第239話 魔除けの石の異変

「あった、これさえあれば……あれ!?」

「どうしたの?」

「いや、魔除けの石が……色を失ってる?」



レアは自分の鞄から魔除けの石を取り出すが、どういう事なのか取り出した瞬間に魔除けの石の輝きが失せてしまい、無色の水晶玉のように変化してしまう。それだけではなく、水晶玉は徐々に亀裂が走ると、その場で砕けて地面に落ちてしまった。


解析で調べる暇もなく所持していた「魔除けの石」が壊れた事にレアは唖然とするが、その様子を見ていたリリスが水晶玉の破片を拾い上げて残念そうに呟く。



「なるほど……どうやら噂は本当だったようですね」

「う、噂?」

「はい、大迷宮内では一部の魔物を退く効果のある魔道具を持ち込む事は出来ないと聞いた事があります。私も実際に大迷宮に入るのは初めてなので噂が真実だったのかは知りませんでしたが、どうやらこの大迷宮内では魔除けの石のような魔石は何らかの影響を受けて効果を失い、ただの水晶玉と化してしまうようです」

「そんな……」

「という事は……ここでは魔除けの石は使えないという事でござるな」



折角用意した魔除けの石が壊れた事にレアは残念に思うが、残念ながら解析を発動してもただの水晶玉の破片としか表示されず、復元は不可能だった。また、仮に修復出来たとしても大迷宮内に存在する限りでは魔除けの石は効力を失い、ただの水晶玉と化すので意味はない。


落ち込むレナをリリスは慰めるように肩を叩くと、ここから先はやはり魔物との戦闘は避けられない事を再認識して進むように注意する。



「今日の所はもう引き返しましょう。目的は達成しましたし、それにここに残っているとゴブリンにいつまた襲われるかも分かりません」

「でも、まだ入ったばかりなのに……」

「そういう油断はいけませんよ。ここは大迷宮、次の瞬間に何が起きるのか分からない危険な場所ですからね。それに団長が行っていたでしょう?無理をせずに戻って来いと……」



リリスの言葉にレアはリルの言葉を思い出し、冷静になって今回の目的は果たしている事を確認する。確かにリリスの言う事は一理あると思い、レアは彼女の意見を聞き入れて引き返す事にした。



「そうだね、分かった。じゃあ、一旦戻ろうか……」

「この建物はどうやって入るのでござるか?」

「……出入口の扉が見当たらない」

「あれ、おかしいですね……あ、こっちに階段がありますよ」



気を取り直してレア達は外へ戻るために建物へと近付くが、ここで建物の内部に入るための出入口が存在しない事に気付く。建物の周りを調べた結果、どうやら裏側の方に建物の屋上に繋がる階段を発見する。


どうやら建物と思われた建築物の正体は「祭壇」のような建築物であると判明し、階段を登って建物の頂上に辿り着くと、そこには外の世界でレア達が使用した転移台と同じ魔法陣が刻まれていた。中央部には台座が存在し、大きな水晶玉のような物が設置されていた。



「なるほど、建物の中に転移台があるのではなく、この建物自体が祭壇みたいな物だったんですね。資料を見た限りだと建物の中に入ると思い込んでいましたが、これだと身を隠す事は出来なさそうですね」

「しかし、不思議と建物の周囲には嫌な気配が感じられないでござる」

「すんすん……この建物にはゴブリンの臭いが感じない。つまり、この建物にゴブリンは避けている」

「きゅろっ……ここ、なんか近寄りたくない」

「ぷるぷるっ……」



元魔物であるサンとスライムのクロミンは転移台が設置されている祭壇に近付くと、何かを感じ取ったのか嫌な表情を浮かべて立ち止まってしまう。レア達には感じられないが、どうやら祭壇には魔物が近づけないような細工が施されているらしく、そのお陰で祭壇の近くは一種の「安全地帯」と化しているようだった。


安全地帯に関してはヒトノ帝国の大迷宮にも存在し、どうやら巨塔の大迷宮では各階層を行き来する転移台が設置された祭壇自体が安全地帯と化しているらしい。そのお陰でレア達は魔物に襲われる心配はなく、一休み出来た。



「なるほど、これが安全地帯という奴ですか。それならもう安心ですね、すぐに帰必要もありませんし、もう少しだけここを調べてみましょう」

「サン、クロミン。戻る時はこの祭壇に入らないといけないけど、大丈夫?」

「きゅろっ!!大丈夫、我慢する!!」

「ぷるぷるっ」



元は魔物とはいえ、サンの場合は現在は「ダークエルフ」なので祭壇の中に入る事は出来るらしく、クロミンの場合はスライムはそもそも魔除けの石も効かないので我慢すれば入れる様子だった。2人に無理をさせる事にレアは申し訳なく思うが、戻るためには祭壇を利用しなければならないので仕方がない。


一方でリリスの方は祭壇の周囲を歩き回り、転移台のあちこちを調べ、興味深そうな表情を浮かべる。事前にまとめていた大迷宮の資料の確認を行い、まずは元の世界へ戻る方法と次の階層へ移動する方法を確認した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る