第234話 巨塔の大迷宮へ到着

――サンの提案によってレアが作り出した「ストレージバック(正確には異なるが)」の存在をリルは明かし、彼女はこのような事態を予測しておいて事前に鞄の中に食糧を用意していた事を告げる。


騎士団の団員達は当然だが驚き、同行していたライオネル大将軍が派遣していた兵士達も同様の反応を示す。だが、リルは事前に考えていた言い訳を行い、ストレージバックに関しては大迷宮の攻略の際に見つけ出した事、そして食糧に関しては旅の道中で事前に万が一の場合を考えて自分が稼いでいた金銭で購入していた事を知らせた。


リルは潜伏中は白銀級の冒険者としてそれなりに稼いでおり、それにレアも加入するようになってからは旅の間で相当な額の貯蓄をしていたと告げる。実際の所は急ぎ旅だったのでお金を貯める余裕もなかったのだが、現にストレージバックの中には大量の食糧が保存されていたので他の者達も話を信じるしかなかった。



「私がストレージバックの存在を隠していたのは、この鞄の存在を知れば多くの者がこれを欲するだろう。だが、このストレージバックを見つけ出したのは私ではない、勇者レアが見つけ出した物だ。即ち、ストレージバックの所有権は彼にある!!」



王女であるリルがストレージバックの存在を王家に隠していたのは問題があるが、勇者であるレアの所有物となると話は別である。ストレージバックはそもそも過去に召喚された勇者が作り出した代物でもあり、元々は勇者のために作り出された道具である。ならば今代の勇者であるレアが所有するのが道理だと語った。



「このストレージバックは本来は勇者の手助けのために作り出された道具、即ち勇者のためだけの魔道具だ!!だからこそストレージバックの所有者として勇者レアが相応しいだろう!!私は自分の利を独占するためにストレージバックの事を隠していたわけではない!!」

「な、なるほど……」

「そういう理由だったのか……」

「確かにそれならば仕方ないか……」



リルの説明に団員たちも納得し、ストレージバックの所有権はあくまでもレアに存在する事を認めた。同行していたライオネル大将軍の兵士達も納得するが、流石にこの件は国王に隠し通す事が出来ず、報告する必要がある。


だが、国王がストレージバックの存在を知ったとしても所有者が現在は保護している勇者のレアである以上、無理やりに取り上げる事は出来ない。レアは国王の配下ではなく、あくまでもケモノ王国の助けになるために来てくれた存在なのだ。もしもレアの機嫌を損ねるような行為は出来ない。



「このストレージバックには私達が集めておいた食糧を保管している!!計算した結果、失った分の食糧と同程度の食糧は確保していた。だから旅はこのまま続行し、当初の予定通りに我々は巨塔の大迷宮を目指す!!」

『おおっ!!』



食糧が確保してあるのならば団員達の不安は消え去り、リルの号令によって白狼騎士団は士気を取り戻す。そして王都を出発してから10日後、遂に目的地である巨塔の大迷宮へと白狼騎士団は到着した――






――巨塔の大迷宮という名前の通り、辿り着いた目的地にてレアは巨大な建築物を目にした全長が1000メートルを超える巨大な建物が存在し、そのあまりの大きさにレアは圧倒される。それは他の団員達も同じであり、彼等は遂に自分達が誰も踏破した事がない大迷宮へ挑むという事を自覚した。



「これが巨塔の大迷宮……凄い」

「ああ、私達も見るのは初めてだ……」

「でっかいでござるな~」

「いったいどうやって建てたんでしょうね、これ……巨人族が数千人存在しても作り出すのにどれだけの時間が掛かる事やら……」

「きゅろろっ……(←見上げ過ぎて首が痛くなった)」

「ぷるぷるっ……(←サンの首を優しく撫でる)」

「圧倒されるのも無理はないが、これから私達はこの建物に挑むんだ。気を抜くんじゃないぞ、ここから大迷宮の攻略が始まるんだ」

「「ウォンッ!!」」



騎士団の戦闘を歩いていたレア達はあまりの「巨塔」に圧倒されるが、リルの言う通りにこれから自分達は巨塔の大迷宮を挑む事を強く意識し、まずは一か月近く過ごすための陣地の設営を行う。


大迷宮の周囲は草原が広がり、少し離れた場所には川が流れていたので水の確保に関しては問題はない。また、大迷宮の周辺は見晴らしの良い草原のため、敵襲があったとしても直ぐに反応できる。念のために陣の周囲には策と空堀を作り出し、用心のために見張り台も用意しておく。


万全の準備が整うと、同行していたライオネル大将軍の兵士達は、無事に白狼騎士団が巨塔の大迷宮へ到着した事を知らせるために引き返す。残された白狼騎士団はこれからは大迷宮へ挑み、本格的な攻略を開始する事になる。まずは部隊を分けて準備を行い、そして巨塔の大迷宮へ最初に挑む事になったのは「勇者隊」だった。

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