第293話 ゴーレムとリビングアーマー
「第一階層や第二階層ではなく、第三階層に魔王軍が拠点を築こうとした理由はあの環境が理由だったのかもしれません。生命力が強い魔人族ならばともかく、あの場所は普通の人種にはきつい場所ですからね。あんな広大な砂漠に砂鮫やサンドゴーレムがいくらでも湧き出すんですから、仮にどれだけの軍隊を送り込もうと尋常ではない被害が生まれますよ」
「なるほど、環境が最悪な場所を敢えて選んだという事か……そういう意味では第一階層や第二階層よりも都合がいいか」
リリスの説明を聞いてリルは納得した表情を浮かべ、言われてみれば第三階層の環境は悪いほど、敵から攻め込まれた時は相手にも不利な条件を押し付ける事が出来る。しかし、結局は第三階層に作り出された街や城も要塞として利用される事はなく、剣の魔王は討たれてしまった。
「この日記によると街に住んでいた魔人族の方は後から訪れた勇者によって討たれたそうです。その時は城を守っていた死霊魔術師も戦ったそうですけど、敵わずに城に引きかえったそうです」
「じゃあ、街で暮らしていた魔人族は討たれたのか……でも、どうして城の方に隠れていた死霊魔術師は無事だったの?」
「簡単な話ですよ。私達が赴いたとき、凄い砂嵐が起きたでしょう?実はあの砂嵐て、あの城の頂上部に設置されている風属性の魔水晶が原因なんです」
「えっ……魔水晶?」
「魔石よりも希少で高密度の魔力が蓄積された水晶です。自然界では滅多に手に入らない優れものですよ」
「あの城にそんな物があったのか……ちょっと待って、ということはあの砂嵐の正体がその風属性の魔水晶が原因という事は……まさか、砂嵐を引き起こしていたのはあの城が原因だったの!?」
「大正解!!つまり、私達を襲ったあの砂嵐は自然発生したものではなく、あの城にいた死霊魔術師のせいです!!」
リリスの調べた結果、レイナ達が大迷宮に入った後に襲い掛かってきた砂嵐の発生源は実はレイナ達が発見した古城が関わり、古城の頂上部に設置されている風属性の魔水晶を利用して死霊魔術師が引き起こしたという。
どうして古城に砂嵐を発生させる魔水晶が存在するのかというと、それは外部から送り込まれてくるであろう大迷宮の侵入者対策のために作り出されたらしい。
「あの古城には砂嵐を作り出す仕掛けを作った理由は二つ、一つ目は砂嵐を発生させる事で外部からの侵入者に対する攻撃。もう一つは風の力で砂漠の地形を変化させ、あの城を砂で埋もれさせて隠蔽するためです」
「あっ……そういえば俺達が来たときは城の殆どが隠れてたよね」
「ええ、その通りです。あの死霊魔術師は風属性の魔水晶の力を使っては大迷宮に訪れる冒険者を追い詰めていたんですよ。そのせいで第三階層に辿り着いた冒険者の多くが砂嵐の餌食になって死んでしまいました」
「むむむっ……許せないでござる!!あの砂嵐のせいで拙者たちがどれだけ苦しい思いをしたと思っているのでござる!?」
「まあまあ、落ち着くんだ」
砂嵐の原因が死霊魔術師が管理していた古城の仕掛けだと知ると、先ほどまで死霊魔術師に同情していたハンゾウも怒りを隠せず、憤慨するように獣耳と尻尾を逆立てる。そんな彼女にリルが宥めると、ここでレイナは疑問を抱く。
「砂嵐の原因は分かったけど……どうして転移したときに皆がバラバラになったの?俺としてはそっちの方が気になるんだけど……」
「さっきも言ったかもしれませんが、転移台の方に細工が施されたんです。あの階層には巨大なブロックゴーレムがいましたよね?」
「うん、あいつがどうかしたの?」
レイナの脳裏に第三階層の階層主と思われる体長が30メートルを超えたブロックゴーレムの事を思い出すと、リリスはあの魔物が原因で第三階層の転移台が不調を起こしたという。
「どうやらあのブロックゴーレムを作り出したのもあの死霊魔術師のようなんですよ」
「えっ!?ゴーレムなんて作り出せるの!?」
「詳しい原理まではこの日記には書かれていないんですけど、確かに死霊魔術師がゴーレムを作り出したという記述があります。それにリビングアーマーの事を覚えてますか?あれもいってみればゴーレムみたいな存在じゃないですか」
「な、なるほど……言われてみれば確かに」
ゴーレムもリビングアーマーも魔法の力を使って無機物を動かしているという点を考えれば似たような存在であり、死霊魔術師がブロックゴーレムを作り出していたとしても不思議ではない。
だが、どうしてブロックゴーレムを作り出す事で転移に影響を与える事が出来るのかと分からず、レイナはリリスに尋ねた。
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