第291話 聖剣の条件

通常、聖剣の所有者以外の存在が聖剣に触れようとすれば拒否反応が起きてしまう。ハンゾウが所有する聖剣は元々はレイナが作り出した物でも彼女の許可がなければ拒絶されるだろう。


だが、以前にレイナは自分が所持するフラガラッハがリルに持ち去られようとしたことを思い出し、聖剣に触れるだけならば所有者の許可があれば問題ない事は知っていた。聖剣が拒絶反応を引き起こすのは他の人間が聖剣を武器として扱おうとしたときに限り、単に触れるだけならば問題はない。



(頼む、力を貸して!!)



自分が所持するフラガラッハを取り出す余裕などなく、レイナはハンゾウの所有するフラガラッハに触れた状態でデュランダルを構えると、刃を振動させて迫りくるブロックゴーレムの巨体に剣を振り払う。




「吹き飛べぇっ!!」




デュランダルを振り抜いた瞬間、フラガラッハの「攻撃力3倍増」の効果が現れたのか通常時では考えられないほどの規模の衝撃波が発生した。その結果、前のめりに倒れこもうとしたブロックゴーレムの肉体に強烈な衝撃が走ると、ブロックゴーレムの巨体が後ろ向きに倒れ込む。


巨体が地面に倒れた事で大きな振動が走り、その際に大量のサンドゴーレムが圧し潰されてしまう。その光景を見て団員達は唖然とした表情を浮かべ、一方でレイナの方はフラガラッハの方に視線を向けると、特に拒絶反応も起きていないことを悟り、安堵した。



「ふうっ……た、助かった」

「た、隊長……凄すぎます」

「俺、隊長に一生付いていきます……」

「隊長、万歳!!」



ブロックゴーレムに圧し潰されるという脅威から救ってくれたレイナに対して団員達は心の底から尊敬の念を抱き、最初の頃は勇者のお気に入りという理由でレイナの事を嫌っていた者たちも彼女の力を見せつけられれば認めるしかなかった。


しかも運がいい事に転移台の魔力を吸収し続けていたブロックゴーレムが倒れた事により、ブロックゴーレムが体内に保有していた大量の魔力が解放されたのか、転移台が急速に魔法陣の光を強めていく。やがて数秒も経過しないうちに転移魔法陣が起動して遂にレイナ達は脱出に成功した――






――転移魔法陣によってレイナ達は外界へと戻ると、既に時刻は深夜を迎えていた。あと少し経過すれば朝日が出てくるという時間帯に唐突に戻ってきたレイナ達に対し、外で待機していた団員達は驚いた表情で迎え入れる。



「お、お前ら!?無事だったのか!?」

「おい、団長に連絡しろ!!副団長も呼んで来い!!」

「調査隊が戻ってきたぞ!!」



疲れた表情を浮かべて転移台から降りてきた約30名の調査隊を見て見張り役を行っていた団員達は慌ててリルの元に報告へ向かい、その間にレイナ達は転移台を降りて全員があまりの疲労に地面に座り込む。



「ど、どうやら助かったようですね……」

「何だかんだで犠牲者は零でござるな……」

「良かった……」

「……隊長のお陰だな」

「きゅろっ、楽しかった!!」

「ぷるぷるっ(み、水を……)」



ハンゾウとリリスは背中を合わせて安堵の息を吐き、オウソウも流石に疲れた表情を浮かべながらも素直にレイナの功績を褒めたたえた。団員達の中で元気そうなのはサンだけであり、水を出しすぎてしわしわになってしまったクロミンを振り回していた。






それからしばらくすると寝間着姿のリルとチイが駆けつけ、調査隊の様子を見て驚いた表情を浮かべるが、すぐに彼等のために食事を用意させる。団員達は保存食ではないまともな食事にありつけた事に涙を流し、無我夢中に食い漁る。



「うおおおっ!!肉だ、肉だぁっ!!」

「オウソウ、てめえ年下の癖に食いすぎなんだよ!!」

「やかましい!!年下も年上も関係あるか!!」

「お、落ち着けお前ら!!料理はまだあるからゆっくりと食べろ!!」



調理役のチイが運び出してきた料理にオウソウ達は夢中に食らいつき、その様子をレイナもキングボアの骨付き肉に嚙り付きながらも見つめる。最初の頃は他の団員とも折り合いが悪かったオウソウだが、危険を共に乗り越えた事で他の団員とも距離が縮まったらしく、何だかんだで仲良さげに食べていた。



「オウソウも随分と馴染んだな」

「それはレイナさんも同じですよ」

「拙者もそう思うでござる」



一人で食事を味わっていたレイナの元にハンゾウとリリスが現れると、二人はオウソウだけではなく、レイナも他の団員達との仲を深めたことを指摘する。二人の言葉にレイナは少し意外そうな表情を浮かべると、彼女たちはある方向を指差す。そこには調査隊に参加した団員達が外で待機していた団員達に自慢気にレイナの活躍を開設していた。



「お前ら、隊長がどんだけ凄かったか分かるか!?あのサンドゴーレムやブロックゴーレムでさえも相手にならなかったんだぜ!!」

「マジかよ……あんな娘がそんなに強かったのか?」

「馬鹿!!口に気を付けろ、あの人は本当に凄い人なんだよ!!」

「俺達は何度も命を救われたんだ!!失礼なことを言うとぶっ飛ばすぞてめえっ!!」

「わ、悪い……」

「信じられないな……あんなに若いのに」



外で待機していた団員達はレイナの活躍を目にしていないので調査隊の話を聞いてもにわかには信じられなかったが、それでも団員の一部はレイナの事を上司だと認め始めていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る