第296話 第四階層の転移台
「いや、第四階層の場合は少し特殊なんだ。そうなんだろう、リリス?」
「ええ、資料によると第四階層の転移台は発見されていません」
「えっ!?発見されていないって……じゃあ、どうやって第四階層に挑んた人たちは戻ってきたの?」
第四階層に到達した冒険者は誰一人として転移台を発見した事はないらしく、それならばどのような手段で第四階層から帰還したかというと、リリスが説明を行う。
「第四階層から帰還する方法はただ一つ、第四階層でのみ手に入る「転移石」と呼ばれる魔石があります。それを使用すれば引き返す事が出来るんですよ」
「転移石?」
「外見は掌程の大きさの水晶に転移魔法陣が刻まれたような物ですね。転移石を使用すれば転移魔法陣が出現して外界に戻る事が出来るんですよ」
「ほう、そんな便利な物があるのでござるか。しかし、その転移石はどうやって手に入るのでござる?」
「転移石は第四階層の安全地帯のみで入手できるそうです。但し、転移石は外の世界へ持ち込んだ場合は効力を失います。なので転移石を多めに持ち帰っても意味はありませんからね」
「転移石か……」
第四階層にはヒトノ帝国の大迷宮のように安全地帯が存在するらしく、その場所にしか存在しない転移石という魔石を使えば帰れるという。しかし、それ以外に帰還の方方は見つかっておらず、第五階層に繋がる転移台は未だに発見されていないらしい。
「ふむ……とりあえずは今日と明日はゆっくりと身体を休ませてくれ。その間に僕達の方も第四階層に挑む前にもう一度第一階層と第二階層に潜ってみようと思う」
「え?どうして?」
「忘れたんですか?私達の目的は巨塔の大迷宮の幻の第五階層が存在するのかを確かめるために来ましたが、もしも第五階層が発見できなかった場合は大迷宮で入手した素材を持ち帰る事です。手ぶらで帰ったら何をされるか分かりませんからね」
「功績を上げなければ戻る事も出来ないでござる」
「なるほど……」
白狼騎士団が巨塔の大迷宮に挑むのはリルルが功績を上げ、国王の信頼を得るためでもある。弟の件でリルと国王の仲も少しは良好になったが、ここで更に功績を上げる事で国王のリルに対する評価を上げる必要があった。
第五階層に存在するのかどうかは不明だが、大迷宮で得られる素材は貴重な代物が多く、仮に見つけられなくとも素材を大量に持ち帰れば十分だった。なので既に攻略を果たした第一階層と第二階層はリルが他の団員を引き連れて素材回収のために挑むという。
「君たちは十分にやってくれたよ。まだ三日も立たずに第四階層までの転移の合言葉を手に入れたのは大きな成果だ。だが、急いで第四階層に向かう必要もない、今日と明日は身体を休ませておいてくれ」
「あ、はい……」
「やれやれ、あんな苦労して冒険してきたのにたった1日足らずの休日だけですか。全く、人使いが荒い上司ですね」
「それを言われると痛いが……」
「冗談ですよ、私の方も持ち帰った日記を調べておきたいことがありますからね。しばらくの間は他の団員の皆さんに頑張ってもらいましょう」
「拙者も勇者殿化けておくでござる」
「皆、ここにいた!!肉、もっと焼いて!!」
話はまとろうとしたとき、幕舎の外から両手に串焼きを抱えたサンがおかわりを要求してきたため、話を終えてレイナ達はしばしの休息に入った――
――翌日、リルは宣言通りに他の団員を引き連れて第一階層と第二階層に挑み、夕方ごろに全員が帰還していた。第一階層ではゴブリンしか現れず、碌な素材は手に入らないのではないかとレイナは思ったが、第一階層では回復薬の原料となる薬草が自生していたらしく、袋詰めされた大量の薬草を持ち帰ってきた。
「レイナ、これ見て。私の指揮した隊が一番多かった」
「おおっ……凄い量、よくこんなに見つけたね」
「えっへん、薬草の臭いを嗅ぎ分けるのは得意」
「ネコミン殿には敵わないでござるな……拙者も頑張ってきたでござるが、結局手に入れたのはこれだけでござる」
第一階層にはハンゾウとネコミンが隊長となって団員を引き連れて挑み、大量の薬草の入手に成功した。特にネコミンは優れた嗅覚を利用して薬草の臭いを感じ取り、正確な場所を掴んで回収したという。
一方でハンゾウの方は持ち前の観察眼を発揮して薬草を探し回ったらしく、ネコミンほどではないが結構な量の薬草の持ち帰りに成功した。回復薬の原料となる薬草はケモノ王国内でも栽培されているが、自然界の薬草の方が効能が高いため、相当な成果と言えた。
「流石はネコミンとハンゾウだな、それに比べて僕達の方は残念ながら大した成果ではなかったよ」
「そ、そんな事はありません!!私はともかく、リル様はオークの大群を仕留めたではありませんか!?」
「そういうチイこそボアの大物を仕留めたそうじゃないか」
第二階層から帰還したリルとチイはオークとボアを大量に狩ってきたらしく、大量の毛皮や骨、肉類を手に入れて戻ってきた。食料はいくらあっても困る事はなく、しかもレイナの作り出した「ストレージバック(正確に言えば同じ性能を持つ鞄)」を使えば食料が腐る事はない。
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