第292話 第三階層の異変の解明

「レイナ君、少しいいかい?」

「リルさん?」



自分の話をしている団員達の様子を見ていたレイナの元にリルが現れ、彼女は幕舎の方に来るように告げる。リルの言う通りにレイナは幕舎に向かうと、そこにはリリスとハンゾウの姿もあった。



「どうも、疲れているところをお呼びしてすいませんね」

「いや、別に気にしないでください。それより、どうかしたんですか?」

「第三階層の異変の原因が判明しました。これを見て下さい」



リリスは自分の鞄を取り出すと、いくつもの書物を取り出す。一つ一つが広辞苑並みの大きさを誇り、いったい何の本なのかとレイナは疑問を抱くと、ハンゾウが説明する。



「この本全部がレイナ殿達が見つけたという古城の中にあった書物でござる」

「あの城の中に?という事は……」

「ええ、どうやら死霊魔術師が書き残していた日記……というよりは報告書なんですけどね」

「剣の魔王バッシュの配下を名乗る死霊魔術師か……」



レイナ達は古城にて遭遇した死霊魔術師の事を思い出し、リルの場合は直接見たわけではないがリリスから説明を既に受けていた。どうしてリリスがレイナを呼び出したのかというと、第三階層に関する謎が判明した事を説明した。



「この日記を調べ見た限り、どうやら昔の人々が大迷宮を使用しなくった理由も判明しましたよ」

「え、どういう意味ですか?」

「要するにあの死霊魔術師が第三階層を狂わせたんです、そのせいで誰も大迷宮に挑もうとする人間もいなくなり、誰もあの場所に近付かなくなったんです」

「ええっ……?」



古城でレイナが倒した死霊魔術師のせいでリリスは第三階層に異変が発生し、更には巨塔の大迷宮が放棄される理由を作り出したという説明にレナは戸惑う。その様子を見てリリスは一から説明を始めた。



「この日記を見た限り、どうやらあの死霊魔術師は100年以上も前に巨塔の大迷宮に存在する古城に住み着いていたようです」

「どうしてあんな場所に……というより、なんで大迷宮にあんな建物があったの?」

「詳しい話は分かりませんが、まだ剣の魔王が存在した時代にこの巨塔の大迷宮は剣の魔王の配下が支配していた時期があるんです。どうやら大迷宮に要塞を作り出して戦力の増強を行うために建設したようですね」

「あんな場所に要塞を建設したのでござるか!?」



第三階層に存在した古城はかつて「剣の魔王」と呼ばれたバッシュという魔王軍の統率者が築き上げたらしく、死霊魔術師は古城の管理を任されていたという。



「あの死霊魔術師は剣の魔王に命令され、私達が発見した魔剣を守るために古城に住み着いていたそうです。バッシュからは自分が戻るまでは魔剣を守り続けるように言われていたようですけど、そのバッシュが勇者に討たれてしまった事は知らなかったそうですね」

「じゃあ、ずっとあの場所で死霊魔術師は自分の主人を待ち続けていたの!?」

「……敵ながらたいした忠義心でござる」

「そうか……」



死霊魔術師が古城に住み続け、剣の魔王の魔剣を守り続けてきた理由を知り、レイナは気の毒に思う。戻ってくるはずがない自分の主人を待ち続けた死霊魔術師の事を思うと同情してしまうが、それでも相手が悪人である事は間違いない。



「でも、こいつのせいで第三階層がとんでもない事になったんですよ」

「え?」

「最初に私達が転移台を使用したときにバラバラに飛ばされてきましたよね?あれはこいつのせいだったんです」

「どういう事だ?話は聞いているが、どうして皆が別々の場所に転移したというのは本当だったのかい?」

「ええ、全ての原因はこの本の持ち主のせいですよ」



リリスは疲れた表情を浮かべて書物の1つを拾い上げ、中身をバラバラとめくりながら第三階層で起きた出来事の原因を解明する。



「まず、最初に私達が別々の場所に飛ばされたのはこの死霊魔術師が第三階層に繋がる転移台に細工を施したんです」

「転移台に細工……?」

「この日記には詳しい事は書かれていないんですけど、第三階層に存在する街を覚えてますか?あそこも元々は魔王軍が作り出したんですけど、剣の魔王が討伐された後、この大迷宮は再びケモノ王国の支配下に収まりました。それで外部から冒険者がと訪れるようになり、あの街も利用されていました」

「あそこを作り出したのも魔王軍の配下だったのか……」



レナは古城だけではなく、転移台が存在した廃墟の街の事を思い出す。剣の魔王が健在だった時代、魔王軍が拠点として作り出した街だと言われれば不思議と納得してしまう。だが、どうしてよりにもよって環境が最悪な第三階層に街を築いたのかを疑問を抱く。



「どうして魔王軍は大迷宮に拠点を作ったの?普通、あんな場所に街や城を作り出す必要があるのかな……」

「隠れ家という点では都合が良かったんじゃないですか?それに魔王軍の配下の殆どは魔人族です、普通の人間や獣人とは違ってあの環境でも十分に生き延びられる生命力は持ち合わせていたと思いますよ」

「大迷宮を隠れ家代わりに扱うとは……恐ろしい魔王でござる」



魔人族という言葉にレイナの脳裏にミノタウロスが思い浮かび、人間と魔物の中間に当たる存在で確かに普通の人間や獣人でもなければあの場所に住み着こうなどとは思わないはだろう。

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