第275話 ひと時の休憩

「う、嘘だ……オウソウが俺よりも年下だったなんて……」

「じょ、冗談だろ!?冗談と言えよ!!」

「ていうか、お前!!年下の癖に俺達を呼び捨てにしてたのか!!」

「どう見てもその顔で18はないだろ!!どんだけ老け顔なんだよ!?」

「やかましいっ!!殴り飛ばすぞ貴様ら!!」



オウソウの元に団員達が群がり、まさか誰よりも年上だと思われた相手がレイナやリリスやサンを除いて一番の最年少者だった事に誰もが動揺を隠せない。しかし、ここでリリスはある事を思い出す。



「あれ、でも少し前にレイナさんはオウソウに「解析」の能力を使ってませんでした?ほら、団員の中で裏切り者を見つけ出そうとしたときに……」

「いや、あの時はしっかり見れなかったから……それに28だと思ってた」



過去にレイナはオウソウのステータスを確認した事があったが、その時に彼が18才である事を見落としていた。


年齢的にはレイナと同じ高校生である事は確かであり、不意にレイナはオウソウが自分と同じ高校の服を着こんでいる姿を想像して口元を抑えてしまう。



「ま、まあ驚きましたけど別に年齢はどうでもいいです。それよりも今はしっかりと体力を回復させて先へ急ぎましょう。皆さん、喧嘩して余計な体力を使わないでください」

「ちっ……年下だと知ってたら敬語なんて使わなかったのによ」

「おい、オウソウ!!肩を揉め!!」

「水を持ってこい!!」

「き、貴様等ぁっ……!!」

「どうどうっ」



少し前まではオウソウに気を遣っていた団員達も態度を改め、自分たちが年上である事を強調するように指示を出す。階級的には別にオウソウは彼等と同じでしかも同期のため、どちらかが偉いというわけではないが。



「何だかんだで皆、打ち解けてきたようで何よりですね。これもレイナさんのお陰です」

「え、そうかな……まあ、最初の頃よりは皆との距離が縮まったような気がする」

「彼等がレイナさんの事を認めていなかったのは実力を見せていなかったからですよ。この調子でどんどん他の団員達にもレイナさんの真の凄さを思い知らしめましょう」

「ぷるるんっ♪」



最初の頃は反抗的な態度を貫いたオウソウさえも現在はレイナの言う事を聞き、他の団員達も従い始めていた。彼等がレイナに不満を抱いていたのは勇者のコネで幹部に昇格を果たしたと思い込んでいた身体が、トレントを倒した辺りから団員達も本当にレイナの実力を認め始めた。


この様子ならば他の団員達もレイナが力を示せば従ってくれるとリリスは確信を抱く一方、まずはこの第三階層を抜け出すために集中する。彼女は石板を取り出して現在位置の確認を行い、レイナの地図製作の能力を把握して次の目的地の正確な方向を図る。



「この石板を確認する限りだと、このオアシスを中心に西側に古城、北側に転移台が配置されています。東側と南側にも何かあるようですけど……削れていてよく分からないですね」

「ずっと湖の底に沈んでたみたいだから……」



石板はオアシスを中心に地図が記されているが、西と北の方角には城や街を想像させるシルエットが記されていた。しかし、残りの南と東には何かが刻まれていた事は分かるのだが、長年放置され続けていたせいか削れてよく分からなかった。


時間に余裕があれば確かめたい所だが、既にレイナ達がこの第三階層へと訪れてから半日以上の時間が経過していた。あまりに時間を掛けすぎると外で待機しているリルが団員を引き連れて救助に向かうかもしれないが、その場合は彼女たちの身が危なくなる。


この第三階層への転移は何故か別々の場所に転移する仕組みらしく、迂闊に大人数で転移しようとすれば全員場別々に飛ばされて危険な目に合う。そうなる前にレイナ達は早急に帰還する必要があった。



「でも、このオアシスは何なんだろう……どうしてこんな石板が埋まっていたんだろうね」

「確かにそれは気になりますね。そもそも、どうしてこんな場所にオアシスがあるんでしょうか?砂嵐が発生すれば真っ先に埋め尽くされそうなのに……」



現在レイナ達が滞在しているオアシスの方も謎が多く、どうして地図が記された石板が沈んでいるのか、そもそも砂嵐が発生したにも関わらずにオアシスが無事な理由も判明していない。しかし、今は謎を解明するよりも早く引き返す方が先であり、今だけは脱出に集中した。



「さあ、休憩は終わりです。出発しますよ!!」

「クロミン、そろそろ行くよ……うわっ!?どれだけ水を飲んだらそんなに大きくなるの!?」

「ぷるるんっ(ごっつぁんっ)」



湖に浮かんでいたクロミンをレイナが呼び寄せると、大量の水分を吸収して体積が膨らんだクロミンが陸地へと上がる。まるで力士のように肥大化したクロミンを慌ててレイナは身体を掴んで余計な水分を吐き出させた。



「ほら、ぺっしなさい、ぺっ!!そんなに大きかったら動きにくいでしょっ!!」

「ぷるっしゃああっ……」



レイナに押し込まれてクロミンは口から如雨露のように水を吐き出すと、元の大きさへと変化する。そしてレイナの頭の上に移動すると、全員の準備が整ったのを確認してリリスは出発の合図を行う。

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