第252話 古城

「この建物、明らかに外の環境の事を考えて作り出されていますね。ですけど、どうしてわざわざこんな場所に城なんて……」

「さっきの魔物が入ってきたりしないのかな?」

「油断はできません。この城も恐らくは半分近くは砂に埋もれていますからね。油断だけはしないように気を付けて中を探索しましょう」

「あ、ああ……」

「きゅろっ、怖いなら手を繋ぐ?」

「ぷるぷるっ(遠慮するなよ)」

「誰が繋ぐかっ!!」



オウソウが建物の中を探索する事に戸惑い、その様子を見たサンが手を差し出すが、すぐに彼は子供に怯えていると思われなくなて先に歩いていく。しかし、暗闇なので足元の階段もよく見えず、途中で躓いて転んでしまう。



「うおおおっ!?」

「ちょ、何やってんですか!!たくもう……明かりも無しでこんな場所を進めるはずがないでしょ」

「懐中電灯でも用意する?」

「その懐中電灯というのは良く分かりませんが、大丈夫です。この程度なら私の魔法で……光球!!」

「きゅろっ!?眩しいっ!!」



リリスが掌を伸ばした途端、手元から光の球体が出現し、辺りを照らす。市販の懐中電灯よりも周囲を照らし、自由に操作もできるのかリリスはふよふよと浮かんだ光球を操作して階段から転げ落ちたオウソウを発見した。



「たく、何してんですか。ほら、さっさと立ってください」

「ぐううっ……」

「大丈夫ですか?」

「いらん、自分で立てる……いででっ!?」



レイナは心配そうに手を伸ばすと、オウソウはその手を払いのけようとしたが、転んだ時に怪我をしたのか膝を抑える。そんな彼にリリスは面倒そうに傷口の確認を行う。



「ああ、これはやっちゃいましたね。折れてはいませんけど、このまま放置すると腫れあがって歩くのも難しくなります。たく、仕方ないですね……治してあげますから少しは私たちのいう事をちゃんと聞きなさい」

「ぐうっ……」

「あんまりにも反抗的な態度だとここに残して私たちは行きますよ?こんな場所で怪我のせいで動けなくなって、外にも出られずにここで私たちが迎えに来るまで待つつもりですか?」

「ぬぐぐっ……!!」



リリスの言葉にオウソウは反論すら出来ず、渋々と傷口を見せて治療を頼む。リリスは指先を構えると、回復魔法を唱える。



「ヒール……はい、これで治りましたよ」

「おおっ……」

「あ、本当だ。凄い、一瞬で治った」

「この程度の怪我で回復薬を使うのなんて勿体ないですからね。皆さんも回復薬は大切に保管しておいてください」

「きゅろっ……サンの分、クロミンが喉乾いていたからあげちゃった」

「ぷるぷるっ(←硝子瓶の回復薬を飲み込むクロミン)」

「ちょっと!!言った傍から何をしてるんですか!?」



慌ててリリスはクロミンが咥える回復薬を回収しようとしたが、既に中身は飲み干していたらしく、これでサンが所持していた回復薬はなくなってしまう。こんな事になるのならばもう少しサンに回復薬の重要性を教えておくべきだったかとレイナは反省するが、クロミンの方は回復薬を飲んだ瞬間に身体が淡く光り始めた。



「ぷるぷるっ!!」

「あれ!?クロミンが急に輝き始めた……はっ!?まさかスライムから進化して牙竜に戻るんじゃ!?駄目だ、すぐに進化キャンセルボタンを押さないと!!」

「いや、レイナさんも落ち着いてください。単純に回復薬を吸収した事で体内の魔力が活性化して一時的に発光しただけですよ」



身体が輝き始めたクロミンを見て慌ててレイナはスイッチを探すが、リリスによると回復薬に混じっている成分によってクロミンの肉体が発光したという。普段は黒色のスライムのクロミンだが、今は回復薬のように緑色の淡い光を発していた。


クロミンは自分の肉体の変化に特に気にしているようすはなく、むしろ身体の調子がいいのか元気そうに跳ね回る。身体が光っているお陰でリリスの光球のように周囲を照らす事も出来るため、懐中電灯代わりにサンが持ち上げて辺りを照らす。



「クロミン、輝いている!!お陰で辺りが明るい!!」

「やれやれ……まあ、明かりは多い方がいいですからね。さあ、先へ進みましょう。ほら、立ってください」

「ああっ……面倒を掛けた。すまない」

「おや、意外と素直に謝罪するんですね」

「茶化しちゃ駄目だよリリス……オウソウさん、大丈夫ですか?」

「問題ない……」



オウソウは二度もレイナ達に助けられたことで思うところがあるのか、それ以降は悪態を吐かずに黙ってレイナ達の後に続く。そんな彼の反応にレイナは違和感を覚えながらも先へと進むと、やがて大きな通路へと辿り着く。


通路には大量の砂が入り込んではいるが、床全体を覆いこむほどの量ではなく、どうやら割れた窓から入り込んできたらしい。どうやらレイナ達が存在する通路は砂の中に埋もれた場所にあるらしく、歩いていると足跡らしき物を発見した。

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