第288話 煙幕
「今ですよ!!やっちゃってください!!」
「分かった!!」
「ゴオッ……!?」
リリスが合図を出すと、レイナは振り返って彼女が投げた袋に視線を向け、大剣を構えて振り翳す。刃に振動を走らせて振り切った瞬間、衝撃波が生み出されて袋に激突した。
袋の中に入っていた闇属性は衝撃波を受けた事によって袋の内側で破壊され、袋を破って大量の「黒霧」が出現した。結果的には煙幕のようにブロックゴーレムの身体を包み込み、黒霧に覆われたブロックゴーレムは混乱を起こしてその場にうずくまる。
「ゴアアッ……!?」
「よし、今ですよ!!黒霧に覆われている間はブロックゴーレムも私たちの事を捉える事は出来ないはずです!!脱出ですよ!!」
『うおおおおおっ!!』
建物のあちこちから隠れていた団員が飛び出すと、一目散に転移台が存在する方向へと駆け出す。その後にリリスも続き、十字路に存在したレイナ達も後に続こうとしたが、ここで煙幕の中から予想外の人物が姿を現す。
「ぶはぁっ!?し、死ぬかと思ったでござる!!」
「ハンゾウ!?何処から現れたの!?」
「ずっとこいつの背中に張り付いていたのでござる!!」
煙幕から脱出して身体にまとわりついた黒霧を地面に転がって掻き消したのは逃走の最中に姿を消したはずのハンゾウだった。どうやら彼女はずっとブロックゴーレムの背中側に張り付いて身を隠していたらしく、煙幕に巻き込まれてしまったらしい。
「酷いでござるよレイナ殿!!拙者が抜けだす前に作戦を実行するなんて……」
「ご、ごめん……気づかなかったんだよ」
「ていうか貴方、その煙幕を受けてよく平気でしたね?」
「忍者である拙者は闇属性の耐性も持ち合わせているでござる!!」
「な、なるほど……って、のんきに話している場合か!!急いで逃げるぞ!!」
『ゴオオオオッ……!!』
ハンゾウが無事だったことを喜ぶ暇もなく、煙幕に覆われたブロックゴーレムの声が鳴り響き、レイナ達は急いで脱出を計るために走り出す。リリスの計算では煙幕によってブロックゴーレムを足止めできるのはせいぜい数分程度だと思われ、その間にレイナ達は第三階層を抜け出さなければならない。
既に他の団員達は街道を駆け抜け、残されたのはレナ、サン、クロミン、ハンゾウ、リリス、オウソウの6人(正確には5人+1匹)だった。レイナ達は街道を駆け抜けて転移台の方角へ向けて全速力で移動を行う。
「リリス殿、本当にブロックゴーレムは動かないのでござるか!?」
「それは間違いありません!!あれでも生物ですからね、闇属性の魔力をあれだけ浴びれば無事では済みませんよ。あの煙幕は視界を封じるだけではなく、五感も狂わせますからね。普通の人間だったらステータスを低下するぐらいの危険な代物ですから!!」
「くっ、走りすぎて脇腹が痛い……」
「きゅろっ?(オウソウの脇腹さする)」
「ぶははっ!?こ、こらっ!!さするんじゃない、そこは弱いんだ!?」
「ぷるぷるっ(悪気はなかった)」
逃走の最中もレイナは後方を振り返り、煙幕を受けてうずくまっているはずのブロックゴーレムの様子を伺う。リリスの言う通りにブロックゴーレムが動き出す様子はなく、この調子ならば無事に逃げ切れると思われた時、唐突に建物のあちこちからサンドゴーレムが出現した。
『ゴォオオオオッ……!!』
「うわっ!?な、何だこいつらはっ!?」
「しまった、派手に暴れすぎたんですよ!!街中に存在するサンドゴーレムが集まってきたんです!!」
「今は構っている暇はない、先に進んで!!」
複数のサンドゴーレムが街道を立ち塞がろうとするが、それに対してレイナはデュランダルを引き抜いて衝撃波を生み出してサンドゴーレムを吹き飛ばす。
「はああっ!!」
『ゴァアアアアッ……!?』
デュランダルが振り抜く度に発生する衝撃波によってサンドゴーレムは肉体を吹き飛ばされ、体内の核を破壊される。デュランダルはゴーレムが相手の場合は最も相性が良い聖剣らしく、これがもしもアスカロンやエクスカリバーではゴーレムを倒すのに時間が掛かっただろう。
アスカロンの場合はゴーレムを切り裂く事は出来ても核を破壊するまで切り続けなければならず、エクスカリバーの光刃は普通の生物には効果は非常に薄い。フラガラッハの場合はそもそも論外だった。
「よし、道が開いた!!」
「もう転移台には他の団員も辿り着いているようですね!!」
「俺達も急ぐぞ!!」
転移台には既に他の団員達も上り詰め、彼等はレイナ達が近づいてくるのを知ると必死に腕を振って呼びかける。その様子を見てレイナ達は彼等が自分たちのために待っててくれていたのかと思ったが、ここで予想外の言葉が告げられる。
「た、隊長!!大変です、合言葉が……!!」
「合言葉?」
「合言葉がありません!!」
「はいっ!?」
団員達の言葉にレイナとリリスは驚き、ここまで来たのに合言葉が分からないという意味が理解できず、慌てて階段を駆け上がってレイナ達は台座の前に移動した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます