第255話 クロミンの水鉄砲

「リリスさんの魔法でこいつを浄化できないの?」

「それは……ちょっと難しいですね、光球の魔法程度では浄化は出来ませんし、せいぜい嫌がらせ程度の効果しか与えられません。後は直接近づいて回復魔法を施すぐらいしか方法はないんですが……こんな化け物に近づいたら私は一瞬でお陀仏ですよ」

「ぬうっ……それでは打つ手がないのか!?」

「きゅろろっ……」



リビングアーマーはレイナに吹き飛ばされたにも関わらず、起き上がって向かい合う。仮に甲冑の中に人間が存在するのならば先ほどのレイナの攻撃で全身の骨が砕けてもおかしくはないのだが、あくまでも甲冑に憑依しているのは悪霊なので痛覚は存在しないらしく、いくら攻撃を仕掛けても怯む様子も見せない。


甲冑自体も相当な強度が存在するらしく、仮にも聖剣を扱ったレイナの攻撃を受けてもせいぜい所々が凹んだ程度で行動不可能な程の損傷を与えられない。やはり聖属性の攻撃でなければ倒せない可能性が高かった。



(どうしよう、こいつを倒すにはエクスカリバーしかないのか?いや、待てよ……聖水ならこいつに効果があるかも)



レイナの脳裏に聖属性の魔力を宿した「聖水」と呼ばれる薬品を思い出す。この聖水を使用すれば回復薬のように傷の治療を行えるだけではなく、武器に振りかければ一時的にだが武器に聖属性の魔力を宿すことも出来る。その聖水がこの場にあればリビングアーマーに対抗する手段も手に入れられたかもしれないが、残念ながら今は手元には存在しない。



(参ったな、こんな事なら余分に聖水を持っておけば良かった……文字変換の能力で作り出すか?いや、待てよ……回復薬の場合はどうなるんだ?)



ここでレイナはあることを思いつき、その方法を試す前にリリスに質問を行う。



「リリス!!回復薬はこいつに効果があるの?」

「えっ……回復薬ですか?そうですね、確かに回復薬も悪霊には効くという話は聞いたことがあります。ですけど、聖水ほどの効果は望めないと思いますけど……」

「それでも効くんだね?なら、十分だよ」



普通の回復薬でも悪霊系の魔物には僅かではあるが効果がある事を確認すると、レイナは自分の手持ちの回復薬を取り出して通路の端の方に隠れているクロミンを呼び出す。



「クロミン、こっちにおいで!!」

「ぷるんっ?」

「レイナ、またあいつくる!!」

『ッ……!!』



唐突に呼び出されたクロミンは驚いたようにレイナに顔を向けるが、サンがリビングアーマーが動き出したことをレイナに告げる。クロミンと合流する前にリビングアーマーが近づいてきたことにレイナは舌打ちするが、オウソウが飛び出してリビングアーマーに鍵爪を振りぬく。



「牙斬!!」

『ッ……!?』

「オウソウ!?」



オウソウの予想外の行動にリビングアーマーは彼に顔を向け、レイナの方も驚いた声を上げる。だが、オウソウは借りを返すとばかりに両腕の鍵爪を振り回すと、リビングアーマーをの注意を惹く。



「何を考えているのか知らんが、こいつは俺が抑えておく!!だから早く何とかしろっ!!」

「オウソウ……分かった、クロミンこっちにおいで!!」

「ぷるぷるっ!!」

「何をする気ですかレイナさん!?」



オウソウが時間を稼いでいる間、レイナはクロミンを抱き寄せると自分の回復薬を取り出し、クロミンの口の中に突っ込む。



「ほら、全部飲んで!!」

「ぷるるっ……!!」

「ちょ、何してるんですかこんな時に!?」

「いいからリリスも持っている回復薬をクロミンに渡して!!」

「ええっ!?」

「お、おい……早くしろ、そんなに長くは持たんぞ!?」

『ッ……!!』



レイナの行動にリリスは驚き、しかも自分の分の回復薬まで要求されて混乱する。その間にもオウソウはリビングアーマーと正面から渡り合い、どうにか時間を稼ぐがそれほど長くは持ちそうになかった。


クロミンはレイナの回復薬を飲み込み、さらにリリスが所有していた回復薬を補給すると、一段と身体の発光が強まっていく。その様子を確認したレイナはクロミンを抱きかかえると、止めとばかりにリリスに回復魔法の指示を出す。



「リリス、クロミンに回復魔法を!!」

「回復魔法……なるほど、そういう事ですか!!」

『ッ……!!』

「うおおっ……!?も、もう限界だ……!!」

「きゅろろろっ!!」



リリスはレイナの言葉を聞いてここで彼の意図を察し、即座にクロミンに回復魔法を施す。その一方でオウソウの方はリビングアーマーに壁際まで追い込まれ、首を絞めつけられていた。だが、そんなオウソウを救うためにサンが駆けつけ、甲冑の兜にしがみつく。


その様子を確認したレイナはこれ以上は待てないと判断すると、リリスの魔法によって肉体に聖属性の魔力を帯びたクロミンを構え、一気に体内に蓄積させていた回復薬を吐き出させる。



「クロミン、水鉄砲!!」

「ぷるっしゃああああっ!!」

『ッ……!?』

「ぶわぁっ!?」

「きゅろろっ!?」



固まっている3人に対してクロミンは回復液を吐き出した瞬間、リビングアーマーの身体に異変が生じた。

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