルルルルッ……!!」」
リルは獣耳を動かし、ネコミンも鼻を鳴らすと、シロとクロは威嚇するように牙を剥き出しにした。他の者たちの反応からレイナは敵が近づいてきている事に気づき、武器を構えるとチイが声を上げた。
「来るぞ!!」
『ガアアアアッ!!』
森の奥から現れたのは3体の全身が赤色に染まった熊であり、それを見たリルはムラマサを引き抜いて魔物の正体を見抜く。
「赤毛熊……やはり、この大迷宮に存在したか!!」
「厄介な奴に見つかりましたね……しかも3体も」
「……しかも大きい」
姿を現したのは体長が3メートルを超える赤毛の巨大熊であり、レイナ達を取り囲むように赤毛熊は散らばる。その様子を見てリル達は警戒するように武器を構えるが、レイナの方は真っ先にフラガラッハとアスカロンを取り出すと、臆する事もなく駆け出す。
「はああっ!!」
「ガアッ!?」
「レイナ!?無暗に突っ込むのは危険だ!!」
赤毛熊の一体に雄たけびを上げながら接近したレイナに対してチイは驚き、すぐに彼を止めようとした。だが、赤毛熊の方は迫ってきたレイナに対して既に右腕を構え、振り下ろそうとした。
「ウガァッ!!」
「遅いっ!!」
しかし、振り放たれた右腕の爪に対してレイナは頭を下げて回避すると、フラガラッハとアスカロンを左右から放ち、赤毛熊の胸元に刃を放つ。結果としては赤毛熊の肉体は二つの刃によって切り裂かれ、鮮血が舞う。
「アガァッ……!?」
「何だ……リビングアーマーと比べたら大したことないな!!」
胸元を切り裂かれて目を見開いた赤毛熊に対してレイナはアスカロンを振り抜き、頭部を切り離す。
地面に赤毛熊の胴体が倒れ、頭部は何が起きたのか理解できない表情のまま地面に転がり込む。その光景を見てリル達は目を見開く。
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