第289話 塗装

「合言葉が分からないなんて、そんな馬鹿な話がありますか!!きっと何処かに刻まれているはずです!!」

「ほ、本当なんですよ!!これを見てください、何処にも書いてないでしょう!?」

「そんな馬鹿なっ……」

「何かの間違いでは!?」



レイナとリリスは台座を覗き込み、合言葉が刻まれている箇所を探す。しかし、団員達の言う通りに台座には合言葉らしき文字は記されておらず、これでは次の階層の合言葉が分からなかった。


第三階層から脱出するだけならば問題はないようだが、レイナ達の目的は次の第四階層に移動するための合言葉を知るためである。ここでもしも逃げ帰る事が出来ても第四階層の合言葉を知らなければ意味はなく、再びこの過酷な階層に訪れなければならない。



「そんなはずはありません、皆さんも探してください!!必ずどこかに合言葉が刻まれているはずですから!!」

「そ、そういわれても……」

「俺達もさっきから探してるんですよ。でも……」



魔法陣の紋様を調べたり、建造物その物を調べてみたが文字らしき物は刻まれてはおらず、合言葉らしきものは見つからない。こうして時間を費やしている間にも地上の方からはサンドゴーレムが接近し、ブロックゴーレムが復活して元に戻ってしまうかもしれない。


ここまで来た以上は引き返す事は出来ないのだが、次の階層の合言葉を見つけ出さなければ再びこの階層に挑まなければならず、全員が必死に合言葉を探す。その最中、忍者であるハンゾウは台座に視線を向け、ある事に気づいた。



「むっ……この台座、何か気になるでござる」

「えっ!?合言葉を見つけたんですか!?」

「拙者の観察眼を舐めないで欲しいでござる、間違いなく第二階層で見た時の台座と色合いが違うでござる」



ハンゾウは台座を指差して説明すると、確かに第二階層や外界に設置されている台座とは色合いが異なり、今までの転移台の台座は灰色だったのに対してこちらの方は全体が黄色だった。ハンゾウの観察眼の技能は台座の異変を見抜き、彼女は短刀を取り出すと慎重に台座に刃先を突き出す。



「この台座……恐らくは全体が固められているでござる」

「固められている?」

「ほら、少し削っただけで中身が見えてきたでござるよ」



短刀の刃先が台座を削った瞬間、わずかに亀裂が走り、内側に隠れている本当の台座が見えた。それを確認したレイナはデュランダルを引き抜き皆に下がるように促す。



「皆、少し下がって」

「ぬあっ!?な、なにをする気だ!?」

「大丈夫、壊さないように調整するから……はあっ!!」

「わあっ!?」



軽い衝撃波をデュランダルが放つと、台座に振動が走り、やがて全体を覆っていた薄い岩壁のような物が剥がされた。それを見たリリスは戸惑いながらも破片を拾い上げると、彼女はある事に気づく。



「これは……固まった粘土のような物ですね。なるほど、これを台座に覆いかぶせて合言葉を隠していたんですね」

「あ、見て欲しいでござる!!ここに文字らしき物が……多分、第四階層の合言葉でござる!!」

「あ、迂闊に声に出しては駄目ですよ!!」



ハンゾウが合言葉を発見すると慌ててリリスは口元に指をやり、誰も第四階層の合言葉を口にしないように注意した。前回の反省を踏まえてレイナも口元を抑えると、リリスは第四階層の合言葉を見て頷く。



「では外界へ戻ります!!作動までに少しの猶予がありますけど、その間は何とか耐えてください!!」

「は、早くしろっ!!もう階段まで迫ってきているぞ!!」

『ゴオオオオッ……!!』



今まで何処に描くてていたのかサンドゴーレムの大群が迫り、必死に団員達は階段を上がれないように武器を振っていた。すぐにリリスは転移台を発動させると、魔法陣が光り輝き始める。



「作動させました!!これで元の世界に戻れる……あれ!?」

「ど、どうしたの!?」

「いえ、何かおかしくありませんか?ほら、いつもより輝きが小さいというか……」

「確かに……」



魔法陣は光り輝き始めたが、今までと比べても光の強さが弱々しく、すぐに転移が作動する様子がない。徐々にではあるが光が強くなり始めているのでいずれは作動すると思われるが、このままではすぐに作動するとは思えなかった。




――実はこの転移台の魔力はブロックゴーレムによって長年の間に吸収され続け、その影響で転移台の魔法陣も発動までには時間が掛かった。


しかし、その事実を知らないレイナ達は転移台の不調かと思い、地上から迫ってくるサンドゴーレムの大群と戦う羽目になった。




「うわああっ!?も、もう来てます!!これ以上は無理ですって!!」

「くっ!?こいつら、どれだけいるんだ!!」

「早く作動してくださいよ!!」

「そういわれてもどうしようもできませんよ!!ああ、もう……一応は光も強まっていますし、どうにか耐えてください!!」

「耐えろって……ああ、もう!!」

「きゅろっ!!こっち来るなっ!!」

「ぷるっしゃああっ!!」



転移台が発動するまでの間、迫りくるサンドゴーレムの大群の足止めのためにレイナはデュランダルを構え、サンはクロミンを使って放水を行う。

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