第298話 休息も大事
「サンちゃんとクロミンは……戦力的に考えれば連れて行ってやりたいが、確かレイナ君の能力では二人を元の姿に戻したら能力を使い切ってすぐに戻す事は出来ないんだろう?」
「あ、はい……二人を元に戻したときは日付が変更するまでは元に戻せなません」
「それは少し困るな……第四階層では何が起きるか分からない以上、出来る限りはレイナ君の能力は温存しておきたい」
サンとクロミンを連れていけば窮地に陥ったとき、二人を元の姿に戻して戦ってもらう事も出来るが、その場合だとレイナは1日の間に使える文字変換の能力を使い切ってしまう。しかも翌日に二人を元に戻す作業を行う際も文字変換の能力が使えなくなってしまう。
「悪いが今回は二人はお留守番だ。大人しくリリスとハンゾウと一緒に留守番してくれ」
「きゅろろっ……」
「ぷるるんっ(今度は一緒に連れて行ってね)」
リルの言葉にサンとクロミンは寂しそうな表情を浮かべるが、レイナが二人の頭を撫でる。今回の階層に関しては最も謎が多く、そして危険な場所らしいのでレイナの文字変換の能力が頼りだった。
「今回は他の団員も連れていくことは出来ない、代わりにシロとクロも同行させよう」
「シロ君とクロ君も?」
「シロとクロは嗅覚も勘も鋭い、だから頼りになる」
「なら私もこの薬草を使って回復薬を調合しておきますね。1日もあれば人数分は作れるはずですから」
「頼む。回復薬は多くて困る事はないからな……さあ、今日の所はもう休んでくれ。明日は1日しっかりと身体の疲れを抜けるようにゆっくりと休むんだぞ」
明後日の探索に備え、レイナ達は休息を取る事が決まると、リリスは調合の準備を行い、他の者は就寝した――
――翌日、レイナはリルの言う通りに身体をしっかりと休もようとしたが、疲れ知らずのサンがレイナに遊んで欲しいとせがみ、他の者も連れて大迷宮の近くに流れている小川で遊んでやる。
「ぷるぷるっ(捕まえてごらん♪)」
「レイナ、こっち!!」
「あははっ、待て待て~」
浅瀬を元気に駆け回るサンとクロミンに対してレイナは追いかけ、二人を捕まえようとする。小川に遊びに来たのはレイナ達だけではなく、リルやネコミンの姿も存在した。
「ふふふ、微笑ましい光景だな……まるで本当の姉妹のようだ」
「私には母娘に見える」
「レイナ殿は母親というには少し若すぎるような気がするでござるが……」
二人の傍には鍋を抱えたハンゾウも存在し、彼女は料理の準備を行っていた。彼女は料理も得意なので旅の途中も食事係として活躍している。しかも今回はレイナの持ってきた味噌のお陰で念願の豚汁も作れるようになったので本人は嬉しそうに料理を行う。
豚汁といっても使う肉はただの豚肉ではなく、オークやボアなどの猪系の魔獣の料理である。この世界では普通の動物の方が少なく、魔獣の肉を食べるのが当たり前だった。しかも味も栄養も地球の食材よりもおいしいため、レイナがこの世界に来て料理に関してだけは不満を抱いたことはなかった。
「御二人とも、暇ならば魚でも釣ってほしいでござる。拙者は料理の準備で忙しいから釣る暇がないでござる」
「魚か、それなら釣り道具でも持ってくるべきだったな」
「問題ない、素手で掴む」
「そんな熊みたいな捕まえ方が出来るのか……いや、熊以上だな」
ネコミンは両手をわきわきと動かしながら小川の方へ向かい、彼女は普段は眠たそうな目元を見開き、鋭い視線を向けて川の中に腕を伸ばす。
「にゃあああっ!!」
「今までに見たことがないほどの凄い気迫!?」
川の中に目掛けてネコミンは腕を伸ばし、次々と魚を掴み取っては岸部の方に向けて投げ込む。人数分の魚を捕まえる事に成功すると、ネコミンはやり遂げた表情を浮かべた。
「ふうっ……少し、本気を出しすぎた」
「ネコミン、こんな事も出来たんだ……」
「レイナもやろうと思えば出来ると思う」
「いや、無理だと思う……」
ネコミンの素手で魚を掴むのは身体能力が高いというよりも、並外れた反射神経と運動能力が重要だった。足元に近付いた魚に対して逃げる暇もなく捕まえ、岸部に放り込む芸当は並の人間には真似はできない。
人数分の魚を確保したので焚火の準備を行い、鍋を温めながらも魚を焼く。その間にレイナは鞄の中から水で濡れた自分とサンの服を取り出し、新しい服に着替えようとした。
「うんしょっと……ふうっ、気のせいかな。なんか、前より服がきつくなったような……もしかして太った?」
「いや、太ったというより……胸が大きくなったんじゃないかい?」
「……チイがここにいたら大変な事になりそう」
シャツを着替えようとしたときにレイナは胸元がきつく感じ、その様子を見てリルは興味深そうに覗き込み、ネコミンはこの場にいないチイに同情する。どうやら女性の姿の時のレイナは胸の成長期に入っているらしく、今現在来ている服もきつくなってきた。
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