第256話 回復液強化

クロミンが放射した回復液にはリリスが施した回復魔法により、聖属性の魔力も宿る。さらにその状態でレイナがクロミンを抱きしめた状態で放射させた結果、リビングアーマーの肉体には聖属性の魔力を宿した回復液が浴びせられる。


だが、普通ならばその程度の攻撃では先ほどのリリスの光球のようにリビングアーマーを倒すには至らない。せいぜい嫌がらせ程度の効果しか生み出さないだろう。それにも関わらずにリビングアーマーは回復液を浴びた瞬間にもだえ苦しみ、その場で甲冑の全身から黒霧を噴き出す。



――リビングアーマーの異変を見たレイナは抱きかかえたクロミンに視線を向け、上手く彼を「自分の武器」として扱えた事を悟る。体内に回復液を取り込んだクロミンを使い、相手に攻撃を仕掛ける行為によって無事にレイナの「剛力」の効果が発揮されたらしく、クロミンの回復液はただの回復液ではなくなり、剛力の効果によって9倍も威力(この場合は効果)が増幅されたらしい。



回復液だけではなく、リリスの回復魔法を施したおかげで聖属性の魔力も多分に含んだ液体によってリビングアーマーは床に倒れ、やがて完全には動かなくなった。その様子を見てレイナは恐る恐るデュランダルを構えて近づいてみるが、完全に浄化されたのか動く気配はない。



「……どうやら倒したみたいだよ」

「ふうっ……何とかなりましたね」

「い、一体何をしたんだ?」



オウソウは痛めた身体を引きずりながらリビングアーマーの元に近寄り、完全に動けなくなったリビングアーマーの様子を見て戸惑う。彼の眼にはクロミンが回復液を振りかけただけでリビングアーマーが動かなくなったようにしか見えないが、説明も面倒になったのかリリスが彼に回復魔法を施す。



「ほらほら、そんな事よりも傷を見せてください。治してあげますから……」

「あ、ああ……すまん」

「これは……もうただの甲冑だね」

「きゅろっ!!サンたちの勝利!!」

「ぷるぷるっ」



動かなくなった甲冑の上にサンが乗り、クロミンも勝利を誇るように兜の上で飛び跳ねる。一方でレイナの方は甲冑の中を覗き込み、中には誰もいないことを確認して本当に悪霊と呼ばれる存在が甲冑に憑依していた事を思い知らされる。



(この世界、幽霊までいるのか……まあ、ゾンビがいる辺り今更だけど)



過去にレイナは吸血鬼が生み出したゾンビ(アンデッド)とも遭遇しており、今更幽霊と対峙したところで驚きはしなかった。この世界に馴染みつつある自分に苦笑いを浮かべながらもレイナはリリスに振り替える。



「この甲冑、結局なんだったんだろう」

「リビングアーマーがいるという事は……死霊魔術師ネクロマンサーが関わっているのは間違いありません」

「死霊……何?」



初めて聞く単語にレイナは不思議に思うと、リリスが詳しく説明を行う。



「死体を操ったり、霊体を使役する極めて珍しい魔法職です。魔術師の中でも非常に珍しい存在で、同時に最も警戒される存在でもあります」

「どうして?」

「死霊魔術師は死体をアンデッドへと変貌させます。しかも吸血鬼と異なり、死霊魔術師の場合は作り出したアンデッドと繋がっているため、もしもアンデッドが生者を捕食した場合はその生者の力の一部を吸収して強くなれます。だから過去に大量のアンデッドを作り出して村や街を襲ったという死霊魔術師もいたぐらいです」

「そんなに恐ろしい存在なの!?」

「それだけではありませんよ。死霊魔術師はアンデッドだけではなく、このリビングアーマーのように無機物にも霊体を憑依させ、自分の手駒として操ることが出来ます。更に一番厄介なのは死霊魔術師が作り出したアンデッドやリビングアーマーは死霊魔術師が生き続けている限りは活動を続けます。つまり……」

「という事は……このリビングアーマーを作り出した死霊魔術師がまだ生きていて何処かにいるという事?」

「そんなバカなっ……ここは大迷宮だぞ!?どうやって死霊魔術師如きがここへ入ってきた!?」



この巨塔の大迷宮はあまりにも危険すぎて国内の冒険者ですらも立ち入らなくなった場所であり、現在では誰も近づこうとしない危険区域に指定されている。そんな場所で死霊魔術師が何の目的で入り込んだのか、そもそもどうやって入り込んだのかが謎である。


第三階層にリビングアーマーが存在したという事はこの場所に挑んだ死霊魔術師は少なくとも第三階層の合言葉を知っている事になるため、最低でも第二階層まで突破した事になる。もしくは何らかの方法で第三階層の合言葉を知ったという可能性もあるが、ケモノ王国が保有する巨塔の大迷宮の資料にも記されていない合言葉をどうやって知ったのかが問題だった。

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