第300話 ムラマサの歴史
「ぬあっ!?そ、その刀は……もしや、妖刀ムラマサではないでござるか!?」
「ようとう……?いや、これは魔剣だが……」
「拙者の国では魔剣の事を妖刀と呼ぶのでござる!!それにこの形状、間違いなく剣ではなく、刀!!拙者の国の鍛冶師にしか製造できないはずの武器でござる!!」
ハンゾウは動揺した様子でリルが取り出したムラマサを覗き込み、まじまじと見つめる。どうやら彼女の国では七大魔剣のムラマサは妖刀として取り扱われているらしい。
しかも彼女の国の鍛冶師にしか作り出せないはずの「刀」の形状をしている事から、もしかしたらムラマサを作り出したのは彼女の国の人間である可能性が高いらしい。
「こ、これが妖刀ムラマサ……拙者、妖刀を見るのは初めてござる!!」
「ハンゾウの国ではその妖刀ムラマサというのはどういう風に伝わっているの?」
「拙者の国ではこの妖刀のせいで他国から危うく攻め滅ぼされる事態に陥りかけた刀でござる」
「えっ!?どうして!?」
レイナ達はハンゾウの言葉を聞いて戸惑い、どうして1本の刀のせいで国が滅びかける事態に陥ったのかを問うと、彼女は自分の国の事から語り始める。
「拙者の故郷である和国は鍛冶師の名工が多く、刀と呼ばれる武器を製造していたでござる。普通の剣よりも固く、鋭く、切れ味も優れている事から他の国々からも武人がよく訪れていたでござる。しかし……数百年前、ある鍛冶師が恐るべき妖刀を作り出したのでござる」
「それが……妖刀ムラマサ?」
「その通り、この妖刀は元々は拙者の国で作り出された呪われた刀……この刀を作り出したせいで和国は一度滅びかけたのでござる」
「いったいどういう経緯で国が亡びかけたのか気になるな……教えてくれるか?」
リルの質問にハンゾウは頷き、まずは妖刀ムラマサが誕生する事になった切っ掛けを話す。
「妖刀ムラマサを作り出された経緯は剣の魔王が関わっているでござる。当時、和国で一番の腕を持つ鍛冶師の元に剣の魔王の配下を名乗る輩が現れ、最強の武器を作り出すように命じたそうでござる。しかし、その鍛冶師は相手が悪党という事もあって最初は断ったそうでござる」
「最初は?」
「そう、最初の内だけは鍛冶師は剣の魔王の要求を拒否したのは間違いないでござる。当時は剣の魔王の悪名は世界中に知れ渡っていたから、いくら金を積まれようと鍛冶師は引き受けようとはしなかったと聞いているでござる。けれど……」
「まさか、引き受けたの?」
「……鍛冶師は剣の魔王が用意したとある竜種の素材を渡され、それを見た鍛冶師は心変わりをしたそうでござる。滅多に手に入らない竜種の素材を利用すれば最強の刀を作り出せる、そう思い至った鍛冶師は剣の魔王の要求を受けいれて妖刀ムラマサを1年以上の時を費やして作り上げた……それが和国の歴史上でも最大級の危機を招く事も知らずに」
妖刀ムラマサを作り出された場所は和国であり、そのムラマサを作り出したのは和国の鍛冶師だと他国に知られるのには時間は掛からなかった。
「後に剣の魔王が妖刀ムラマサを手にしてから本格的な侵略を開始し、その結果として世界の国々は危機に晒されたでござる。結果的には当時に召喚された勇者が剣の魔王の討伐に成功したとはいえ、剣の魔王が所持していた妖刀ムラマサは行方不明となり、その脅威は完全には消え去る事はなくなったでござる」
「その後はどうなったの?」
「当然ながら和国は世界中の国々から非難されたでござる。よりにもよって悪名高い剣の魔王に手を貸し、更には聖剣に匹敵する恐ろしい武器を作り上げたのだから当然といえば当然でござるが、当時の国々は妖刀を作り上げる程の技術力を持つ和国を危険視して滅ぼそうとしたそうでござる」
「なるほど、その話は僕も聞いたことがあるな。一時期、和国は剣の魔王に屈服して世界に敵対したという噂が流れたとか……」
「結果的には当時の勇者が他国にとりなしてくれて攻め寄せられる事はなかったでござるが、拙者の国ではこの1本の妖刀のせいで危うく国が滅びかけたでござる」
「そ、そうなんだ……それは大変だったね」
ハンゾウはムラマサに視線を向け、自分の祖国を滅ぼしかけた武器に対して何か思うところはあるのか、彼女は難しい表情を浮かべた。だが、そんな彼女に対してリルはこの妖刀ムラマサを取り出した理由を話す。
「ハンゾウ、私は国に戻り次第にこの妖刀ムラマサのことを国王に話すつもりだ」
「なんとっ!?」
「国を滅ぼしかけた妖刀を発見したとなれば流石に黙ってはいられないだろう。それに妖刀の存在は既に団員達の耳にも届いている、隠し通す事は難しい」
妖刀を発見した際、その場にはオウソウが存在した。彼は妖刀の件を既に他の団員にも話しているため、リルの元に妖刀が渡った事は団員達の耳にも届いているはずだった。
なのでリルは妖刀の件を父親である国王に報告するつもりだが、ここで難しい表情を浮かべる。
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