第257話 死霊魔術師

「……ともかく、ここから先は用心して進みましょう。死霊魔術師の事も気がかりですが、まずは私達以外の団員がここに入ったのかを調べましょう」

「足跡の中にはリビングアーマー以外のも存在したから……少なくとも俺たち以外の誰かが入っているのは間違いないよね?」

「ああ、それは確かだ。人の臭いが微かに残っている……この通路に誰かが訪れたのは間違いない」

「すんすんっ……レイナ、こっちの方から臭う!!」

「ぷるぷるっ!!」



サンが鼻を引くつかせ、通路の分かれ道の片方を指差す。どうやらダークエルフは嗅覚も効くのか彼女は犬のように四つん這いになりながら鼻を引くつかせ、先に進む。その様子を見て慌ててレイナ達は彼女の後に続く。



「サン、勝手に一人で行ったら駄目だよ!!それにスカートで四つん這いになっちゃ駄目でしょ?ほら、めっ!!」

「きゅろろっ……」

「レイナさん、お母さんみたい……というより飼い犬を叱りつける飼い主みたいになってますよ」

「何なんだこの小娘は……ダークエルフとはこんな変わり者が多いのか」

「がぶっ!!」

「あいでぇっ!?う、腕にかみつくなっ!!分かった、今のは俺が悪かった!?」



オウソウの言葉に怒りを抱いたサンは彼の腕に噛みつくと、オウソウは涙目になって腕を振り回して引き剥がそうとした。だが、その間にクロミンが通路の先へと進み、やがて大きな扉の前に立ち止まる。



「ぷるぷるっ!!」

「どうしたのクロミン……その扉が何か気になるの?」

「これは……随分と大きい扉ですね、巨人族でも通り抜けられるように設計したんですかね?」



クロミンが発見したのは4メートルを軽く超える巨大な扉であり、大きな錠が施されているため、中に入るのは難しそうだった。



「錠が掛けられていますね。ちょっと待ってください、私のピッキングで開けられるかどうかを試しますから……」

「リリス、そんな技術まで持ってたの?でも、わざわざ開ける必要はないよ」

「え?それはどういう……」

「下がってて」



錠を前にしてリリスは道具を取り出して鍵を開けようとしたが、その前にレイナはデュランダルを引き抜くと、錠に向けて刃を振り下ろして破壊する。



「ていっ……よし、外れたよ」

「いや、まあ……外れましたけど本当に何でもありですねレイナさんは」

「そうかな?」

「おい、開けるぞ……注意はしておけ」



オウソウが錠を破壊された扉に両手を押し付けると、彼は渾身の力を込めてゆっくりと押し開く。そして扉の先にはレイナ達にとっては予想外の光景が映し出され、どうやらこの城の「武器庫」と思われる倉庫にレイナ達は辿り着いた様子だった。


扉の内部には様々な武具が並べられ、人間だけではなく、巨人族も扱うと思われる武器も保管されていた。壁や棚に様々な種類の武具が並べられ、その中にはレイナの世界には見たこともない武器も存在したが、残念ながら殆どの武具が長い間放置され続けていたのか埃を被り、老朽化を起こしていた。



「これは……恐らく武器庫ですね」

「でも……随分と長い間、放置されてたみたいだね」

「くそ、これでは使い物にならんではないか!!」

「きゅろろっ……汚れてるのばっかり」

「ぷるぷるっ……」



武器庫の中に存在する殆どの代物が使い物にならない状態であり、試しにレイナは壁に立てかけた剣を掴もうとすると、持ち上げた瞬間に剣の柄が壊れて刃が床に落ちてしまう。


リリスも試しに魔術師が扱う杖らしき物に手を伸ばすが、持ち上げようとした段階で壊れてしまい、眉をしかめる。一方でサンは木箱の中に保管されていた短剣を掴むが、刃が酷く刃こぼれをしており、オウソウは棚に入っていた鉤爪を取り出すが、刃の部分が錆びだらけで使い物にならない。



「……外れだな」

「そうですね、残念ですけどこれらの品物は持ち帰っても使い道になりませんね」

「きゅろろっ……」



折角見つけた武器庫ではあるが、長い間放置され続けて使い物になりそうな武具は存在せず、仕方なくレイナ達は引き返そうとした。だが、クロミンだけは何かを感じるのか武器庫の奥の方に置かれている大きな箱の前で身体を跳ねて主張する。



「ぷるぷるっ!!」

「どうしたのクロミン、その箱が気になるの?」

「クロミンが何かを感じたのかもしれませんね。一応、中身も確認しておきますか」

「そうだね、あんまり期待できそうにないけど……」



クロミンの示した箱の前にレイナ達は集まると、蓋を開いて中身を確認する。その結果、レイナ達の視界に映し出されたのは漆黒に染まった「刀」だった。それを見た瞬間、レイナ達は鳥肌が立った。



「な、何だっ……この剣は!?」

「この感じ……いやな予感がします。レイナさん、触れては駄目ですよ!?」

「え、あ、うん……分かった」

「きゅろろっ……!!」

「ぷるんっ?」



長剣を見た瞬間にオウソウは冷や汗を流し、リリスも警戒心を抱いて皆を下がらせた。サンもレイナの後ろに隠れるが、剣を見てもクロミンだけは特に平気そうだった。


レイナも剣を見た時は背筋が凍り付く感覚はあったが、同時に疑問を抱く。木箱の中に保管されていたのは明らかに「日本刀」を意識した武器が保管され、外見は黒く染まっているが間違いなく本物の日本刀と瓜二つであった。

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