第299話 小川での休息

「豚汁が出来たでござる~」

「魚もいい感じに焼けてきた」

「きゅろろっ♪ハンゾウの料理、好き!!」



レイナが着替えている間にも料理が出来上がったらしく、全員が食事の準備を整える。鞄の中から絨毯を取り出し、その上に座って食器を用意していると、ここでレイナはある事に気づく。



「あれ、そういえばリルさんはここにいて平気なんですか?他の団員の指揮とかは……」

「そこはチイに任せているよ。今日の所は軽い探索だけで済ませておくように言いつけてあるから問題はないさ、それよりちょっと相談しておきたいことがあってね……まあ、その話は食事の後にしよう」

「「ウォンッ!!」」

「わあっ!?びっくりした、シロ君とクロ君もいたの?」



何処からともなくシロとクロが現れると、2匹は口元に自分達の分の皿を咥えており、それを見たレイナは鞄の中からドックフードを取り出して2匹の皿の上に用意する。



「お腹すいてたのか……はい、ドックフード」

「「ウォンッ♪」」

「ふむ、シロもクロもそのドックフードというのが気に入ったようだな。確かに味は悪くないな」

「えっ!?食べちゃったんですか!?」

「な、何か問題あったかい?」



リルの発言にレイナは驚き、本来は犬用の餌であるドックフードを美味しいと語る彼女に戸惑うが、よくよく考えればリルは狼型の獣人なので味覚に関しても狼と共感するところがあるのかもしれない。一方で猫型の獣人であるネコミンの方はドックフードを見て苦い表情を浮かべた。



「私も食べた事があるけど、これの何が美味しいのか分からなかった」

「ネコミンも食べたのか……じゃあ、今度はキャットフードでも食べてみる?」

「キャットフード……美味しそうな名前」

「拙者の豚汁も美味しいでござるよ。ほら、出来上がったでござる!!」



調理を終えた鍋をハンゾウが運び込み、中身を見せつける。そこには美味しそうに作り上げられた豚汁が入っており、彼女は椀に豚汁を注ぎ込んで全員に渡す。



「これが拙者の国の料理、豚汁でござる!!」

「正確には俺の地球の料理だと思うけど……でも、美味しそうだね」

「ああ、確かにこれは食欲がそそられるな……いただきます」

「あちちっ……猫舌には少しきつい」

「ぷるぷるっ(熱っ)」

「おかわりっ!!」

「えっ、もう食べたの!?」



渡された豚汁を全員が口にすると、レイナは久々の地球の料理に涙を流しそうになり、非常においしかった。日本の料理を口にする機会はこの世界では滅多になく、ハンゾウに礼を告げる。



「ううっ……美味しい、美味しいよ。ハンゾウの料理」

「そ、そこまで嬉しがってもらえると照れるでござる……おかわりもあるからゆっくり食べて欲しいでござる」

「ああ、本当に美味しいな……毎日食べたいくらいだ」

「ちょ、リル殿……そのセリフ、拙者の国では結婚を申し込むときに使う言葉でござるよ」

「ハンゾウとリルが結婚……それはチイが嫉妬しそう」

「ふふふ、その時はチイも一緒に結婚するさ」

「リル殿は本当に女の子が好きでござるな……でも、将来的に男性と結婚して子供を産まないと血筋が途絶えてしまうでござる」

「むっ、それは困るな……そうだ、レイナ君と結婚して子供を産めばいいんだ」

「ぶほっ!?」

「きゅろっ!?レイナ、大丈夫?」



リルのさらりとした発言にレイナはむせてしまい、サンが慌てて背中を摩る。その様子をみてネコミンが少し嫉妬したようにリルに振り返った。



「むう、それは駄目。レイナは私の物、リルでも渡さない」

「ははは、冗談さ……今はね」

「何でござるがその意味深な発言は……それよりリル殿、先ほどの話したい事があるといっていたでござるが」

「ああ、そうだな。皆、食事をしながらでもいいから聞いてくれるかい?」



ハンゾウの発言にリルは思い出したように頷き、彼女がここへ来た目的を話す。リルは自分の鞄を取り出すと、先日にレイナが持ち帰ってきた第三階層の古城にて発見された「魔剣ムラマサ」を取り出す。



「これを見てくれ」

「それは……拙者たちが回収した魔剣でござるか?」

「あの死霊魔術師は剣の魔王バッシュの所有物、とか言ってた気がするけど……」

「きゅろろっ……それ、気味悪いから嫌い」

「禍々しい感じがする……」

「ぷるんっ?」



ムラマサを取り出したリルは絨毯の上に置き、彼女はこのムラマサの扱いに困っているという。剣の魔王が所持していたという聖剣に対抗する力を持つ魔剣をどうするべきか彼女は悩んでいた。


この世界において最強の兵器が聖剣だとすれば、最悪の兵器は魔剣である事は間違いなく、歴史上でも聖剣と魔剣は幾度も交じり合っていた。聖剣は勇者が作り出した聖遺物ならば魔剣は魔王を語る輩が作り出した呪われた剣、というのがこの世界の人間の常識だった。

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