第301話 ムラマサの扱い

「しかし……ムラマサを発見したといっても国王がこれを功績と捉えてくれるかどうかは微妙だな」

「え、どうして?」

「さっきのハンゾウの話を聞いていただろう?この妖刀は作り出されただけで和国を滅ぼしかけた危険な代物だ。もしも世界中に妖刀ムラマサがケモノ王国に手に渡ったと知られれば危険視されてしまうだろう?」

「和国の二の舞になる?」

「その可能性も十分にあり得る。きっと、他の国々は妖刀ムラマサの存在を恐れ、ケモノ王国に何らかの対処を求めるだろう。最悪の場合、帝国に知られれば世界の秩序を正すためという名目で攻めあがってくるかもしれない」

「むむむっ……それはまずいでござるな」



妖刀ムラマサは存在自体が許されない代物であるため、ここで王都に持ち帰ったとしてもケモノ王国側にとっては不利益に繋がる可能性が高い。しかし、このまま放置するわけにもいかず、非常に扱いに困る代物だった。



「ムラマサに関しては国王に引き渡し、対処を任せるつもりだった。だが、ハンゾウの話を聞く限りでは渡したとしても取り扱いを間違えればとてつもない事態を引き起こす」

「う~ん……なら、団員に口封じをして妖刀ムラマサは見つからなかった事にするのはどうですか?」

「それは難しいだろうな……恐らく、白狼騎士団の中には私の行動を監視する役目を与えられた団員もいるはずだ。国王に命じられ、逐一私の行動を把握している」

「え!?そんな人がいるんですか?」

「私もまだ完全には国王の信頼を得ていないという事だ。悲しい事にね……」



苦笑いを浮かべるリルに対してレイナ達は何とも言えず、先日の一件で確かにリルは国王との関係は進展した。しかし、それでも完全な信頼関係を築いたとは言えず、彼女はハンゾウが握りしめる妖刀ムラマサをどのようにすればいいのか頭を悩ませる。



「この妖刀の存在が知られた限り、このまま黙っているわけにはいかない……しかし、これを持ち帰れば国王がどんな反応を示すのかは分からない。最悪の場合、災厄の種になりかねない代物を持ち帰った事を非難されるかもしれないな」

「そんな……」

「……本当に呪われてるみたい」

「ううむ……困ったでござる、何か手を打たなければ……」



リルが団員達の元を離れ、レイナ達の元に訪れた本当の理由はムラマサの取り扱い方を相談するためであり、レイナ達は頭を悩ませているとここでサンが提案を行う。



「きゅろっ?それなら壊せばいいと思う、この剣があるなら駄目なら、壊して使い物にしなければいい」

『…………』

「ぷるんっ?」



サンの発言にレイナ達は呆気に取られた表情を浮かべ、その手があったかと思う。だが、すぐに冷静になった皆が議論を行う。



「えっ!?いや、でもそれは……えっと、大丈夫なんですか?」

「いやいやいや、大丈夫なはずが……んんっ!?」

「確かに壊してしまえば……問題解決?」

「……壊れてしまえばいくら妖刀といえど、使い道はない。持ち帰ったとしても妖刀が武器として使用できない状態なら……」



何気ないサンの言葉にレイナ達は話し合い、本当に妖刀ムラマサを破壊しても問題ないのか考えた結果、結論は決まった。



「……よし、破壊しよう。国に危機を及ぼしかねない魔剣を破壊したという名目ならば国王も納得してくれるはずだ」

「ほ、本当に壊していいんですか?」

「拙者としても大賛成でござる!!この妖刀は和国にとっては恥その物、存在する限り和国の恥を晒すような物は真っ先に壊すべきでござる!!」



妖刀を破壊する事に関してはハンゾウも賛成し、彼女にとっても祖国を滅ぼしかけた妖刀がなくなれば安心できる。だが、問題なのはどのような手段で妖刀を破壊するかだった。



「でも、どうやって壊す?鉄槌を用意して叩き壊す?」

「きゅろっ!!それなら任せて!!」

「えっ、何をする気なのサン……うわっ!?」



サンは近くに存在した岩を軽々と両手で持ち上げ、そのまま地面に置かれていた妖刀に目掛けて岩を思いきり叩きつける。



「てりゃっ!!」

「うわぁっ!?」

「ちょっ、サンちゃん!?落ち着くんだ!!」

「そ、そんな方法では壊れないでござるよ!?」

「わおっ……」

「ぷるぷるっ(困った娘だ)」



勢いよくサンは岩を持ち上げて何度も妖刀に叩きつけるが、長年の間に放置され続けて刀身が錆びだらけになりながらも妖刀が壊れる様子はなく、それどころか何度も叩きつけられた岩の方が亀裂が入ってしまう。


七大聖剣にも匹敵する力を持つ妖刀ムラマサの硬度と耐久力は高いらしく、結局はサンの怪力で振り下ろされた岩の方が限界を迎えて壊れてしまう。刀身の方は折れるどころか曲がりさえもせず、その様子を見てサンは残念そうな表情を浮かべた。



「きゅろろっ……思ったよりも固い」

「そ、それはそうだろうね……こんな事で折れるなら剣の魔王も武器として使わなかったさ」



そこらに落ちている岩を叩きつけた程度で壊れるような武器ならば剣の魔王が愛用するはずもなく、残念ながら妖刀ムラマサの破壊は困難を極めそうだった。

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