第276話 サンドゴーレム

「そろそろ出発しますよ、各自水分補給は済ませましたね?今日中に脱出するのでここから急いで行きますよ!!」

「は、はい!!」

「ふうっ、あと少しで帰れるんだな……」

「やっと戻れるんだ……」

「気を抜くな!!ここが大迷宮だという事を忘れるな、一瞬の油断も許されない場所だぞ!!」



リリスの言葉を聞いて団員達はもう少しで外界へ戻れる事に気が緩みそうになるが、そんな彼等にオウソウが叱りつけた。確かに彼の言葉は一理あるため、全員が気を引き締める。



「オウソウの言う通りですよ。いいですか、絶対に油断しては駄目ですよ?絶対ですよ?」

「そこまで連呼されると逆にふりかと不安になるんだけど……」

「きゅろっ?」

「ぷるんっ?」



レイナ達は準備を整えると出発を再開して北の方角へと目指す。広大な砂漠を方位磁石も持ち込まずに移動しても迷う事なく進めるのはレイナの「地図製作」の技能のお陰であり、今回の大迷宮のような場所での探索では最も役立つ能力だといえた。


地図製作の画面を確認しながらもレイナは気配感知と魔力感知の能力を発動させ、画面上に自分たちのマーカーを確認する。


このマーカーは味方であれば青色に表示され、レイナに定期を抱いている存在は赤色で表示される。この能力を利用すれば地図製作で表示されている画面内で敵が現れてもすぐに対処できるため、順調に進んでいった。



「レイナさん、どうですか?なにか反応はありましたか?」

「ううん……今まで俺が移動した場所には敵の反応しかない。やっぱり、他の皆はもう……」

「悲観しては駄目ですよ。まだ生きている可能性も十分あります、きっと先に戻ったんですよ」

「そうだといいんだけど……」



ハンゾウとネコミンと他の団員達の心配をしながらもレイナは先を進み、やがて街らしき建物群を遠目ながらに発見した。まだ距離はあるが人間が建設したと思われる建造物が並んでいる事にレイナ達は喜ぶ。



「ま、街だ!!本当に街があったぞ!?」

「こんな場所にどうして……」

「そんな事はどうだっていい!!こ、これで外へ戻れるんですよね!?」

「落ち着いてください、まずは街へ着くまでは騒がずに移動しましょう。他の魔物に気づかれる危険性があるんですよ?」

「あっ……す、すいません!!」



騒ぎ立てる団員達にリリスは呆れた表情を浮かべながら静かにするように告げるが、地図製作の画面を見ていたレイナは目を見開き、自分たちに近付いてくる反応を告げた。



「敵が近づいてくる!!全員、戦闘準備!!」

『っ!?』

「来たかっ!!何処にいる!?」

「ぷるぷるっ!!」

「きゅろっ……また砂の中?」



レイナの言葉に即座にオウソウは鉤爪を身に付け、周囲を警戒する。他の団員も慌てて武器を構える中、クロミンを抱えていたサンはクロミンの言葉を聞いて地面に視線を向けた。


地図製作の画面上にはレイナは3体の敵が近づいている事を把握したが、周囲を見渡しても敵の姿はなく、砂鮫のように砂の中を移動しながら近づいているのかと思った。


しかし、砂鮫が現れる場合は必ず砂煙や背ビレが地上に出現するはずだが、今回の場合はどちらもでもなく、人間の腕の形をした砂が盛り上がる。



『ゴロロロ……!!』

「う、うわぁっ!?」

「な、何だこいつらっ!?」



地中から現れたのは全身が砂で構成された人型の化物であり、その外見はかつて帝都の大迷宮にてレイナが遭遇した「ロックゴーレム」と酷似していた。


だが、こちらの魔物場合は肉体を構成しているのは岩石ではなく砂らしく、唐突に現れた砂の化物に団員達は戸惑う。



「こいつは……サンドゴーレム!?私も文献でしか見たことがありません!!」

「サンドゴーレム!?」

「こいつらは砂で構成されたゴーレムです!!普通の攻撃は通じませんから気を付けてください!!」

「何だと!?」

『ゴロロロッ!!』



リリスの言葉を聞いてサンドゴーレムと向かい合っていたオウソウは慌てるが、その間にもサンドゴーレムの1体がオウソウの元へと迫り、両腕を広げて抱き着こうとしてきた。


サンドゴーレムの体格はロックゴーレムと比べると小さく、身長の方は2メートル程度しか存在しない。それでも大柄なオウソウよりも大きいので抱きしめられたら逃げ切れないと判断したオウソウは身を躱す。



「ぐっ……このっ!!」



オウソウはサンドゴーレムに対して鍵爪を身に付けた右腕を振り払い、腕を切ろうとした。しかし、腕を切ろうとした鍵爪の刃は砂で構成された腕を切り落とす事が出来ず、刃が通過してしまう。



「な、何ぃっ!?」

『ゴロロッ……!!』



慌てふためいたオウソウは何度も鍵爪を振り払うが、砂で構成されているサンドゴーレムの肉体には刃は通じず、どんなに切りつけようと刃は通じなかった。それを見てリリスが注意した。

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