第237話 ゴブリンの巣窟
「レアさん、足元に気を付けてください!!」
「足元……うわっ!?」
リリスの言葉にレアは地面に視線を向けると、地中から緑色の手が飛び出してきた。咄嗟に後方に下がって足首を掴もうとしてきた腕を回避するが、やがて地面の中から大量のゴブリンが出現した。
『ギギギギッ……!!』
涎を垂れ鳴らしながら泥だらけのゴブリンの集団が出現し、その数は20や30ではなく、一気に50匹近くのゴブリンが現れてレア達を取り囲む。すぐにレアの元に他の仲間達は駆けつけて戦闘態勢に入ると、ゴブリン達は一斉に襲いかかって来た。
『ギギィッ!!』
「来るでござる!!」
「ゴブリンだからって油断しては駄目ですよ!!」
「きゅろっ!!」
襲いかかって来たゴブリンに対してハンゾウはフラガラッハを構え、リリスは懐から赤色の液体が入った硝子瓶を取り出し、サンは背中に抱えていた棍棒を振り翳す。一方でネコミンはスラミンを抱えて逃げる準備を行い、レアの方は誰も見ていないのでアスカロンとフラガラッハを引き抜く。
レイナの姿の時はデュランダルしか扱えないが、人目を気にしなければ他の聖剣も使えるため、ゴブリンを相手にレアは聖剣を容赦なく振り回す。
「邪魔っ!!」
「グギャッ!?」
「ギャアッ!?」
「ギィアッ!?」
切断力に特化したアスカロンと、攻撃力3倍増の効果を持つフラガラッハによってゴブリン達は次々と肉体を切断され、地面に倒れ込む。何人かは盾代わりに大きな石を抱えてレアに挑むが、生憎とレアの所持する聖剣は鋼鉄だろうが易々と切り裂く破壊力を誇る。
「だああっ!!」
「グギャアッ!?」
「おお、やるでござるなレア殿!!拙者も負けてはいられないでござる……辻斬り!!」
「ギャアッ!?」
ハンゾウは攻撃を仕掛ける際、相手の死角から剣を突き刺す。彼女の扱う「辻斬り」と呼ばれる戦技は不意打ちを仕掛ける事で威力が増加する戦技であり、本来は奇襲や暗殺用の戦技である。本来は乱戦などでは不向きな戦技のはずだが、ハンゾウの場合は戦闘の際でも立ち止まる事なく動き回り、相手に姿を捉えきれない速度で移動を行って不意打ちを成功させ続けた。
だが、いくらレアとハンゾウがゴブリンを切り伏せても敵の数の方が圧倒的に多く、他の者達が狙われてしまう。自称非戦闘員のリリスの元にゴブリンの群れは迫ると、彼女は面倒そうに硝子瓶の蓋を開いて周囲に放つ。
「全く、まだ試作品なんですけどね……喰らえっ!!」
『ギギィッ!?』
リリスが赤色の液体を周囲にばらまいた瞬間、ゴブリン達の身体に降りかかる。最初は驚いたゴブリン達だが、特に液体を浴びても変化はなかった。しかし、そんな彼等に対してリリスは笑みを浮かべると、マッチを取り出して火を灯す。
「それは火属性の魔石の粉末を混ぜた特殊な液体でしてね……こと特殊製の硝子から中身を出すと、ほんの少し光を浴び続けだけで発火してしまう代物なんですよ」
『ギィアアアアッ!?』
リリスが言葉を言い終えた瞬間、ゴブリン達の身体に煙が上がり、やがて液体が降り注いだ箇所が発火した。太陽の如く光り輝く光石が原因でゴブリン達が浴びた液体が反応したらしく、恐ろし勢いで全身を燃やし尽くす。
日の光程度ならば数秒程の時間で発火を引き起こす危険な液体だが、普段はリリスの言う通りに特殊製の硝子瓶の中に保管しているので特に問題なく持ち運びは出来る。だが、それなりにお金をかけて作り出した代物なので乱用は出来ず、リリスは逃げながら他の人間に語り掛けた。
「誰か余裕のある人は私を守ってください!!今回はただの調査なので戦闘用の薬剤はあんまり持ち合わせていないんですよ!!」
「きゅろっ!!任せて!!」
「ギャアッ!?」
「ギギィッ!?」
棍棒を振り回しながらサンがリリスの元に駆けつけると、彼女はゴブリンを薙倒す。小柄な身体からは想像も出来ない程の腕力で彼女は棍棒を振り回し、近づいてくるゴブリンを薙ぎ払う。ダークエルフ特有の筋力を生かしてサンはゴブリンを追い払ってリリスを守る。
その一方でリリスと同じく回復薬のネコミンの方は頭にスラミンを乗せて逃げ回り、彼女は両手にネイルリングを装着して魔爪を発動させた。獣の爪の如く構成した魔力を利用して彼女は近付くゴブリンを切り裂く。
「うにゃっ!!」
「ギャアアッ……!?」
「ギィアッ!?」
可愛らしい鳴き声とは裏腹に正確に頸動脈や眼球を切り裂き、近づいてくるゴブリンを屠っていく。その姿は正に猫というよりは虎を想像させ、戦闘を開始してから数分後には50匹近くのゴブリンの死骸が草原に横たわる。
「これで……終わり!!」
「ギャアアアッ……!?」
最後のゴブリンに対してレアは首を切り裂くと、額の汗を拭いて聖剣にこびり付いた血液を振り払う。最初は思わぬ場所からの敵の出現に戸惑ったが、所詮はゴブリンなので冷静に対処すれば問題ない相手だった。
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