第235話 階層主

「――俺達が先行、ですか?」

「そうだ。私とチイは他の部隊の指揮があるから同行は出来ないが、レア君たちには先に大迷宮に入って様子を伺って欲しい」



準備を終えたレア達の元にリルは大迷宮の調査を願い、白狼騎士団の中には大迷宮に挑む事自体が初めての人間が多い。巨塔の大迷宮に関してはリル達も初めて訪れる場所のため、不明な点も多い。


事前に情報を集めてはいるが、その情報に関しても大分前の資料を参考にしており、ここ最近は巨塔の大迷宮に挑む冒険者さえいない。本来、大迷宮という場所は素材の宝庫なので冒険者が群がる場所なのだが、この巨塔の大迷宮に関してはヒトノ帝国よりも危険度が高く、挑む冒険者さえいない有様だった。



「巨塔の大迷宮の近くに村や街が建設されない理由は利益がないからだ。普通、大迷宮という場所は様々な素材が手に入るのだが、この巨塔の大迷宮に関してはその素材を入手するのがあまりにも困難なんだ」

「困難?」

「一つ目の理由は魔物の数が他の大迷宮と比較にならないほどに多いからだ。ヒトノ帝国の大迷宮は魔物との遭遇率は決して低くはなかったが、この巨塔の大迷宮の場合は10歩歩くだけで魔物と交戦するとまで言われている」

「そんなにたくさんの魔物がいるんですか?」

「ああ、しかも奴等は決して共食いはしないが他の種族に関しては見境なく襲いかかってくる。つまり、巨塔の大迷宮に入り込めば私達は奴等にとっては只の餌に過ぎない。地上の魔物と違って恐れを抱いて襲いかかってこないという事態には陥らないから厄介だぞ」



リルとチイの説明を受けてレアはこれからとんでもない場所に赴くのだと知るが、ここである事を思い出す。ある方法を利用すれば大迷宮内でも安全に移動できるのではないかと考えるが、その方法を話す前にリルとチイは幕舎から抜け出す。



「今日1日は私達は動く事はない。外で砦の建設を行っておく、君達には負担を掛けるが他に頼れる人間がいない以上、私達の未来は君に任せるよレア君」

「お前とは色々とあったが、その……信頼はしている。ネコミンとハンゾウを頼んだぞ」

「えっ?なんで私の名前がないんですか?ハブられてるんですか?」

「いや、リリスの場合はなんというか……仮に骨だけの状態になっても生き残りそうだから大丈夫かと思って……」

「どんな言い訳ですか!!私はスケルトンじゃないんですよ!?」



チイの言葉にリリスは憤慨するが、ともかく巨塔の大迷宮に最初に挑むのはレア達だと決定した。リルはレアにネコミン達の事を任せると、無事に帰ってくる事を祈った。



「危険だと思ったらすぐに引き返してくれ。それと、今回は第一階層の探索だけでいい。上の階層に繋がる転移台を発見するだけでも上々だ」

「巨塔の大迷宮の第一階層は……確か、草原のような場所に繋がっているんですか?」

「ああ、だが気を付けて欲しいのは美しい草原のように見えても実際の所は巨塔の大迷宮の内部である事は違いないんだ。移動出来る範囲は限られているし、草原という性質上、身を隠す場所も少ない。逆に言えばその分に転移台の位置も分かりやすいと思うが……まあ、頑張ってくれ」

「もしも1日以内に戻ってこなければ私達も救援に向かう。その時はどうにか持ちこたえるんだぞ」

「うん、分かった。一応は聞くけど、第一階層にはどんな魔物が出るんですか?」

「第一階層の場合はゴブリン種が支配している。通常種のゴブリン、上位種のホブゴブリン、稀に亜種のゴブリンも確認されている。だが、一番厄介なのは階層主のゴブリンキングだろう」

「階層主……?」



初めて聞く単語にレアは疑問を抱くと、リリスが代わりに説明を行う。



「大迷宮の階層にはそれぞれ「階層主」と呼ばれる特殊個体が生息するんです。迷宮の守護者というべき存在ですね」

「ゴブリンキングか……どんな奴なんですか?」

「とにかく大きいゴブリン、私達も一度だけ見た事があるけど凄く大きかった」

「巨人族を上回る巨体、それでいながら非力なゴブリンとは思えない程の怪力、更には厄介な事に知能も高い。敵にすれば間違いなくガーゴイルやゴーレムの比ではない相手だろう」

「そんなにやばいんですか!?」



ゴーレムもガーゴイルもレアからすれば恐ろしい相手だが、ゴブリンキングの場合はそれを上回るらしく、そんな存在が待ち受ける階層に今から自分達が挑む事を知ったレアは緊張を隠せない。だが、ここまで来た以上は引き返す事は出来ず、ここはケモノ王国のためというよりもリル達のために頑張る事にした。


幸いと言うべきかこちらにはクロミンとサンも存在し、この2匹を変身させれば大抵の相手は打倒できると考えられる。もしもゴブリンキングが現れた場合はこの2匹のどちらかを元の姿に戻す事態に陥るかもしれない。



「では、健闘を祈る。無事に帰ってくる事を祈っているよ」

「分かりました……皆、出発の準備はいい?」



レアは念のために振り返って確認すると、全員が頷く。そして遂にレア達は巨塔の大迷宮の攻略のために動き出した。

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