第297話 少数精鋭

「おおっ!!これだけの肉があれば今日の夕飯が楽しみでござるな、味噌さえあれば拙者の故郷の料理の豚汁も作れたのに……」

「あ、味噌ならあるよ。使う?」

「何とっ!?よく持ってるでござるなレイナ殿!?」



レイナは自分の鞄から味噌を取り出すとハンゾウは驚いた表情を浮かべ、どうやらケモノ王国には存在しない調味料だったらしく、ネコミンが鼻を摘まむ。



「うっ……変なにおい、なにそれ?」

「味噌だよ。まあ、初めての人には臭いがきついかもしれないけど、美味しいよ?」

「豚汁……そういえば前に旅をしていた時に味噌汁という物を作ってもらったことがあるが、それと同じような食べ物なのかい?」

「当たってるよ。味噌汁に豚肉をいれたような料理かな?普通の味噌汁よりも俺は好きだよ」

「ふふふ、味噌さえあればいろいろな料理が出来るでござる!!今宵の夕飯は拙者に任せて欲しいでござる!!」



味噌を受け取った事でハンゾウは張り切って料理の準備を行う。ちなみに騎士団の料理に関しては当番制であり、基本的には探索に参加していない団員が料理の準備を行っている。探索の際は保存食にしか口に出来ないため、ちゃんとした料理を味わえるのは非常に有難い。



「それにしても……ここって本当に静かだよね、魔物も全然見かけないし」

「前にも話したかもしれないが、大迷宮の近くには魔物は何故か住み着こうとしない。だからヒトノ帝国の初代皇帝は大迷宮が存在する場所に帝都を作り出したとさえ言われているよ」

「そうなの?それは私も初めて知った」

「私も……」

「きゅろっ?でもサンもクロミンも魔物だけど、ここは好き!!」

「ぷるぷるっ♪」



大迷宮の周辺には魔物が寄り付かないらしいが、魔人族のダークエルフであるサンとスライムに変化したクロミンは特に平気そうであった。絶対に魔物が寄り付かない場所というわけでもないらしく、ダークエルフやスライムのような魔物は特に問題はないらしい。


ダークエルフは魔人族ではあるがどちらかというと人間に近い生き物である事、魔除けの石さえも受け付けないスライムだからこそ平気なのかもしれず、もしもサンとクロミンが本来の姿に戻ればどのような反応を示すのかも気になるところだが、それよりもレイナには気になる事があった。



「明日から第四階層に挑むんですよね、団員は誰を連れて行くんですか?」

「……今日の探索でだいたいの団員が大迷宮がどのような危険な場所なのかを把握した。だから万が一の場合に備えて100名は外に待機させ、残りの団員は第一階層、第二階層、そして第四階層の探索を行おうと考えている」

「きゅろっ?第三階層いかないの?あの砂だらけの場所、サンは気に入った!!」

「まあ、サンドワームだった君にとっては最高の環境かもしれないが……悪いけど、第三階層の探索は後回しだよ」

「ぷるるんっ(あそこ暑いから嫌い)」



第三階層の探索に関しては色々と面倒なことが多く、しかも得られる素材が殆ど存在しない。なので探索は後回しにされ、明日以降は第四階層の探索に本格的に挑むという。


但し、前回の反省を顧みて探索を行う場合は大人数ではなく、少数精鋭で挑む方が良いと判断したリルはリリスに振り返り、明日は外の団員の事に関しては彼女に任せる事にした。



「リリス、悪いが明日の第四階層の探索は私が指揮を執りたい。その間の外部の団員の世話を任せられるか?」

「はいはい、問題ありませんよ。私も色々と調べ事がありますからね」

「リリス、本ばっかり読んでる……そんなに面白い?」

「面白いですよ~なにしろ何百年も生きている死霊魔術師の日記ですからね」



リリスは第三階層から持ち帰ってきた死霊魔術師の日記を読みふけり、量が量だけに1日や2日で読み通す事は出来ないが、それでも剣の魔王の配下が記した日記となれば興味深い内容だった。



「リリス、その死霊魔術師が書き残した日記の中に第四階層に関する情報はあったのかい?」

「ん~……殆どの内容が第三階層の出来事しか描かれてませんからね。今のところは第四階層に関する内容はあんまりありません」

「そうか、それは残念だ……なら、予定通りに僕達で第四階層に挑み、攻略するしかないな」

「明日の調査はどれくらいの人数を連れて行くんですか?」

「まずは団長である私は当然として、戦力を考えたらレイナ君も必要だ。回復役としてネコミン、補佐役としてチイにも同行してもらう」

「あ、はい」

「分かった」

「お任せください!!」

「サンとクロミンは?」



名前を呼ばれた3人は同意するが、サンは自分とクロミンは連れて行かないのかと尋ねると、リルは難しい表情を浮かべた。

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