第260話 リッチ
「気を付けて下さいレイナさん!!そいつはもう人間ではありません、きっと自分自身をアンデッドに変化させた「リッチ」です!!だから意識も失う事はありません!!」
「リッチ!?」
『ぐうっ……おのれ、人間がぁっ!!』
リリスの言葉を聞いたレイナが彼女に一瞬だけ注意を引くと、その隙を逃さずに死霊魔術師の老人は杖を振り払い、腐りかけた肉体からは繰り出せるとは思えない強い力にレイナは後退してしまう。
「何だ、この力……!?」
『調子に乗るなよ下等生物がっ……人間を超越した存在の私に勝てると思っているのか!!』
「このっ……舐めるなっ!!」
杖を握りしめて振り下ろそうとしてきた「リッチ」に対してレイナは杖を両手で受け止め、逆にリッチの肉体を蹴り飛ばす。
『ぐあっ!?』
「……アンデッドの癖に痛みがあるのか?」
「いえ、リッチに痛覚はないはずです!!ですけど、生者だった頃の感覚が抜けきれないようですね!!」
『ぐっ……何なのだお前らは!?』
リッチはあっさりと自分の杖を受け止めて逆に反撃を繰り出してきたレイナに対して動揺を示し、その隙にリリス達もリッチの元へ向かう。このままではまずいと判断したのかリッチは両手を地面に向けると、掌から黒煙のような物を生み出す。
「ダークミスト!!」
「うわっ……何だっ!?」
「くっ……闇属性の魔法!?」
「な、何だこれは!?」
「きゅろろっ!?」
掌から放出された「黒色の霧」によってレイナ達の視界は奪われ、咄嗟にレイナは霧を振り払おうとしたが、まるで粘着質があるかのように動けば動くほどに霧が身体にまとわりつく。しかも霧に触れた部分から徐々に力を奪われていくような感覚に襲われ、咄嗟に吸い込まないようにレイナは口元を抑える。
黒霧によって視界を封じられ、下手に動くことが出来なくなったレイナは他の仲間達の安否を心配するが、その時に何処からかリッチの声とクロミンの声が聞こえてきた。
『ぷるるんっ!!』
『な、何だ貴様はっ!?や、やめろっ!!』
「っ……!?」
クロミンの声が響くと同時にリッチの焦った声が聞こえ、その声を頼りにレイナはデュランダルを握りしめると、視界が封じられた状態でありながらも攻撃を仕掛けた。
(ここか!!)
声を頼りにレイナはデュランダルを振りかざすと、刃が振動を引き起こして剣を振りかざした瞬間に「衝撃波」を生み出す。デュランダルの能力によって発生した衝撃波がレイナ達の身体を包んでいた黒霧を吹き飛ばし、そしてクロミンに頭をかじられたリッチの肉体を切り裂く。
「うおおおっ!!」
『うぎゃあっ!?』
「や、やったのか!?」
リッチは胸元を大きく切り裂かれ、その光景を目にしたオウソウはリッチを倒したのかと驚きの声を上げるが、肉体を傷つけられてもリッチは血液一滴も溢さず、代わりに黒色の液体が傷口からにじみ出てきた。
液体の正体はどうやらリッチの魔力で構成された液状の闇属性の魔力らしく、外部に出てきた瞬間に煙と化して消え去ってしまう。リッチは胸元の傷を片腕で抑えながらも忌々し気に自分の頭に噛みついたクロミンを掴み、無理やりに引き剥がす。
『この、スライム如きがぁっ!!』
「ぷるんっ!?」
「クロミン!!」
咄嗟に投げつけられたクロミンをサンが受け止めると、レイナは安堵するがその間にリッチは足元をふらつかせながらも部屋の外へ抜け出す。それを見てリリスは追いかけるように指示を出した。
「レイナさん!!リッチを逃してはいけません、そいつを逃がしたら大変な事になります!!」
「分かってる!!」
「きゅろっ!!レイナ、クロミンは任せて!!」
「ぷるぷるっ……」
サンはクロミンを抱きかかえてレイナを安心させると、それに対してレイナはサンに頷き、通路へと移動する。そして逃げようとするリッチを逃さないため、正体が判明する事も恐れずにレイナは鞄に手を伸ばして「エクスカリバー」を引き抜く。
(こいつだけは許せない!!)
自分たちを襲い、そしてクロミンに手を掛けようとしたリッチに対してレイナは怒りを抱き、エクスカリバーを引き抜くのと同時に力を発揮させた。その結果、エクスカリバーの刀身が光り輝くと、リッチの背中に向けて光刃を放つ。
「うおおおおっ!!」
『ま、待てっ――!?』
異変に気付いたリッチは振り返ってレイナがエクスカリバーを握りしめている事に気づき、彼は慌てて止めようとしたがレイナが聞き入れるはずもなく、そのまま刃を振り下ろす。
その結果、エクスカリバーから放たれた光刃によってリッチの身体は真っ二つに切り裂かれ、断末魔の悲鳴が通路に響き渡った。
――オォオオオオオオオッ……!?
おぞましい悲鳴を上げながら二つに切り裂かれたリッチの肉体は床に倒れこむと、やがて灰と化して崩れ去る。その様子を見てレイナはリッチを倒した事を確信すると、冷や汗を流しながら床に膝をついた。
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